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師匠に面白いものが見られるかもしれないぞ、と言われて久し振りに魔塔へ来ていた。
「もう良いぞ」
許可が出たので魔導具の発動を止める。すると目の前の壁がパタリパタリと音を立てて畳まれていく。最終的に一冊の本程度の大きさになるのを確認し、その出来に満足しながら拾い上げた。
「相変わらず天才的な発明だな。魔力探知にも引っ掛からず、物理的にも魔術的にも空間を遮断するとは」
「最高" 、傑作」
「ああ、そうだな。決して外に売るなよ」
師匠はそう言って睨むが、オレは創れたらそれで満足だ。あの露店は趣味でやっているだけで、実益は伴っていなかった。それでも時々自分の作品を手に取る人の顔が見たくなることがある。
あの二人の反応は良かった、などと考えていると、堪えていないのが伝わったのか、師匠がため息を吐く。
「はあ……。それで、お前はあの二人をどう見た?」
「王のひど、神の子、納得"シた」
「そうだな。あの魔法陣に選ばれただけある」
満足気に鼻を鳴らす様子は、オレが魔導具を愛でる時となんら変わらない。師匠だってただの魔術フリークのクセに。
「王の素質は環境を創る力。新たなルールを設定し、世界に適用させる能力。彼自身まだ気づいていないが、あれはとんでもない力だ」
本来、魔塔に施された仕掛けはあんな簡単に解けるものではない。きちんと刻まれた魔法陣と、繊細な魔力操作で練り上げたものだ。それを彼はルールを看破し、新たな魔術動作というファクターを追加していとも簡単に解いてしまった。
それも精神を乱す魔法の掛けられたあの空間の中で、一切の冷静さも見失う事なく。
「あれはきっと世界に変革をもたらすぞ。奇しくも、私が研究していた当時やりたかった事がいくつか実現するかもな?」
クスクスと嗤う師匠は幼い少女のようだ。その姿からは、彼女が人と魔族が衝突する切っ掛けを作った、初代魔王とはとても想像できないだろう。
「勇者ガ、さセなイ」
「ふふ、そうだろうか? 気付かなかったかい? 彼も王の子と同じ、異界の魂を持っているよ」
驚きに、フードの中で目を丸くする。師匠は悪戯っ子のようににんまりと目を細めた。そういった猫のような表情をする時は、大抵意地の悪いことを考えている時なのだ。
「多分何かの拍子に上位世界から溢れてしまったのだろうね。これは私の魔法陣とは関係ないよ? しかしだからこそ彼は常人たりえぬ力を持ち、勇者として神に選ばれた。さぞかし生き辛かった事だろう」
「何ゼ、言ヮなイ?」
「言った所で何になる? 彼はこの世界で生を受けてしまった。王の子と共に異界へ渡った所で、彼に帰る場所なんて無いよ」
そう言われてしまえば黙るほか無かった。第一、自分も人との関わりに耐えられず、このエルフに匿われる形でようやく生活している身。生き辛さの理由を知らせた所で、自分では良い手本になるとは思えない。オレでは勇者に真実を伝えたとしても、慰める言葉を持たなかった。
「王の子はかわいそうだが、彼は哀れだな。どこにも無い帰り場所を探して彷徨っている。王の子が現れてようやく同胞に会えたようなものなのに、その子はいつか本来の場所に帰ってしまおうとしている」
ドワーフ最後の生き残りである君と同じ、天涯孤独の身というわけだ。からかうようにこちらへ水を向けてきた性悪エルフに、オレは久し振りに歯を剥き出して笑ってみせた。
「哀れかどうかは自分で決めるもンだ。オレは不運だが不幸だと思ったことは無い。お前がオレを救ったように、あいつらもいつか救いを見つけるだろうさ」
数十年近く発していなかったドワーフ語は、案外すんなり出た。やはり人の公用語よりこちらの方が馴染み深い。苦笑するエルフは、ようやく先代白の塔主としての顔に戻り、「救いか……それは良いな」と言って最後は優しく笑った。
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