AIはざまあされる残念ヒロインの役を演じる

玄未マオ

入力

『◯◯◯◯・◯○◯◯◯◯! 貴様の悪辣あくらつさには愛想が尽きた。王太子の名をもって今ここにそなたとの婚約破棄を宣言する!』


 ◯◯が使われているところのファーストネームファミリーネームには何百万もの選択肢がある。フランス風、ドイツ風、英国風、等々。対象者の頭の中を精査してふさわしいテイストを選んだ後、ランダムにあてられる仕組みとなっている。


 冒頭に当てられるセレブ男子のセリフもいくつかのパターンが用意されている。


 現実ではありえない非常識宣言の後、言われた相手の様子も次々入力していく。


『毅然とした態度』

『朗々と響く声』

『美しく結い上げられた豊かな御髪』

『レースや宝石がちりばめられた豪華なドレスとアクセサリー』

『扇を開く優雅な所作』

『非の打ちどころのないカーテシー』


 王族を除けばトップクラスの家門のご令嬢というお立場だ。


 さらにその後の展開。

 パターンAー抵抗むなしく命を奪われた(処刑)のち過去に巻き戻る

 パターンBー国外追放の後、特技を生かし事業立ち上げ、あるいはスローライフ。

 パターンCー別の男からの求愛、男は幼なじみだったり、血のつながらない義理の兄弟だったり、隣国の王族だったりする。


 大まかに上げるとこんなものだろう。

 これらのパターンがさらに枝分かれし、展開は数千通り以上ある。


 さらに令嬢と婚約破棄したセレブ男子が、失った後で彼女の価値に気づき後悔するエピソードも外せない。自分をふった男に改めて自分の価値を見せつけ傷ついたプライドをいやそうとする心理は、現実でもバーチャルでも必要不可欠なのだろう。


 現実では必ずしもうまくいくとは限らないが……。


 ここまで入力してから、私はコーヒー休憩のため席を離れた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る