【本編】後輩のチョロゲは努力する攻めであり、にくぼう先輩は今流行りの男受けである【字数無視版】

クマとシオマネキ

第1話 育ちと環境は選べない、見えるモノが宝物…だと思ってた

 私は天鳴あまなり 曼狐まこ、変な名前で困ったものだ。

 でもしょうがない、亡くなったお婆ちゃんがつけたらしいから。


『マコ!おめぇはいつまで酒すらろくに買ってこれないんだっ!』


 暴力を振るい、酔って大声で叫ぶ父親。

 そして無関心で父親への愛情は無い母親。


 そうそう、この土地では、いつもの事、どの家も同じ風景。

 建物への距離は遠くないのに、遥か遠くに見えるタワマンの上階には楽しそうに笑う家族。

 

 大人になった今なら思える、その地域性と格差。


 治安が悪いと言われても住んでいる当の本人は知らない。

 ましてや子供ならなおさら。


 私は所謂、都市部の外れ、隣の駅にはタワマンが建ち、そこの上階から私達の生まれ育った場所はいつも見下されていた下町と言う名の貧民街。


 光があれば闇があるなんて言うけど、タワマンで太陽が当たらないここは闇だろうな。

 大体の親は荒ぶれた作業員か職人、金も宵越しの金は持たない様な生活、誰もその暮らしに疑問を持たない。


 小学校もそれなりに悪い育ち子供が集まり、将来、男は良くて土方、悪ければ半グレかヤクザに。

 女は酒を浴びる様に飲むスナックか、身体を売るような将来しか見えないし、それを悲観しない。

 〜の兄貴が言ってた…とか、〜のお姉さんがやってた…と言う意味不明なレールの螺旋。


 不幸しかないから絶望と感じない、そんな所で私は育った。


「マコ!こっち来いよ!菓子あんぞ!一緒に食おうぜ!」

「ケンちゃん…これどうしたの?」

「タカシと一緒にパクって来た!ほら、やるよ」

「うん、ありがと………」


 それが悪い事とは思わない、いや、それが当たり前なら思う訳ない。

 小さい所で少ない物を奪い合う、それが当たり前の世界で、私はケンちゃんしか見えてなかった。


 ケンちゃんは家が近くだった。

 ウチは荒れてたけど、ケンちゃんの家も同じ様なものだった。

 

 私はそんな土地でも気が弱く、身体も弱く、叩かれる存在の底辺だった。

 弱い者がさらに弱い者を叩く…でも


「テメーらマコに何してんだ?○すぞ?」


 弱い者は運が良いと誰かが守ってくれる。


 ずっと近所で一緒に育った責任感なのか、それとも彼なりの正義感なのか?

 外ではケンちゃんは私をずっと守ってくれた。

 それこそ幼い時から高校に入るまでずっと。


 それでも家の中では夕方に帰ってくる父親にいつも殴られていた。

 母親は夜の仕事をしていて夕方からいない。

 だから殴られ放題だった。

 もちろんそんな環境でまともに育つ筈はなく…私は今で言う所のDVのトラウマが植え付けられていった。

 大きな声で怒鳴る、拳を振り上げる、力付くで何かされると震えが止まらない、心もザワツキ、怖い。


 それでも中学に上がる頃には父親は死んだ、理由は不明。

 そういう場所の人間だからで片付けられた。

 中学とかは行政が何とかしてくれた、根本的な解決には何もなっていないけど…学費も出るし、生活保護も受けていた。

 母親は元々スナックにいたが、風俗もやってる様だし、20代の男が出入りする様になった。

 保護してる金が二人の酒代になる。

 


 イヤらしい目で見てくる母の男に嫌気がさして、家に帰るのをやめた。

 中学ではケンちゃんの腰巾着。

 ケンちゃんは私の前では喧嘩をしないがどうやら強いらしく、誰もケンちゃんに逆らわない。

 そんな単純なヒエラルキーで、ケンちゃんの幼馴染…いや、お気に入りと言うだけで私は偉くなった様な気がしてた。


 おどおどしなくなり、髪を染めてピアスして、ケンちゃんやその取り巻きが何処からか持って来た服を着る。

 

 テカテカしたブランドのジャージにレザーのスカート、厚底のブーツ。

 その時には身長が165いかないぐらい、ケンちゃんは180近くあった。


 目は大きく少しタレ目、幸薄そうとかいわれる。

 唇も少し厚いからタラコ唇らしい。

 と言う悪口を同い年は言う、ブスだって。

 知ってるよ。自分の外見や顔ぐらい。


 でも後輩は褒めちぎる、ケンちゃんと合わせて美男美女だって。

 後輩と言うのは大変だ。


 昔の写真は殆ど捨てたけど…この時の写真を見ると何ともやるせない気分になる。

 態度も悪かった、いつもキリキリしていた。

 昔の怯えていた日々が嘘みたい。


『あのブス、ケンちゃんの金魚の糞じゃん!調子乗ってない?』

「は?何あんたら?それが何か悪い?」

『…………………』


 態度もすっかり悪くなっていた。


 中学3年にもなるとケンちゃんは友達とラップで有名になっていた。

 何やらクラブにも出入りしているそう。

 喧嘩が強くて、顔も良くて、地元じゃラップで有名で、そんなケンちゃんは、私をまるで自分の女のように扱った。


『こうしておけばお前にめんどくさい事起きないだろ?』


 それでも根本に優しさを感じる。


 私はその頃、読んでる人に比べると少ないのだろうけど漫画や小説見るようになっていた。

 それに私は勉強もそれなりに出来た。

 

「ケン、ラップは色々言葉を知っておいた方が良いよ、その都度メモ取るとかじゃないとワンパターンになるんじゃない?」


『マコは頭が良いし、色々詳しいよな、将来はマネージャーやってくれよ』


 勉強が出来るとその中で賢い子と喋る、その子達の将来はケンちゃんの取り巻きの女とは違うものが見えていた。

 その子達も言う、ケン君とお似合いだねなんて。

 何だが遠巻きに蔑んでいる様に聞こえた。


 小説を読んで、雑紙を読んで…見識を広げると自分の好みや理想が見えてくる。

 同時に見えてくる目の前の現実。

 同時に態度に出る私の心、気付けばケンちゃんからケンになっていた。


 自分達で作った鳥籠の中から出る気の無い人達。

 籠の外の人達は見えている、そして直接的には言わずとも、蔑んでいるのはすぐ分かる。

 その籠の中で王様になろうとしているケンに私は…多分、憧れを感じなくなったんだと思う。


 それでも良くしてもらったから、幸せになって欲しいから…

 

「ケン、この間、女のコ達一杯に囲まれてたじゃん?良い娘いた?」

『いやぁ、あんなの今だけだろ、寄ってくんの。俺にはマコがいるから』

「そっか、そうなんだ。分かった分かった」


 ケンの気持ちも流してしまう。

 それでも、そう言ってくれると悪い気はしない。

 

 幼馴染で、私の嫌いな事はしないから。

 ケンには子供の時から助けられていて、とても良くしてくれて、そしてドブから這い上がるかの如く成功していく。


『ねぇ、ケンちゃんにその態度なんなの?』

「別に?アンタ達に関係ないじゃん」


 取り巻きの女達は私に嫉妬する。

 その態度は何だ、と。調子に乗るな、と。

 言われるほど硬化する、態度が、心が。


 高校受験をした。地元から五駅ぐらい離れた偏差値は中の上といった公立高校に合格した。

 ケンはそのまま音楽の道へ行くらしい。

 変わらないケン…変わろうとする私。

 私は…地元から離れた高校に行って何か変われるだろうか?


 卒業前にクラブに行った、ケンが見て欲しいと言うから。

 地元から少し離れた、どちらかと言えば入る高校に近い、この辺では一番大きなクラブ。


 入り口に弁天様かな?それと左右に特攻服を着た緑色の化け猫みたいな女性と、舌を出した阿修羅像みたいな女の人。

 何だが不思議な空間で少しドキドキした。

 

『見ていてくれよ?俺らのステージを』


「うん、頑張ってよ!」『おう!』


 私は握り拳を突き出して笑いながら言った。

 何だが私はずっと笑ってなかった気がしたけれど、少しクラブの熱に浮かされたのかも知れない。


 ケンは嬉しそうに、同じラッパー友達数人で裏に行った。

 

 私は…正直音楽の事は良く分からない。

 ケンの音楽も分からない。

 だからケン達が行った後、取り巻きとも離れ一人で壁に寄っかかっていた。

 今はドンドンピコピコと煩い音楽が流れている。


 天井にも入り口と同じ絵がある。

 弁天様の絵、だけど大きく『辮罪』と書いてある、そして左右に化物女。

 私は音楽より物語が好きなんだと思う。

 だから、この絵にもきっと物語があって…



 ふと、横を見ると腕を組んで目をつぶり、小さくリズムをとっている男がいた。

 少し私より高いけどケンちゃんより低い身長、それに細い身体。

 同年代だと思う、この場には合わない幼い顔。

 多分、このピコピコした音楽を聴いているんだろう。本当に楽しそうに、少し顔がニヤついている。


 何だろう、地元から離れて始めてちゃんと見る人。

 

「ねぇ?アンタお酒の飲む人?」


『……ん?……………………………』


「無視すんなよ!酒飲めるかって聞いてんの!」

 

『飲めないよ?何?どうした急に?』


「いや、アタシも飲めないから……」


 コミュ症、そりゃそうだ、自分から人と話した事なんか無いんだから。


『今、DJしてる高校の先輩見に来たんだよ、いや聞きにきたか。格好良くて好きなんだ。外見は巻糞みたいな先輩だけどね』


「ああ、そう。巻グソ?」


『あぁ、巻糞。天は二物を与えないよなぁ』


 ………………何だが良く分からない話をし始めた。

 でも悪い気はしない、コイツは音楽を聞いているから、私の話も音楽みたいに受け取っているのが分かった、考えなくて良いから気が楽だった。

 良く分からないけど、私は話しかけ続けた。


「この天井の絵ってなんなの?」


『先輩から聞いた話だと神様らしいよ?音楽と力だって。音楽はこのクラブで、何か化物みたいなのが守ってくれたらしいよ?俺も意味わからないけど』


「へぇそうなんだ…アンタはどこから来たの?」


 それから他愛もない話をする。途中から私が一方的に話し続ける。嫌な顔もせず聞いてくれる。

 

 名前を聞いた。普通な顔で彼は言った。


『………ぼうながひ………』


「え!?何!?聞こえない!」


『に?…くぼうだよ!くぼうながひさ!』


「何だよ肉棒ってっ!偽名にするならもう少し考えろよ!」


『はぁ?意味わかんねぇ!?』


 それが肉棒先輩との出会いだった。

 先輩はあまり覚えていないみたいだけどね。

 

  

 

 

 

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