パピーとバンビ ~アイドルですがBL好きがバレて年下メンバーに秘密の関係を迫られています~

モコチッピピ

第1話:モアバタ、移動車にて

アイドルという職業は、いかなる時も光に照らされている。


例えばステージの照明。カメラのフラッシュ。ペンライトの柔らかな明かり。


好奇の眼差し。悪意の眼差し。親愛の眼差し。


隠し事ひとつ持てないほどに照らされ続けて、つねに清廉潔白であることを望まれる存在。


誇り高く、高潔な、ファンのためにある存在。


月並みな言葉だとしても、そう信じていた。


――――信じていた、のに。



「集中して。先輩」


同じグループのメンバーに、ベッドの上で恋人繋ぎのように手を絡め取られ、指にキスされている目の前の光景はどうだろう。


これはファンへの裏切り?

スキャンダル?


自身のアイドル人生の根幹を揺るがしかねない事態に、シカは今にも視界がブラックアウトしそうなほど血の気が引いていくのを感じた。



◇◇◇



ドーム球場裏手の関係者専用口からなめらかに発進した、スモーク貼りのワンボックスカー。


沿道に配置されている警備員が緊張感を持つタイミングで、ワゴンが通りがかることを知っていた客たちは一斉にスマートフォンを向ける。

道の両脇からフラッシュを浴びながら、先導車の後ろをゆるやかなスピードで走行していく。


不意に後部座席のウィンドウが三分の二ほど下り、少女が二人、寄り添って顔を覗かせた。

指でハートを作りながら微笑むと、沿道から悲鳴のような歓声が上がった。


「めみ先輩、こばと。あんまり窓から手出すと危ないから」


アイドルグループ《moreBUTTER!モアバター》――公式愛称は“モアバタ”――のリーダー、山嵜やまさきシカは二人の少女の隣席で眉をひそめる。


「だーいじょうぶですって!シカ先輩も一緒にご挨拶しましょうよ~!」


「ほら、シカちゃんもっと窓に近づいて……それともお姉さんのおひざに乗る?」


「乗りません!」


「なんならこっち向きに跨がってもいいのよ?対面ざ……♡」


「めみ先輩!百合営業の域を越えないでください!」


アイドルらしからぬ危ない単語を発した鷹城たかじょうめみも、このグループの一員である。頬を赤らめながら寄りかかられ、免疫のないシカもまた赤面しながら声を荒げる。


「スミとあやちゃん先輩もファンサしましょーよー!これだけ待ってくれてる人がいるんですよ?」


めみと一緒にハートを作っていた小柄な少女・西加羽にしかわこばとが、後ろの座席に座っている野神のがみスミと北堂ほくどうあやてに不満げな声で呼び掛ける。


「ファンサならライブで散々したやろー。出待ちは一応禁止ってことになってるんやから。マナー守った人らが損することになるやんか」


手にしたスマホを見つめながら、あやてが気だるそうに返事する。画面には今日のライブを称賛する感想ツイートが溢れ、“北堂あやて かっこよすぎ”の2単語が太字になっている。エゴサ真っ最中である。


「そりゃそうですけどぉ……スミは?何してんの?」


「やめときなってこばと。スミは……」


指を組んでうつむいたまま呼びかけに応じないスミの顔をこばとが覗き見ようとして、シカに制止される。


二人の気配に気付き、スミはBluetoothイヤホンを外しながら顔を上げた。


「すみません。明日のレコーディングの仮歌聴いてました。何の話でしたか?」


「え!?もう明日の仕事の準備してんの!?」


「相変わらずストイックだね……あんまり根詰めすぎないようにね。ほらこばと、ちゃんとシートベルトして!」


身を乗り出すこばとの服を引っ張って元の座席に押し込めながらシカが言う。


「てかドーム2days終わったばっかりなんやし、明日くらいはオフにしてほしかったよなぁ」


「マネちゃんってば鬼畜よね~」


「シカ先輩、ジュースいります?」


車内が別の話題に切り替わってもなお、スミの視線はシカに向けられたままだった。


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