影のフォロワー

あまねこ

序章 フォロワーとの出会い

奈央はいつものように仕事帰りに立ち寄ったカフェで、ラテを片手にスマホを開いた。彼女にとって、SNSは日々の楽しみの一つだ。

通勤途中や休日に見つけた風景を写真に収めて投稿するのが趣味で、今日も昼休みに投稿したばかりの一枚を確認する。写真は、公園のベンチに落ちた鮮やかな赤と黄色の落ち葉。温かみのあるフィルターをかけたその一枚は、いつもより多くの「いいね」を集めていた。


「また増えてる…!」

通知欄を見ると、見知らぬフォロワーからの「いいね」やコメントが次々と表示されている。写真を投稿するとこうして反応が返ってくる。奈央はその瞬間が何より好きだった。


フォロワー数はおよそ2,000人。特別多いわけではないが、趣味として始めたにしては十分だと思っている。それでも、数字が増えていくのを確認するたび、どこか胸が弾むのを感じる。


「次はどんな写真を撮ろうかな」

奈央はカフェの窓越しに見える街の景色に目を向けながら、スマホを指で軽くなぞる。


最近、奈央のフォロワー数は少しずつ増え始めていた。最初は投稿を見た人が偶然フォローしてくれたのだと思っていたが、ここ数日は新しいフォロワーが急激に増えている。


「最近、やたら増えるなぁ…何かのバズった効果かな?」

カフェでスマホを眺めながら、奈央は不思議そうにつぶやいた。コメント欄にも知らないアカウントからの書き込みが増えている。嬉しい気持ちと少しの戸惑いが入り混じる中で、ふとフォロワーリストを確認してみた。


そこで目に留まったのは、一つの異様なアカウントだった。

名前は「影のフォロワー」。アイコンは真っ黒な四角形だけで、投稿は一つもない。プロフィール欄も空白。奈央がその名前を見たとき、なぜか背筋に冷たいものが走った。


「なんだろう、このアカウント…」

気味が悪いと思いつつも、奈央は特に気にしないことにした。フォロワーが増える中で、こうした無個性なアカウントが現れるのも珍しいことではない。


だが、そのアカウントは他とは少し違っていた。奈央が投稿する写真すべてに「いいね」をつけるだけでなく、数年前に遡った投稿にも「いいね」が押されているのだ。


「過去の投稿まで見てるって、どういうこと…?」

奈央は少し不安になりつつも、特に深く考えずに画面を閉じた。しかし、「影のフォロワー」という名前が頭から離れない。まるでその名前が、暗い影となって彼女の生活に忍び寄ってくるような感覚があった。


***


奈央はいつものように投稿した写真を確認していた。最近はフォロワー数が増えた影響で「いいね」も多く、通知欄が賑やかだ。

しかし、ある異常に気がついた。「影のフォロワー」が奈央の全ての投稿に「いいね」を押し続けているのだ。


「またこのアカウント…」

最初は気にしないようにしていたが、過去に遡って数年前の投稿にまで反応しているのを見て、不安が募る。しかも、投稿されてからわずか数秒で「いいね」がつくことに気づいた。


「こんなに早く反応できるなんて、ずっと張り付いてるってこと?」

奈央は背筋がぞっとした。まるで、自分の一挙手一投足を監視されているような感覚だ。


***


その夜、奈央のスマホに通知が届いた。「影のフォロワー」からのDMだった。

「君の生活、とても興味深いね。」


奈央は一瞬、心臓が止まるかと思った。短い一文でありながら、その言葉には得体の知れない重みがあった。なぜ「生活」という言葉を使ったのだろう?自分の写真が日常的な風景ばかりとはいえ、投稿を「生活」と表現するのは妙に踏み込んだ感じがする。


彼女はしばらく画面を見つめた後、メッセージを閉じた。返事をする気にはなれなかった。


しかし、心の奥底には不気味な違和感が残った。まるでこのアカウントが、単なるネット上の存在ではないかのように思えてくる。


奈央は深く息を吸い込み、震える手でスマホを握りしめた。「君の生活、とても興味深いね。」たったそれだけのメッセージが、彼女の胸に妙な重みを残していた。


一体この「影のフォロワー」は何者なのか。なぜ自分の投稿に執拗に反応し、こんな曖昧で不気味な言葉を送ってきたのだろうか。


「ただのいたずら…だよね。」

奈央はそう自分に言い聞かせ、画面を閉じた。深く関わらないほうがいい。SNSではこうしたことが時折起きる。少し時間が経てば、相手も飽きて離れていくだろう。


ベッドに横たわり、何とか頭を切り替えようとするが、どうしても胸のざわつきが収まらない。「影のフォロワー」という名前が頭から離れず、その短い一文が何度も脳内で反響する。


「考えすぎだってば…」

奈央は自分に言い聞かせるようにつぶやき、布団をかぶった。スマホの画面は消えたが、なぜかその向こうに存在する見えない視線を感じるような気がした。


その夜、奈央はなかなか眠りにつくことができなかった。

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