#05君があまりにも優しく笑うから 守りたくて体を鍛えたらヒョロ専だと捨てられたけど美少女から次々告られて眠れない夜も寝れたのでこのまま鍛え続けますプロテイン献上されてももう遅い(ラブコメ)

 ここまで体を絞るのに、眠れない夜もありました。ヒョロガリだった僕を庇う君があまりにも優しく笑うから

 今度は僕が、君の笑顔を守ると決めた――



「あんたバカァ?」



 藤崎愛奈にふられた。鬱っ! ツインテールがかわいいよ。高校生にもなってツインテールが似合うのは彼女くらいだと思うんだ。3Lサイズのカーディガンをわざわざ羽織って萌え袖にしてる小柄アピールかわいい!でも僕にはもう見えるんだ、大胸筋は嘘をつかない――たゆまぬ努力筋トレでおっぱいは出来る!だが振られた。


「ハァーーーーっ ショック……なんで? 線細・色白・色素薄い系儚げ男子だったのにぃっ。なんでゴリゴリマッチョ褐色肌になっているのよっ。愛奈ちんぼつ」


 小学校を卒業して引っ越し以来、三年ぶりの再会でした。高校は学区が自由になるのでね!


「中学はマッスル部に入って鍛えたんだ。愛奈は何味? 僕はミルクティー」

「ベリーショコラ一択……ってプロテインの趣向聞き出そうとしてんじゃないわよっ」

「ふふっ プロテインとは一言も言ってないけどね」

「キモっ」


 窮するととりあえずキモいっていうタイプかー。よくあるよくある。どんまい。

 その時だった。教室の外からなにかシュルシュルシュル……と次第に大きくなりゆく音が聞こえ、窓を突き破って何か入ってきた。円盤だ!

 

 ウワアァァ、ギャアアァ、と阿鼻叫喚の声が教室中に響く。ただし衝撃波にも僕の体幹は揺るがない。筋肉があるから。

 円盤に扉が表れ開かれる。出てきたのは猿だった。猿というか――ゴリラ!

 ……まずい。流石に僕にも冷や汗が垂れる。ゴリラといえば握力は500kg、ベンチプレスは1800kg、動物界最強クラスの霊長類だ。それにこの登場の仕方からいって知性を併せもつとすると控えめにいって人類の危機といっていい。


「類……ゆっくり、前を向いたまま、退がりなさい」


 その声に僕はハッとした。やはり一筋汗を垂らした愛奈が、足幅を一歩分開いて半身になり重心をやや後ろに構えている。

 ――これは、あの時と同じだ。

「愛奈……見ていてくれ」

 僕はスッと目を閉じ、そして開いた。 

 なんだかやけに頭が冴え渡る。全身気に満ちている。目を凝らすと白い湯気のようなものがそのゴリラから立ち昇っているのが見えた。

 ……闘気、か。僕は背を伸ばしそのゴリラに視線をしっかりと合わせた。するとゴリラもこくりと頷く。円盤は土俵のように敷かれ、僕らは向かい合った。

 ――気づけば教室は静まり返って、見守るように囲んでいた。


「始めっ」

  

 愛奈の号令が響く。ほぼ同時、ゴウッとゴリラの巨体が襲いかかった。 

「ッ……!」

 瞬時に腹筋が反応して、身を捻って躱す。ゴリラの背が見えた、機を逃さない。即座に掴み掛かった。――重い。体重は悠に三倍以上、だが


「オオオデッドリフトォォォ!」自己記録は――300kgを更新している。

  

「すくい投げたァァッ!」

 歓声が飛ぶ。ズゥン、と巨体は投げ飛ばされた。しかしわずか円盤外には届かず、むくりとゴリラは立ち上がる。僕は日々スクワットで鍛え抜いた脚力で、助走をつけ突進した。その勢いで体当たりをする。しかしその程度でゴリラはたじろがない。だが僕も同じこと。息をつかせる間もなく張り手をした。

「オラオラオラオラオラオラオラァァッ」

 

 夢中だった。焼き切れそうなほど、全身が熱い。


 心臓が、筋肉が、鼓動している。狭い。まだこの可動域の先へ――

 ブチブチブチッとボタンが弾け飛び、シャツが破れる。ビリィっとズボンが裂けた。

 キャアァ、と悲鳴が飛ぶ。しかしそれは声援だ。


「筋肉が輝いている!」

「人間ブルドーザーか⁉︎」

「その腹筋の板チョコ頬張りたい!」

「ナイス上腕二頭筋チョモランマ!」


 ヒョロガリだったこの僕が。来る日も来る日も鍛え続けた三年間が、走馬灯のように駆け巡り僕の筋肉に注ぎ込まれる。大胸筋、上腕筋、広背筋、腹直筋、ハムストリングス、いいや僕を形づくるあまねく筋肉の部位部位よ――ありがとう


「オラァァッ」


 最後の張り手が、決まる。グゴォ!と悔しげな唸り声をあげて、ゴリラの足は遂に円外へと押し出された。


「――そこまで」


 試合終了だ。


「フン……名前を訊こうか、少年」

真洲 類ます るい」 


 ゴリラが立ち上がって手を差し出す。ゴリっと、ほどほどの握力で互いに固く握手した。 

 ワアァ、と教室いっぱいに弾けたような歓声があがった。


「真洲類、真洲類!」

「キャーーかっこいい!!!」


「お前って奴ぁ、最高の筋肉だぜ!」


「ふぅ……」汗を手でぬぐうと、そこにタオルが差し出される。 

「あの、真洲くん……好きです!」

 もじもじと告白するのは鈴峰凛、朝一番にお花に水を遣る清純系美少女だ。いつも率先して行動する姿が眩しい!

「すごかった。君の筋肉は世界を魅了する。よければ事務所を紹介させてほしい」

 ナナ・ヤマキ、クラス一長身で姉御肌、モデルとして海外でも活動している。

「わ、わたしでも強くなれるかなぁ? 類くんみたいになりたい……!」

 本田詩織、一見ふわふわぽよぽよした雰囲気の図書委員、巨乳だ!そんな熱い闘志を秘めていたとは!

「うおおおーーっ俺も一緒に鍛えたい!」

 私も、わたしもと半ば勢いで女子男子の群れが押し寄せる。もちろん踏ん張り全てを受け止めた。筋肉があるから。


 弾む気持ち、抑えきれない高揚はやがて集団スクワットに変わる。

「一年B組――」

「マッスル!マッスル!」

「ウホ!ウホ!」

 恋をした。やがて筋肉は愛に変わった。


「バッカじゃないの……!」


 ただひとり、教室を出ていく愛奈。ただフックシュートで矢のように飛んできたプロテインドリンクを僕はパシリと受け止める。よくシェイクされ――なめらかだ。


 その夜は、ベリー・ショコラな夢をみた。


 あまりにも優しく笑う君は、過去か、未来か――

 この時の僕には分からなかった。君がなぜ、僕のマッスル化に悲痛な思いを抱いたのか。

 この対ゴリラ戦は、ほんの序幕でしかなかったのだ。

 


 マッスル・メモリー。筋肉は君を忘れない。




#05 君があまりにも優しく笑うから

守りたくて体を鍛えたらヒョロ専だと捨てられたけど美少女から次々告られて眠れない夜も寝れたのでこのまま鍛え続けますプロテイン献上されてももう遅い

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