side 魔王

 

 ジャズがギルドから出るのを確認して、おれはギルド員の男性に声をかけた。

 

「あの!おれ冒険者登録しようかなと思って来たんですけど、今の話聞こえちゃって……ランク3の依頼であんなにいっぱい討伐しなきゃいけないんですか?」

 

 周囲で聞き耳を立てていた人達に聞こえるように、あえて大きな声で話す。険しい顔でジャズの持ち込んだ袋を見ていた男性は、今気づいたようにハッとした顔でおれの方を向いた。

 

「あ、いや……今回は例外的に、依頼のランク以上の魔物が出てきただけで、こんなことは中々無いから安心していいよ」

「じゃあ、本来だったらどのくらいのランクの依頼になるの?」

「ゴブリンの巣と……報告通りならネクロウィスプも出たらしいから、少なくともランク6以上かな」

「へー! つまりあの男の人はランクが二倍の敵を倒したんだ! それじゃあ報酬も二倍になるの?」

 

 なるべく無邪気な子どもを装う。純粋にジャズを尊敬してます! という感じを存分に出して訊ねると、男性は少し困って、それから袋を見ながら若干嘲りの滲む顔をした。

 

「さあ、どうかな……まずは、事実確認しないと」

「えっ! じゃあたくさん働いたのにお金もらえないこともあるって事!?」

「いや、そういうわけじゃ……」

「でも、さっきあそこの席で話してた強そうなおじさん達が、あんないっぱいのゴブリンとネクロウィスプを倒すなんて、おれ達には無理だって言ってたよ!」

 

 「ねえねえ! おじさん達のランクって何ー?」と大声でカウンター横のテーブルにいたいかにも冒険者という装備の大男達に聞く。男達は巻き込まれて嫌そうにしながらも、ぶっきらぼうに「ランク6だ」と答えてくれた。

 

「ランク6でパーティ組んでる人達が難しい依頼を、一人でこなしちゃうなんて、あのお兄さん強いんだね!あの人達が無理なら、どのくらいのランクの人が受ける事になるんだろう?」

「それは……」

「ランク6が三人で難しいんだったら、ランク7の人が三人とかかな? でもあの人は一人で倒したから、きっともっと強いんだよね? ランク8とか9とか? 本当ならその位の人に依頼を出すのに、一体いくら必要なの?」

「………」

 

 黙り込んでしまった男性を凝視する。ただの子ども一人の質問なら、適当に流してしまう事も出来ただろう。しかしおれはずっと周囲にも聞こえるような声量で話しているし、あえてカウンターから少し身を離した所に立っているため、ギルド員の男性も小声で話すわけにはいかない。

 思惑通り周りを巻き込めていることに内心ほくそ笑む。元々ジャズが目立って注目されていただけに、この状況を作ることは簡単だった。

 

「おれ、ランクが低い依頼からちょっとずつ受けていけば良いのかなって思ったんだけど、ギルドが設定したランクが当てにならないって怖いなあ。あの依頼のランクを決めた人は誰? どうしてランク3にしたの? 行方不明の人がいるはずって言ってたけど、そういうのって調べてからランクとか報酬を決めるんじゃないの?」

 

 黙っているのを良いことにさらに畳み掛ける。男性は段々顔を青ざめさせていた。だったら良いなと思っていたが、どうやらあの依頼書を確認したのはこの人らしい。

 

 ジャズは強い人だ。少し一緒に旅をしただけのおれでも分かる、異常な強さ。

 物理的にも精神的にもきっと強い人で、だからか周りには少し無頓着だった。ギルドの中に入った時も、報告を話している時も、周囲はジャズの話を聞いて驚いたり感心したりしていた。本人は袋が臭過ぎて目立ってるなんて不満を溢していたが、ジャズ自身からにじみ出る風格が周囲の視線を集めている事には気付いていないようだった。

 

 もっと周りを上手く使えば味方になってくれる人も多いのに。そう思いながら周囲を観察していると、どうやら他のギルド員がカバーに入ろうと動き出すのが見えた。

 これ以上ややこしくなるとさすがにジャズに怒られるので、そろそろ切り上げることにする。

 

「おれ、やっぱり冒険者登録はもっと後にするよ。自分で依頼の難易度見抜けないと生きていけないもんね。たくさん準備したらまた来るから、その時はよろしくね!」

 

 今までの真面目になってきた空気を一気に払拭するような、明るく元気な声を出す。にこっと笑いかけたのに男性は怯えたようにこちらを見るばかりだ。

 

 少しやり過ぎたような気がしないでもないが、正直このくらいはしないと腹の虫が収まらなかった。まあこの様子ならきっとジャズの報酬は正当な額が支払われるだろう。おれは満足して踵を返した。

 きっと帰りの遅いおれをジャズが心配して待っている。

 

 

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