第7話 交戦

 野戦車の助手席に乗り込み、2列縦隊で行進する戦車中隊を率いる男性がいる。

 レイマーク帝国の皇位継承権第4位の地位を保持するギルバート・フォン・レイマーク大尉だった。23歳の若者であると同時に、自身で大きな戦果を挙げて、自身の皇位継承権を上げなければならない立場いる野心家である。 

 皇位継承権の1位は長男であり、内政の手腕とたぐいまれなる戦略眼の持ち主であるクライスト王子の座は揺るがないと見られている。

 次男、三男は謀略や外交に手腕を発揮しており、皇位を争わない事を表明をしている。忠誠心をギルバート皇太子に見せている。

 クライスト王子の唯一の欠点は戦術面での軍事的才能であると言われている。

 前線で戦い英雄的な行為を行っていないために、兵士や下級指揮官の中には毛嫌いしている者たちもいる。

 戦略面での手腕は確かで、補給を整え、敵の弱点を突く場所に兵員を集めて、適切な人事を行い、戦争を遂行し、国力をしかして必ず勝利する。そのために戦略面を担当する統帥本部からの支持は強く、上級指揮官たちのからの信頼は厚い。

 クライスト王子に英雄的な戦果を挙げていないと言う一点を突き、ギルバートは類まれなる戦術家として、評価を上げて、軍部の支持を得て皇位を争い皇帝になろうとしている。。

 野戦車の後部座席から中隊先任軍曹がギルバートに声をかける。

「大尉殿、正気ですか。歩兵の援護も受けない、純粋な戦車中隊だけの戦果で戦争が終わる訳がありません」

「何、騎兵戦車の快速と騎兵たるは攻撃的であれと敵の弱点を着くのだ。勝利は目前である」

「そろそろ、ミューズ河の渡河点です。斥候を出さなくて大丈夫ですか?」

「慎重になる事も時には大切だが、騎兵の快速性はそれより優先される。突撃渡河を行う。全車我に続け」

 高揚した様に野戦車に取り付けられた無線機を扱う無線手は各車に突撃渡河を伝える。無線手の表情はまるで英雄を見るかの様だった。


 アルベルトは森の再縁部に出していた斥候のおかげでギルバートの中隊が迫ってきている事をいち早くつかんでいる。

 これは森の中に偽装した電話線を引いていたためである。

 しかし、いくつかの不安要素がアルベルトの中にはある。

 まずは偽装を優先したために訓練を一切行っていない事、義勇兵の勇気、指揮所にいる自分が指揮をしていない戦車の砲手が的確に攻撃を行ってくれるのかだった。

 猫型戦車は小型のために専属の無線手は乗っていない。 

 車長でもある自分が指示を出さなくても攻撃できるかは自身が無かった。

 しかし、それでも敵はやってくる。

 アルベルトは第201戦車中隊に敵の進行を報告している。

 返答は固守せよだった。

 敵の戦車部隊が見える。

 野戦車が先頭だった。

 アルベルトは各陣地に配置された無線手達に向かって静かに告げる。

 「発砲準備」

 敵の野戦車が川の中央に来る。

 敵の戦車部隊は川に入っている。

 ここら辺が限界だなとアルベルトは決意すると命令を出した。

 「全部隊発砲開始。マルク共和国の敵を殲滅せんめつせよ」

 予定されていた通りに猫型戦車は20ミリ機関砲の祭り太鼓の様な小気味の良い   音を立てて、快速戦車の薄い側面装甲を打ち抜いていく。

 機関銃班は野戦車を狙っていた。

 無慈悲にも野戦車のドライバーと無線手の頭を打ち砕く。

「レイマーク大尉殿、姿勢を低くして後退を、後は戦車中隊に任せましょう」

 どこん!

 マルク共和国の対戦車砲を火を噴き、左側を進んでいた戦車を爆発させる。その戦車を避けて横に広がろうとした所を、対戦車特技兵である軍曹の対戦車ロケット弾の一撃が戦車の装甲を貫き弾薬を誘爆させた。壊れた戦車が障害となり、簡単にレイマーク帝国軍の戦車は勧めなくなっていた。そこを側面と正面から20ミリ機関砲と対戦車砲の攻撃により、急速に戦闘を継続できる戦車が少なくなっていった。

レイマーク軍の戦車は攻撃する目標も分からずに、前進も更新もできずに打ち減らされていった。破壊された戦車を降りた搭乗員は、義勇兵の持つサブマシンガンの雨にさらされている。

「レイマーク大尉殿、このままでは危険です、姿勢を低くして私に付いて来てください」

「ちっ、分かった。残りの戦車は損傷を受けた戦車を乗り越えて攻撃を続行せよ」

 無線を握ったレイマーク大尉が指揮下の戦車に伝えて、自身は先任下士官に先導されて後退して行く。

 最後の残ったレイマーク帝国戦車中隊第三小隊の三両はが味方の戦車を乗り越えようとするとサブマシンガンや機関銃が車体を叩き、乗員が逃亡する事になる。残った一両はバルデン伍長の戦車に破壊されたのだった。

 全体を見ていたアルベルトは無線機に向かって、打ち方やめの命令を出した。

 こうして、戦局に一切の影響を与えない防衛線が終わるのであった。

      

                                   続く

                                                     

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