第2章 武器を求めて
第12話 武器をそろえよう!
数週間迷宮での効率的な攻略が続いた結果、イリスたちは驚くほどの資金を短期間で貯めることに成功した。
イリスは満足げに資金の山を確認した後に宣言した。
「これで私の計画をかなり前倒しにできるわね。次は隣接する山岳都市ヒョウガノ王国に向かうわよ。」
ノアは少し首をかしげて問いかける。
「何しに行くんだ?」
「資金が貯まったから、魔王と戦うための武器を作りに行くのよ。」
その言葉を聞いた瞬間、オスカーは慌てて手を挙げた。
「ちょっと待て!その資金は7割を俺がもらう契約だろう?それを渡したら、武器を作る資金なんて残らないんじゃないか?」
イリスは不敵な笑みを浮かべ、オスカーの顔をまっすぐに見つめながら答えた。
「確かに、報酬の7割を渡すとは言ったわ。でもね――武器を作る費用は、パーティで稼いだ資金の『経費』として扱うの。」
「……な、何だと!?」
イリスは涼しい顔で続ける。
「だから、武器の費用は経費で先に使わせてもらうわ。その上で、残った分から報酬として支払う。契約はそういう解釈で成立してるわよね?」
オスカーの顔が一瞬で青ざめ、声を荒げる。
「そ、それは……詐欺だろ!あんた詐欺師だろ!」
「いいえ、契約は成立してるわ。残念だったね。」
にやりと笑うイリスの態度に、オスカーは地団駄を踏みながら叫んだ。
「くそっ、やられた……!」
そんなやり取りを聞きながら、ノアはふと疑問を口にした。
「ところでさ、何で武器を作るためだけにヒョウガノ王国まで行かないといけないんだ?この町の鍛冶屋ではだめなのか?」
イリスは振り返り、誇らしげに答える。
「それはね――ヒョウガノ王国には、この世界最高の鍛冶職人たちと素材が集まっているからよ。特に、過去に魔王に対抗するための聖剣を作った一族が、あの国にいる!私たちはその人たちに最強の武器を作ってもらいに行く!」
「へえ、そんな生ける伝説がその国にはあるのか。」
ノアが感心した様子で頷くのを横目に、オスカーは未練がましく呟いた。
「それは分かったけど、俺の7割の報酬……結局ほとんど残らないじゃないか。」
イリスは笑みを浮かべたまま、迷いなく言い切った。
「いいえ、魔王を倒すための装備は全員の命を守るための投資なのよ。これは何十倍にもなって帰ってくるわ。ノアがさらに強くなることを想像してみて?」
その言葉に、オスカーは少し考え込みながら呟いた。
「ノアが……今以上に強くなる?」
イリスは勢いよく頷き、力強く続けた。
「そうよ!ノアがもっと強くなれば、さらに上の迷宮を周回できるようになるでしょ?そこで手に入る宝箱の中身や魔石の価値を考えてみて。どれだけ稼げるか、想像してみなさい。」
その一言で、オスカーの脳裏には輝く金貨の山が浮かび上がった。
「……今以上の迷宮で周回することができる……!」
「そう!」
オスカーは自分に言い聞かせるように小さく呟いた。
「……これは未来に対する投資だ。そうだ、これは投資なんだ……。」
その言葉を聞き逃さなかったイリスは、満足げに微笑みながら答える。
「ええ、正しい選択をしたわね。」
一見何事もないやり取りに見えたが、隣で見ていたノアの視線は鋭くイリスに向けられていた。
(……最初にオスカーを詐欺師呼ばわりしてたけど、本当の詐欺師ってどっちなんだろうな。)
ノアはふとそんなことを考え、イリスの方を見る。その瞬間、彼女がほんのり口角を上げているのを見て、背筋に寒気が走った。
イリスは相変わらず自信満々の態度を崩さず、旅の準備を進める指示を出している。だが、ノアには初めてイリスが本当に恐ろしい存在に見えた。
「ノア、準備はいいわね?」
イリスが笑顔で問いかけると、ノアは反射的に背筋を伸ばしながら頷いた。
「あ、ああ、もちろん。」
こうして、オスカーは「納得」という名の諦めに至り、ノアは妙な恐怖を胸に抱えながら、三人は新たな目的地であるヒョウガノ王国への旅立ちを決定した。
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準備を整えた一行は、馬車でヒョウガノ王国へと向かった。だが、その道中はかなり単調で、やることがほとんどなかった。
退屈な時間を過ごしている中で、ノアの頭にふとした疑問が浮かぶ。
「そういえば、商人ってどうやったら強くなれるんだろうな?」
その問いにイリスとオスカーが顔を見合わせたが、特に答えは出てこない。ノアは真剣に考え込み、やることがなかったこともあって、オスカーが強くなれそうな方法を探し始めた。そして――彼なりの結論にたどり着いた。
「オスカー、これを試してみろ。」
ノアは自信満々に提案し、オスカーに手渡したのは何本かのポーションと銀貨だった。
「なあ、これ本当に意味があるのか?」
オスカーは眉間に皺を寄せながら、半信半疑で手にしたものを見つめる。
ノアはいつもの真剣な顔で答えた。
「師匠が言うには、ただ繰り返せば必ずその努力は結ばれる。そして俺もそうなった。」
カチャカチャ……
オスカーはポーションを銀貨でノアに売り、次にその銀貨でまたポーションを買い戻すという行動を繰り返す。
「いや、言いたいことは分かるけど、それって戦闘に限った話じゃないのか?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも、この世界に無駄なことはないんだ。」
ノアは熱っぽく語り始める。
カチャカチャ……
「分かるよ!初めは信じられないのは、あまりにも成長してる実感がないからだ。でも、繰り返すんだ!ただ何も考えずに繰り返すことが重要なんだ!」
その熱意に押されながらも、オスカーは渋々続ける。
カチャカチャ……カチャカチャ……カチャカチャ……カチャカチャ……
がついに耐えられなくなって叫んだ。
「……それにしても頭おかしくなるわ!なんだよこれ!ポーションを銀貨でお前に売りつけて、その銀貨でまたポーションを買い付けるだけじゃないか!これ、何がしたいんだよ!」
それを聞いていたイリスは口元を手で隠しながら、少し笑みを浮かべて言う。
「もしかしたら、意味があるかもしれないわよ?頑張ってやってみたら?」
「イリス!絶対楽しんでるだろ!」
オスカーの声は馬車の中に響き渡り、イリスは笑いを堪えきれずに腹を押さえてうずくまりながら笑い転げた。
その様子を見たノアは真面目な表情を崩さず、淡々と励ますように言った。
「そうだ、オスカー。繰り返せば必ず結果が出る。俺の師匠もそう言ってた。信じてやり続けるんだ。」
「こんなことで強くなるわけないだろ!もういい……分かったよ……!」
オスカーは半ばやけくそで、ポーションと銀貨の無限ループを続ける。その光景を見ていたイリスは、どこか微笑ましそうに眺めていた。
こうして道中の退屈さは、ヒョウガノ王国に到着するまでの間続き、ノアのとんでも理論とオスカーの悲痛な叫びによって吹き飛ばされたのだった。
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