第4話「家庭訪問」
HR中、裕人は不安に感じていた。もし家庭訪問でアイが下手な事を話せば、彼女がアンドロイドだと疑われかねない。それだけは避けなければ。裕人の親は仕事で忙しく、家庭訪問に出られないのは担任には話しているので大丈夫だが、アイは親そのものがいない。強いて言うなら研究者とやらが親のようなものだが、連絡手段など持っておらず、裕人とアイは同じ家に住んでいるのだ。関係性等色々疑われかねない。裕人は頭をフル回転させ、どうにかアイと別日にしてもらうように担任に言わなければ。そう考えていると、担任が家庭訪問の説明を始めた。
担任「えっと、突然のことで申し訳ないんだけど、実は今日から家庭訪問が始まります。」
担任がそう言うと、クラス中から文句が飛び交う。当然だ。普通なら家庭訪問のかなり前に告知しておかなければ、生徒の保護者達が予定を作ることができないのだ。
担任「いや…本当に悪いと思ってる。実は告知するの忘れてて…けど安心してくれ。お詫びに保護者の人たちの予定に合わせて家庭訪問するから。いつでもいいから何日が空いてるか俺に連絡くれ。」
あまりの出来事に裕人は困惑した。いや、正確に言えばクラス中この状況をあまり飲み込めてはいないのだが、裕人が一番飲み込めないでいた。え?今日から?どうすんのいったい?今から作戦考えるの?色々な考えが裕人の頭の中を駆け巡る。裕人がそう考えていると、担任はさらに続けてこう言った。
担任「あー、えっと、とりあえず今日は裕人と初瀬ん家行くから。」
裕人「は!?なんで!?」
担任「だってお前ら住所一緒なんだもん。一緒の方が都合いいじゃねぇか。」
担任のその言葉に、クラスの視線が一気に2人に集まる。「え?お前ら同居してんの?」と言う視線だ。男子は睨みをきかせ、女子は冷やかしの視線を向けている。裕人からすれば迷惑この上ない。
裕人「いやでも…」
担任「んじゃ、そういうことで決まりだから。2人とも今日早めに家帰っとけよ。」
担任がそう言い終わると同時にチャイムが鳴った。鳴り終わるや否や、クラスメイトが一斉にアイのもとに集まってきた。
「初瀬さん、裕人くんと同棲してるってほんと?」
「裕人くんに変なこととかされてない?」
「初瀬さん、裕人なんかより俺と同棲しようよ!」
「ねぇねぇ、どう言った経緯で2人知り合ったの?」
などと聞きたい放題。とてもじゃないが大人しく帰らせてくれそうにない。最悪だ。早めに帰って2人で作戦を練ろうと考えていたところなのに、それは叶わぬ願いとなった。
裕人「と、とりあえず!俺らは早く帰んないといけないから!」
裕人はそう言うと、アイの手を引っ張り帰宅した。途中遼が絡んできたが、飛び蹴りで排除して帰宅した。
―――――――ここまで無料―――――――――――――――――――――――――
裕人「とりあえず…今から担任にお前がアンドロイドとバレないように作戦を立てる。」
アイ「私がアンドロイドだと知られたら何か不都合があるのでしょうか?」
裕人「あるよ。生徒にアンドロイドがいるって知られてみろ。色々と面倒だぞ。」
アイ「色々…と言うのは?」
裕人「えっと…ほら…あの…テストやら面倒だし、他にも不都合が生じるかもしれないからな。だから隠すんだ。」
アイ「なるほど、分かりました。ですがどうやって隠すのでしょうか?」
裕人は回答に困ってしまう。隠すとは言ったものの、実際どうやって隠せばいいのか思いついているわけではない。どうやったら担任に怪しまれずに家庭訪問を終えることができるのか、裕人はその答えを見つけ出せずにいた。
裕人「とにかく、アンドロイドだと思わせるような言動は避けなければいけない。」
アイ「アンドロイドだと思わせるような言動…ですか?」
裕人「あぁ。たとえば、個人情報の類とか、前に俺に言った、研究者がどうのとか…とにかくそういったことだ。」
アイ「なるほど…分かりました。ではそのようにいたします。」
アイがそこまでいったところで家のインターホンが鳴る。担任が来たのだ。心臓がバクバクとなる。裕人はなんとか緊張を抑え、担任を迎え入れるために玄関へと向かう。
ガチャ
担任「おーっす。来たぞ。」
裕人「あ、どうも。」
担任「なんだよ。そっけないな〜。」
裕人「あんまりどうぞどうぞと歓迎する人はいませんよ。」
担任「なんだよ。悲しいこと言うなよ。ま、いいや。お邪魔しまーす。」
担任はそう言って中へ入って行った。裕人がリビングまで案内し、担任は促されるようにリビングに入る。
アイ「こんにちは。先生。」
担任「おーこんにちは。」
アイと担任が挨拶を交わし、誰に促されるわけでもなく、担任が机の前に座る。そんな担任を見て呆れる裕人だったが、今はそんなことを思っていられない。すぐにお茶を準備しようとすると、「あ、全然お構いなく〜。」と言われた。担任は建前など言うタイプではないので、素直にその言葉に従い、裕人もソファに座る。果たしてアイからやるのだろうか。それとも裕人から始めるのだろうか。裕人のそんな心配をよそに、担任は一つの疑問を裕人達にぶつけた。
担任「ってかさ、ホームルームの時はああやって言ったけどよ。裕人、なんでお前父親顔ださねぇの?なんか前の担任に聞いても学校行事に一切顔出したことないらしいじゃん。この家庭訪問だってそうだし、三者面談だってそうだったらしいじゃん?」
なんてデリカシーのないことを聞くのだ。普通そんなこと気を遣ってきかないものだ。前の担任だってそうだった。三者面談の時も、家庭訪問の時も、気を遣って裕人に父親のことを聞くことはなかった。しかしこの担任ときたら、一切裕人を気遣うことなく疑問をぶつけてきた。そんな担任に呆れた裕人だったがここでなんとアイが口を開く。
アイ「裕人様のお父上様は現在お仕事で忙しく、学校のことに顔を出せるような状況にありません。なので、もし裕人様のことについて報告したいことがあれば私に言ってください。」
担任「ん?なんでお前に言わなきゃなんだ?ってかなんでそんなこと知ってんだ?」
裕人は慌ててアイを廊下に連れ出す。何を言い出すのだコイツは。あれほど失言をするなと言ったばかりだと言うのに、いきなり失言をしてしまった。なんとか修正せねば。その一心で、裕人はアイを叱る。
裕人「アイ、お前いきなり何言ってんだよ!?」
アイ「ですが裕人様。お父上の代わりに報告する存在が必要でしょう?それに、私ならばデータベース上に裕人様のことをインプットできますし、今後生活する上で大きな助けになります。」
裕人「誰がそんなこと頼んだよ!それより、お前がそんなこと言ったら、アイツも不思議がるだろうが!なんでお前に報告しなきゃいけないんだよって話になるだろうが!」
アイ「しかしそれでは、誰が裕人様のことを記憶しておくのでしょうか?お父上様がいないとなると、必然的に私になると思うのですが…」
裕人「俺自身で覚えとくから大丈夫だよ!お前はそんなことしなくていいの!とにかく、お前が俺の個人情報をしゃべることは控えること!」
アイ「それは家庭訪問中、と言うことでしょうか?」
裕人「家庭訪問後も、だ!いいか、絶対に余計なこと喋るんじゃないぞ!」
アイ「分かりました。」
ここまでやって、2人はリビングに戻ってきた。担任からは不思議な顔をされたが、裕人は気にせず続けるように言った。担任は納得いってないような顔をしていたが、とりあえず先に進めるためにプリントを取り出す。
担任「それじゃ、まずは初瀬から始めるぞ。」
一気に不安になる裕人であった。
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