第2話 セロトニンの探索
光はリナとともに、「セロトニンの泉」を目指して草原を進んでいた。広大な自然が目の前に広がり、頭上には雲ひとつない青空が広がる。だが、それでも光の心には焦燥感と不安が渦巻いていた。
「ねえ、リナ。この泉って本当に僕に何かを変えてくれるのか?」
リナは振り返り、穏やかな笑みを浮かべた。「泉そのものが奇跡を起こすわけではありません。泉に触れるには、まず自分の心を穏やかにし、自然と一体になる必要があります。それができたとき、初めて癒しの力を受け取れるのです。」
「自然と一体……どうやってそんなことを?」
「まずは体験してみましょう。言葉で説明するよりも、行動して感じるほうが早いですから。」
道中、二人は小さな森に差しかかった。森の入り口には、何かしらの結界のようなものが薄く輝いていた。
「ここを通らないと泉にはたどり着けません。でも、簡単には通れませんよ。」
リナの言葉に光は身構えた。「どういうことだ?」
「森は心を乱す者を拒むのです。この結界を越えるには、まず自分の心を落ち着ける必要があります。」
リナに促され、光は森の入り口に立った。そして試しに一歩を踏み出そうとしたが、途端に胸が苦しくなり、足が前に進まなくなった。
「なんだ、これ……?」
リナは笑みを浮かべて説明する。「あなたの中にある不安やストレスが、この結界に反応しているのです。深呼吸をして、自分の心と向き合ってみてください。」
光は言われるがまま、ゆっくりと深呼吸を始めた。最初はぎこちなかったが、何度か繰り返すうちに、森から流れる風が心地よく感じられるようになった。そして、気がつくと結界を越え、森の中に立っていた。
「やった……!」
「心を穏やかにする力が少しずつついてきましたね。その調子です。」
森の奥へ進むと、不穏な空気が漂い始めた。木々の間から黒い霧が立ち込め、低い唸り声が響いてくる。
「この気配……アンバランスの使いだわ。」リナが険しい表情を浮かべた。
「アンバランス?」
「心と体の調和が崩れた存在です。人間が抱える不安やストレスの影響で生まれ、この世界を侵食しようとしています。」
すると霧の中から現れたのは、黒い羽毛に覆われた巨大なカラスのような怪物だった。その目は血のように赤く輝き、鋭いくちばしを光に向けて突き出してきた。
「どうするんだ!?戦うのか?」
リナは冷静に答えた。「あなたの心を穏やかにすることが鍵です。この世界の力を信じて、呼吸を整えて。」
光は恐怖に駆られながらも、リナの言葉に従い深呼吸を始めた。すると、不思議なことに周囲の風景が少しずつ明るさを取り戻し、怪物の動きが鈍くなった。
「いい感じです。そのまま集中を続けて!」
光は怪物を真正面から見据え、心を落ち着けようと意識を集中させた。すると、自分の手のひらが暖かく光り始め、そこから穏やかなエネルギーが放出された。その光が怪物に触れると、黒い霧が薄れていき、ついには消え去ってしまった。
「これが……癒しの力……?」
「そうです。心を整えることで、周囲のアンバランスも整えられるのです。」
森を進んでいく中で、光はかすかな助けを求める声を耳にした。
「……誰か、助けて……」
声の方へ向かうと、大きな木の根元に女性が横たわっていた。彼女は長い緑の髪と優しい顔立ちをしており、薄いオーラをまとっていた。しかし、力を失ったようにぐったりしていた。
「大丈夫ですか!?」光は駆け寄り、彼女の体を支えた。
彼女は微かに目を開け、弱々しい声で言った。「私はセロナ。この森を守るヒーラーです……でも、アンバランスに力を奪われてしまい……」
リナはセロナを見て真剣な表情を浮かべた。「この方を助けることができれば、あなたはさらなる癒しの力を得ることができるでしょう。」
「どうやって助ければいいんだ?」
「あなたがもっと自然と調和し、自分自身を癒すことで、彼女にもその力を分け与えることができます。」
光はリナに教わりながら、森の中で瞑想を行ったり、風や水の音に耳を傾けたりして、心を穏やかに保つ練習を続けた。そして、心が完全に整った瞬間、彼の手から温かい光が再び生まれた。
その光をセロナに触れさせると、彼女の体が再び輝き始め、力を取り戻した。
「ありがとう、光さん……あなたのおかげで、私も森も癒されました。」
セロナの目に感謝の涙が浮かぶ。光はその瞬間、自分が誰かを助ける力を持つことができたことに、初めて自信を持つことができた。
「これが、癒しの力……僕にもこんなことができるんだ。」
その言葉とともに、彼のエネルギーバーの「セロトニン」ゲージが大幅に増加した。
こうして、光はセロナという新たな仲間を得て、「セロトニンの泉」へさらに近づくことになった。彼の旅は始まったばかりだが、心に少しずつ希望が灯り始めていた。
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