Cys:41 煌めく想いの交差点
───ん? なにかあったのかな……
顔を洗って戻ってきたら、なんか二人とも変なの。
耕助さんも優美さんも、少し深刻そうな顔をしてる。
マズい事と言うよりは、何かを知って驚いてるような感じで、何となく話しかけにくい。
でも暗いのは嫌だし、ここは敢えて明るくいくよ。
「耕助さん、優美さん♪ どーかしたんですか?」
ひょこっと顔を覗かせると、優美さんは私をジッと見つめてきた。
耕助さんは、スッと流し目を私に当ててる。
もう、本当になんだろう。
二人から伝わってくる妙な雰囲気に、胸が少しザワつくよ。
「あの、私、何かしちゃいました……?」
思わず、一昔前に流行った異世界転生の主人公みたいなセリフを言っちゃったし。
そのセリフに、耕助さんと優美さんは軽く首を傾げた。
私も傾げてるし……う〜ん、なに、この雰囲気。
変な沈黙が私達の間に広がってる。
ただ、その沈黙を破って、耕助さんが
「ハハッ……♪」
耕助さんは、片手を軽く額に当ててる。
それに釣られたのか、優美さんも静かに笑みを浮かべた。
「ハァッ……♪」
まるで、何かを諦めたかのような溜息。
けど、それは悪い意味じゃなさそう。
胸の奥でハッキリ、そう感じるの。
同時に、今まで感じてたちょっと重いザワつきが、何となく軽やかな物へと変わってゆく。
「もーっ、何なんですかお二人とも♪」
私が軽くプンスカすると、耕助さんが軽く微笑みながら私を見つめてきた。
「なんでもねぇさ♪ 気にすんな澪」
優美さんも同じだ。
「そうそう。何でもないって♪」
二人とも、さっきまでのシリアスな雰囲気が嘘みたいに、楽しそうな笑みを浮かべてる。
すっごいい変わりようだし、何でもないなんて絶対に嘘。
二人が何を話して何に気付いたのか、正直、すごく気になるよ。
けど、多分教えてくれないよね。
少なくとも今は、まだ私が知る必要はないんだと思う。
───特に、耕助さんはそういう人だもん……
私を元気付ける為に冗談も言うし、隠し事をしない。
ううん、出来ないって言った方が正しいかも。
そんな耕助さんが″気にすんな″っていうなら、きっとそうなんだ。
それに、優美さんもそんなタイプな気がする。
耕助さんと同じで、真っ直ぐな人。
だからもう、ここは私も溜息混じりに笑うしかない。
「はあっ……分かりました。お二人が言うなら、そーなんでしょうね」
私がそう零してワザと軽くプイッとすると、耕助さんがニカッと笑ってきた。
「おっ、ふて澪だw」
「ふ、ふてってませんっ」
ちょっとツンとすると、優美さんも乗ってくる。
「みーお♪ 可愛いわねっ」
「優美さんまで、もうっ」
耕助さんも優美さんも、私を子供扱いしてる。
まあ子供なんだけどさ。
でも、ちょっと嫌。
二人ともやっぱり私より遥かに大人だし、私も早く精神的にこうなりたい。
私のそんな気持ちを見透かしたかのように、二人は私を優しく見つめてきた。
「まっ、ふてってもいいが、一緒に頑張っていこうぜ」
「そうよ澪。大事なのは、ここからなんだし」
確かにここから一緒に頑張っていかなきゃいけないし、分からない事を考えても仕方ないか。
───何より私は、AIドルに勝たなきゃいけないんだから……!
再びそう決意した私は、モヤッとした気持ちを振り払い二人に真っ直ぐ向き直った。
「はいっ! 改めてこれからよろしくお願いします!」
「もちろん♪ これからビシバシいくわよ澪」
優美さんが凛とした瞳を光らす傍ら、耕助さんはフッと微笑み背を向けた。
「んじゃ優美、後は任せた」
「えっ、耕助。どこ行くのよ?」
けど、なぜか耕助さんは振り返らない。
そのまま出口の方へ向かってゆく。
上手く言えないけど、耕助さんの背中から、いつもとは違う雰囲気を感じる。
「耕助さん、あの……」
私がちょっと気になって身を乗り出すと、耕助さんは少し振り向いてニッと微笑んだ。
「気にすんな澪。なる早で戻っから」
耕助さんがそう言う以上、私もそれ以上は何も尋けない。
「……分かりました。歌、練習しておきますね」
「おう、頑張ってな。応援してるぜ」
そう告げて耕助さんが出て行くと、私は優美さんにサッと振り返った。
優美さんは少し謎めいた顔をしてる。
きっと、耕助さんが向かった場所に、少し心当たりがあるのかもしれない。
そして多分、それはさっきの謎の雰囲気に関係してる何か。
けど、それを今これ以上詮索するのは意味が無い。
私が今やらなきゃいけないのは、優美さんから指導を受けて歌の力をどこまでも高める事だけ。
「優美さん、よろしくお願いします!」
そう言って頭を下げると、優美さんは軽く溜息をついて微笑んだ。
「じゃあやるわよ澪! 覚悟はいいわね」
「はいっ!」
こうして私は優美さんから、歌の本格トレーニングを受ける事になった。
恐らく相当厳しい物になると思う。
でも、私は決して負けたりしない。
全力でやって、最高の″歌力″を得てみせる。
全ては″AIドル″達に勝って、この世界に″人間の輝き″を取り戻す為に。
◇◆◇
「いっかなぁ……」
事務所から出た俺は、とあるカフェに向かっている。
とは言っても、コーヒーを飲む為じゃない。
そこにいる″魔女″に会いに行く為だ。
もちろん、向かう前に電話はした。
ちょっと場所も離れてるからな。
けど、やっぱ出やがらねぇ。
アイツはマジで気まぐれなんだ。
前に血液型の話を振った事がある。
『お前さん、絶対にB型だよな』
『ニャハハッ♪ 耕助よ。これだけ沢山の人間がおるのに、4パターンで分類出来る訳がニャかろう』
この会話で、アイツがB型なのを確信した。
まっ、それはどうでもいい。
問題は、今アイツが店にいるかどうかだ。
───何だかんだと、やる事多そうだしな……
なので無駄足になるかもしれないが、ああゆう″奇妙″な事は、アイツに相談するに限る。
アイツの店は、デカいビルが立ち並ぶ街の、1つ裏に入ったとこだ。
いくつも店をやってるが、今から行く場所にいる可能性は高い。
街頭ビジョンには相変わらず″
「ここだ……」
入口の上には『
アイツが古くからやってる店だ。
前に立つと、まるで夜の店のように綺羅びやかな扉が横にスッと開く。
すると、少し薄暗い店内をクリスタルがキラキラと照らす光景が広がる。
「いらっしゃいませー♪
シルバーでピタッとした服に身を包んだ店員が、嬉しそうに挨拶をしてきた。
頭には猫耳を付け、ペアリングに着いてるクリスタルが、額の中央で可愛く揺れる。
「よっ、リリー。相変わらず猫耳とクリスタルか。似合ってるぜ」
俺が軽く微笑むと、リリーは猫手ポーズで嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ありがとうございますニャ♪ マスターの決めたコンセプトですけど」
「だよな……w」
猫とキラキラが好きな”アイツ”らしい趣向だ。
「で、いるか? アイツは」
「マスターですよね? 今日はいますニャ♪ ちょっと呼んできまーす」
リリーはそう言うと奥の部屋へ、ネコのようにスタッと駆けて行った。
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