第13話
第13節:次世代の光
1. 突然現れた若者
志倉陽(しぐら・ひかり)の研究室に、ひとりの大学院生が訪ねてきた。その名は遠藤めぐみ。理学部で遺伝子工学を専攻している、いわゆる「今どき」の学生だった。
「はじめまして、志倉教授。今日からこちらで研究を手伝わせていただきます。よろしくお願いします。」
一礼する姿勢は礼儀正しかったが、その目には生意気さを隠しきれない自信が溢れていた。
「君、遠藤めぐみさんやな。こちらこそよろしく頼むわ。」
志倉は、こういうタイプの学生にどこか苦手意識を持っていた。昔ながらの堅実な研究姿勢を重んじる志倉にとって、彼女のような若々しい勢いと自由な発想を持つタイプは、どこか制御しきれない存在に思えたのだ。
2. 生意気な質問
数日後、実験室でデータの整理をしていた志倉に、めぐみが突如問いかけてきた。
「教授、ちょっといいですか?」
「ああ、なんや?」
「これ、突き詰めて一体何になるんですか?」
その言葉に、志倉は一瞬手を止めた。
「……なんやて?」
「だから、命の残響ってやつですよ。それ、解明したところで何になるんですか?」
めぐみは、まっすぐ志倉の目を見ながら言葉を続けた。
「もちろん面白いテーマだと思います。でも、それだけじゃダメだと思うんですよ。こういうのって、何のために研究してるのかを考えて進むべきじゃないですか?」
その言葉に、志倉は少し腹が立った。
「君な、研究っちゅうのはそんな単純なもんちゃうぞ。目の前の課題を一つ一つ解いていくことが重要なんや。それが、あとで何かに繋がるんやから。」
「そうかもしれませんけど……」
めぐみは言葉を止めずに続けた。
「でも教授は、本当にこれを突き詰めた先に何を見つけたいんですか? それを知ってるなら、もっと研究も面白くなると思うんですけど。」
3. 若者の言葉に揺れる心
めぐみの言葉は、志倉の心に刺さった。70歳を迎え、自分の研究に迷いを抱いていた志倉にとって、それはまさに「核心」を突く問いだった。
「突き詰めた先に、俺は何を見つけたいんやろうか……?」
これまでの人生で、志倉は「何かを見つけたい」という漠然とした想いに突き動かされてきた。しかし、その「何か」が具体的に何であるかは、自分でも答えを持っていなかったことに気づく。
彼女の若々しい率直さは、志倉の中に隠れていた疑問を引き出していた。
4. 後継者としての可能性
その日、研究室での作業を終えた後、志倉は自宅のソファに座り、今日の出来事を思い返していた。
「遠藤めぐみ……あの子、若いくせに妙に核心を突いたことを言うな。」
彼女の言葉が何度も頭の中をよぎる。そしてふと、こう思った。
「もしかしたら、あの子が俺の研究を引き継いでくれるんかもしれんな……」
めぐみの生意気な態度の中には、純粋な探究心と強い意志が垣間見えた。それは若い頃の自分を思い出させるものでもあった。
5. 研究の終焉と次世代への継承
それから数ヶ月、志倉はめぐみとともに研究を進める日々を過ごした。彼女は生意気ながらも熱心で、命の残響というテーマに対して自分なりの視点を持っていることがわかった。
ある日、志倉は彼女にこう言った。
「めぐみ君、君はどう思う? この研究、ほんまに意味あると思うか?」
すると彼女は、少し微笑みながら答えた。
「意味があるかどうかなんて、最後までわからないんじゃないですか? でも、教授が信じてるなら、私はその続きを見たいと思います。」
その言葉に、志倉は静かに頷いた。
「ありがとうな……君みたいな若い子がおると、俺もまだやれる気ぃになるわ。」
6. 終焉を迎える時
その後、志倉は自身の研究の第一線から徐々に身を引く準備を始めた。自分の後を継ぐ者として、めぐみがその役割を果たしてくれるだろうという確信があったからだ。
「俺が命の残響を追い続けた時間には意味があった。あとは、次の世代がその続きを見つけてくれる。」
70歳を超えた志倉にとって、それは安堵と希望が入り混じった感情だった。
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