Cys:33 天上に響く神々のステージ

「星屑の中に、ひとひらの光───願いを込めてそらに舞い上がる───♪」


 Lynetteリネットは歌い始めた瞬間に、片手の平をスッと掲げて斜め上を見上げた。

 それと同時にLynetteリネットの手の平から、揺らめく光が星屑のようにキラキラと立ち昇ってゆく。


───凄い! まるで、聖女が祈りを捧げてるみたい……!


 私が目を丸くする中、Eenaエレナがそれに続く。


「終わりのない時を越えて───私たちの歌が響くのは、アナタのために───♪」


 Eenaエレナは片手を胸にそっと当てて、微笑みながらスッと瞳を閉じた。

 それと共に全身から溢れ出す黄金色の光は、全てを赦す癒しの光のよう。

 次にMiraミラの神秘的な声が、深い蒼色の煌めきと共にスッと差し込む。  


「涙を隠した夜も───すべてを照らす光になる───♪」


 煌めく星々と赦しの光に神秘性が溶け込み、神々しい光に変わってゆく。

 その光の中でスタイリッシュなダンスをしているLinaリナが、全身から放つ紅い煌めきを一気にたぎらせた。 


「どんな闇も───怖くない───♪」


 Linaリナの声と煌めきが神々しさに力強さを加えた瞬間、Yunaユナの明るい声が一気に弾ます。


「私たちが、ここにいるから───♪」


 彼女の眼差しが私の心を一瞬でギュッと掴んできた瞬間、中央に立つリネットがバッと片手を上に掲げた。


「天上のシンフォニー、響け───♪」


 リネットの歌声が私の心を閃光のように貫く。

 みんな凄いけど、特にリーダーのリネットはその中でも別格かもしれない。

 それと同時にメンバー全員がそれぞれのポーズを取り、全身の煌めきを最高潮に輝かせて歌ってゆく。

 

「無限の空に歌い続ける───♪ 儚くて強く、美しくて───♪ あなたの心を、照らし出す───♪ Celestial Symphonyサレスティ・シンフォニー───♪」


 最後の音が、まるで宇宙に消えていくように響く。

 5人の歌声と動きには全くブレやズレが無い。

 振り付けはもちろん、立ち位置が入れ替わる時の髪の流れまで完璧。

 なにより、歌声も輝きもみんな違うのに、それぞれの個性が完璧なバランスで調和されて、圧倒的な煌めきを作り出してる。

 観客達の熱狂も凄くて、会場が熱気で壊れそう。

 ステージライトもこれまで以上に輝きを増して、まるで本当に天上の国にいるみたい。

   

───これがAIドル……私が戦わなきゃいけない相手……!


 手に力を込める事すら忘れ、私はただただ圧倒されてる。

 大げさかもしれないけど、宇宙人に遭遇したぐらいの衝撃。

 打倒AIドルを目標に掲げて動き始めてきたけど、勝つとか負けるとか、そんなレベルの話じゃない。

 正直、AIドルがここまで凄いとは思ってなかった。


───今の私じゃ、勝負にすらならない……


 その気持ちをヒシヒシと感じた私の身体は、小刻みに震えてる。

 圧巻のパフォーマンスを目の当たりにした感動と同時に、絶望的な恐怖が止まらないの。

 勝てる気が全くしない。

 玲華さんが言ってた事が、今なら全部分かる。

 いくら人間が努力しても、AIドルの“完璧な美しさ“の前では霞む。

 “未来その物“というのもその通りだ。

 Lynetteリネット達の曲が終わると、私はARグラスをそっと外して、耕助さんを横からスッと見つめた。


「耕助さん、私……」


 その先の言葉が出て来ない。

 頑張ります! と、言いたいけど、嘘になるようで言えないの。

 代わりに喉元まで、別の言葉が出かかってる。


───無理です。AIドルには勝てません。少なくとも私じゃ決して……


 その気持ちを察してくれているのか、耕助さんは何も言わない。

 横に座ったまま、私を静かに見つめている。

 リネット達を目の当たりにした私が何て言うのか、それを本当は早く聞きたいハズ。

 いや、きっと私の気持を分かってるのに、敢えて何も言わないんだ。

 耕助さんの気持を考えると胸が痛くて、私は少しうつむいた。


───もし私が逆の立場だったら、どうするかな……


 自分の夢を叶える可能性があると見込んだ相手。 

 しかも、事務所の専属契約までした相手が辞めそうだとしたら、きっと私なら全力で止める。

 下手したら、相手が言いかけた言葉を遮ってでも、阻止しようとするかもしれない。

 けど、私はそこまで考えた時に思った。

 それならわざわざ、こんな凄いのを見せない。

 見せるとしても、もっと実力をつけてからだ。


───なのに、耕助さんは私に見せてきた。いや、見せてくれたんだ。それはきっと……


 そこまで想いを巡らすと私はスッと顔を上げて、耕助さんを真っすぐ見つめた。

 自分自身にも耕助さんにも、私は嘘をつくつもりはない。


「耕助さん。私、このままじゃAIドルには勝てる気がしません。オーデションで戦うのはリネットたち以下だとしても、絶対無理です……」 

「そうか……で、どうする?」


 耕助さんは真摯な眼差しを向けたまま、静かに問いかけてきた。

 こういう時、耕助さんはやっぱり大人なんだと実感するよ。

 普段おちゃらけたり、やさぐれたりしてるけど、ここぞという時はどっしり構えてるから。

 決して答えを急かしてこない。

 逆に、私は自分がつくづく子供だと思う。

 けど分かってる。

 今、自分が何をしなきゃいけないのか。

 ただ、これは勢いだけで言っていい事じゃない。


───頑張れ私。言ったら決して、もう戻れないよ。いいんだよね……!


 私が心に問いかけると脳裏に、ううん違う。

 魂からの声が聞こえてきたの。


『それでいいのよ。なんの為に“転生“してきたの? “歌う為“でしょ。思い出して……!』

 

 これは私の幻聴かもしれない。

 “転生した記憶“なんてまったくないから。

 ただ間違いないのは、この瞬間私の心に灯火が灯り胸が熱くなったこと。

 それと同時に、恐怖で凍てついていた心がやわらいでゆく。


───私は、絶対逃げない! この灯火と共に前に進むんだ……!


 心にその誓いを灯したまま、私は耕助さんに告げる。


「今のままじゃ絶対勝てない。だから耕助さん……私をどこまでも強くしてください! AIドルたち彼女たちに……Lynetteリネットたちに勝てるように!」


 私が身を乗り出すと、耕助さんはニッと不敵な笑みを浮かべた。

 その笑みは、私がここまでに戸惑う事を予想はしつつも、この答えに辿り着く事を信じてくれてた事が伝わってくる。


「ああ、もちろんだぜ澪。あの浜辺で言ったように、俺がお前さんを最高の“人間アイドル“に育ててやる! しっかりついて来いよ」

「はいっ! 耕助さん!」


 私の返事が事務所に響く。

 それを受け止めてくれた耕助さんは、ソファからスッと立ち上がった。

 そして、キャビンの中から出してきた白い紙袋を、片手で差し出して微笑んだ。


「澪、こいつをお前にやる。受け取れ」

「えっ、これは……なんですか?」


 私はそれを受け取り、目を丸くして見つめてる。

 滑らかな紙袋で耕助さんの骨太な手とは対照的。

 中には、長方形で艶のある桜色の箱が入ってた。

 柔らかな色だし、デザインもオシャレ。

 箱には金色の刺繍が施されてて、青いリボンで結んである。  

 見てるだけでドキドキしちゃうよ。


───何が入ってるんだろう……! 空けていいのかな……


 その気持を察したかのように、耕助さんは軽く笑みを浮かべた。


「空けてみろよ、澪」

「は、はいっ!」


 青いリボンをほどいて箱をそっと空ける。

 その瞬間、私の目に凄い物が映った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る