第26話 図上演習
アルベルトは休憩の後、全員を集めて、図上演習、すなわち地図と駒を用いたシミュレーションを行う事にした。戦車を用いた訓練を中隊主力が待ち伏せしている状態で派手に動くことができないからだ。
「訓練を2つします。防御と斥候に着いてです。1つは隠密状態からの待ち伏せ攻撃、2つ目に斥候に着いてです。待ち伏せ訓練の方は追加で現地で陣地を構築して行います。全員がかかわる事なので真剣に取り組んでくれる事を期待します」
そう言ってアルベルトは地図を開けた。
「森の北側出口から50mほど入った地点の右側の森に陣地を構築します。もちろん偽装もします。狙うのは侵攻してくる戦車部隊の大隊本部班です。ルクレール伍長は敵の指揮戦車を機関銃手は敵の士官を主に狙ってください。残りの歩兵の皆さんは敵の対戦車火器を扱う将校や兵士を見つければ集中してこうげきしてください。バルデン先任軍曹は大隊本部に配置されている戦車を優先して破壊してください。破壊後は森の中を逃げます。敵の逆襲が怖いですからね。歩兵を皆さんを収容後、汎用装軌車両から撤退です。その後にルクレール伍長、バルデン先任伍長と私の指揮戦車が撤退します。森の中です。戦車の車体を埋めておいて後方から戦車を入れます。脱出時には前向きに森の中を走れるようにしたいと思います」
アルベルトは駒を動かしながら森の中を移動しているイメージを全員に与えている。
「細かな所は現地に行ってから確認します。もう1つは斥候に着いてですね。これは 基本的に教本通りに行います。私の指揮戦車とアリエッタ・クローチェ義勇兵伍長の指揮する汎用装軌車両班で先陣を切り、50m離れた所で停止、安全確認を行った後にエル・バルデン伍長の指揮する残りの部隊を指揮戦車と同じ場所まで移動します。これを繰り返して斥候の任務に就きます。何か質問はありますか?」
すかさずルクレール伍長が手を上げる。
「指揮戦車が先頭では防御力と戦闘能力で不安です。指揮官が倒れたら、どうするのですか?」
「マルク共和国の斥候部隊の下級指揮官は指揮官戦闘と決まっていますからね。こればかりは仕方ありません。もちろん指揮戦車には情報将校も乗ってもらいます」
エレナ・ワークス情報将校は妖艶な笑みを浮かべる。
「仕方ないわね、司令部付き情報将校としてつけられたのだから隊長から離れる訳にはいかないわよね。了解よ」
「ワークス中尉殿、ありがとうございます」
「バルデン義勇兵先任軍曹、ルクレール伍長と汎用装軌車両第2班の指揮を任せます。敵が来たら逃げてくださいね」
「はい。分かりました」
アルベルトは微笑む。
「理解してくれてありがとうございます。それでは最後に突撃隊形の説明だけします。指揮戦車を軸として、右側にルクレール義勇兵伍長、左側にバルデン義勇兵先任軍曹、その戦車同士の間に汎用装軌車両を横に並べて入ってください。やりたくはありませんが敵の上級司令部を奇襲するための体形です。そう言う事もあると頭に入れていおいてください。突撃時は基本的に歩兵の下車戦闘は考えていません。これにて訓練は終了です。森の北側出口にに向かうために必要な食料、工具、弾薬、燃料を積みんでパソ村での補給と訓練を終わりたいと思います。車両と装備を持って集合してください。解散」
アルベルトは解散して、装備と車両を取りに行こうとしたバルデン先任軍曹を呼び止める。
「エル無理や辛い仕事を押し付けてすまない。先任軍曹であるエルの活躍で部隊の生存率が変わるからね。無理は承知で頼んでいる。どうか辛く当たるのを許して欲しい」
そう言ってアルベルトはバルデン義勇兵先任軍曹の髪の毛をなでるのであった。
「そう言う事だったんですね。」
エルは嫌がるそぶりを見せずに嬉しそうに微笑む。アルベルトがエルと呼んで特別扱いをしてくれるのは先任軍曹だから。でも信頼してくれているだよね、私だけ特別なんだよねと何か喜びがあふれて来るのだった。
「ごめん、時間を取らせたね。僕は指揮者を取りに行くよ。また後でね」
「はい」
嬉しそうに返事をするバルデン義勇兵先任軍曹だった。
続く
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