Cys:29 父の告白と耕助さんの誓い

「玲華さんが、私を……!」


 私は思わず身を乗り出した。

 特別枠の招待の下りでピンときたけど、あの玲華さんが招待してくれるなんて、予想だにしてなかったから。

 もちろん、この招待は私に対する挑戦……いや、嫌な言い方をすれば、潰そうとしてきてるんだ。

 それは分かっているけど、私にとって大きなチャンスなのは間違いない。 

 この驚きと感謝に震える私に、耕助さんは凛々しい顔で告げてくる。


「澪、お前さんの歌声が、玲華レイの心にぶっ刺さってるのさ。まっ、よくも悪くもな……!」


 私がコクンと頷くと、お父さんは目を丸くして耕助さんに問いかけた。


「一体なぜ? どうやって、そんな約束を取り付けたんだ?!」


 きっと、お父さんは私以上に驚いているんだと思う。

 耕助さんとの出会いは伝えてあったけど、玲華さんとの事や、その時の歌声がSNSで拡散された事までは伝えていなかったから。

 隠すつもりはなかったけど、心配はかけたくなかったの。

 けど耕助さんは、お父さんにサラッと告げてくる。


「『AI-Creationアイ・クリエイション』の玲華レイ……プロデューサーの藤崎玲華とは、昔から因縁があるんですよ」


 その言葉に、お父さんはピクッと眉をひそめた。


「因縁?」

「はい。玲華アイツとは元同僚で、恋人としても付き合ってました」

「な、なんだと……?!」


 お父さんは再び目を丸くして驚いてるけど、私も驚いてる。

 かなり大事でセンシティブな事を、全く隠す様子もなくお父さんに告げたから。


───まさか、お父さんの前で堂々と言うなんて……


 確かに説得の材料としては強いけど、少しも躊躇ためらわないのは凄い。

 ただ、いきなりこんな事を告げたら、お父さんは誤解してしまう気がする。

 特にお父さんは正義感が強いから尚更だ。


「……高槻くん、それは不正じゃないのか?」


 やっぱり思った通り。

 本当に″招待″だったのかと疑問に思ってるんだ。

 けれど、耕助さんは動じない。


「不正? 俺が玲華レイに、根回しをしたっていう事ですか?」

「……そうだ。違うのか?」


 お父さんは軽く目を細め、耕助さんを真っ直ぐ見据えてる。

 きっと、私の夢を不正で穢されたくないからだ。

 なので当たり前だけど、笑って誤魔化せる事じゃない。

 その気持ちに答えるように、耕助さんは真面目な顔で静かに告げてきた。


「不正はしてないし、これからもしませんよ。ただ、玲華レイに連絡しただけです。『AIドルオーディションに、澪を参加させる』と」


 そう告げてきた耕助さんを、私とお父さんはジッと見つめてる。

 私が感じた限り、今の言葉に嘘は無いと思う。

 まだ出会ってから間もないけど、耕助さんがどんな性格の人かは分かってるつもりだから。

 それに、玲華さんも裏取引に応じるような性格だとは思えない。


───けど、お父さんは納得してくれるかな……


 どうしても胸がザワついちゃう。

 二人の性格を私は分かっているけど、お父さんは知らないから不安なの。

 もし不正の疑惑を払拭出来なければ、お父さんは許してくれないハズ。


 けれど、私がそれに思いを巡らせている隣で、お父さんは突然胸を張り、愉快に大声で笑った。


「アーッハッハッハッ!」


 お父さんの笑い声が事務所に響き渡る。

 何で急に笑い出したのか全然分からない。

 ただ、突然だから私もビクッとしたし、耕助さんも少し謎めいた顔でお父さんを見つめてる。

 そんな中、お父さんはピタッと笑うのを止めて両手を膝に付けると、耕助さんに向かいバッと頭を下げた。


「見事な手腕だよ高槻くん。ここまでの無礼を許してくれ……!」

「も、望月さん。顔を上げてください。別に俺は無礼だなんて思ってる訳じゃ……」


 耕助さんがそこまで言った時、お父さんは軽く言葉を遮り告げる。


「試してしまったんだよ。かつて存在した最高のアイドルユニット……『Star-Crownスタークラウン』を手掛けた耕助くんの力を!」


 その言葉に私と耕助さんは驚き、同時に目を大きく見開いた。


「えっ、お父さん?!」

「望月さん! ……知っていたんですか!?」


 私もそうだけど、耕助さんが驚くのも無理はない。

 だって私、お父さんにこの事は一度も話してないから。

 これも別に隠すつもりはなかったけど、今回の対談には不利になるかと思って、敢えて言ってなかったの。

 耕助さんには失礼なのは分かってる。

 けど、あれだけ凄いグループを創っても、耕助さんがAIドルに敗れた事実。

 それを知ったら、不安にさせちゃうと思ったから。

 でも私の予想とは全然違い、お父さんは嬉しそうに微笑んだ。

 

「知っていたも何も、私はStar-Crownスタークラウンの大ファンだ。まあ、澪の手前……大っぴらには言えなかったけどな……」


 お父さんは少し気恥ずかしそうにコホンと軽く咳をして、視線を斜め下へ逸らしてる。

 こんな顔をしてるお父さんは珍しい。

 確かに大人の男の人が女性アイドルグループを好きなのは、あんまり知られたくはないハズ。

 しかも、自分の娘の前なら尚更だよね。


 なのにここでカミングアウトしてくれたのは、包み隠さず話してくれた耕助さんへの感謝の気持ちだと思う。

 いや、それ以上に、信頼してくれたんだ。

 それを裏付けるかのように、お父さんは耕助さんに真っ直ぐ向き直した。

 

「澪からキミの名前を聞いた時、まさかとは思って調べたよ。正直、凄く驚いた。けど申し訳ないが、同時に心配になったんだ。どこまで復活出来てるのかが……」


 そこまで告げたお父さんの顔に、微かに切ない影が差し込んだ。

 自分の好きなアイドルグループのプロデューサーが復活した嬉しさと、それを試してしまった自分を責めてるのかもしれない。

 真面目なお父さんなら凄くありそう。 

 でも耕助さんは、全く嫌な顔をしてない。


「望月さん、アナタが澪の父親でよかった。澪を、俺に任せて下さい……!」

「高槻くん……!」


 お父さんの瞳に涙が薄っすらと浮かんだ。

 私は娘だから完全に気持ちが分かる訳じゃないけど、二人の姿には胸にグッと迫る物がある。

 瞳で見つめ合っている二人からは、互いに対する信頼が感じられるから。 

 そんな中、お父さんは一瞬目頭を押さえて軽く口角を上げた。


「ハハッ……なんだかまるで、澪をキミに嫁に出すような気分だ」

「い、いや望月さん、何を言ってるんですか。嫁って……!」


 耕助さんは顔を赤らめ、目をパチパチしながら慌ててるけど、私はそれ以上に顔を真っ赤にしちゃったよ。


「あわわわっ、お、お父さん! もうっ、何を言ってるのっ! 私と耕助さんはそんなんじゃ……!」


 両手の平をお父さんに向けながら、私の顔は火照って熱くなってる。

 お父さんが急に変な事を言うからだ。

 でもこれは嫌だからとかじゃなくて、なんていうか、上手く言えないけど恥ずかしいの。

 けど、そんな私と違い、耕助さんはすぐに落ち着いてお父さんを真っ直ぐ見つめた。


「澪がこれから幸せになるかどうかは本人次第です。けど俺がいる限り、澪を決して不幸にはさせません。それだけは、俺の命を賭けて誓います……!」


 耕助さんの宣言に、お父さんは一瞬目を大きく開いて微笑んだ。


「フッ……やはり結婚の挨拶のようじゃないか」


 その隣で、私は目を大きく開き両手で口を覆っちゃった。

 お父さんが言った通り、なんか本当に結婚の挨拶のように感じちゃったから。

 もちろん違うのは分かってるけど、耕助さんの気持が嬉しくて瞳に涙がジワッと滲む。

 けど、だからこそ私はここで照れてばかりいられない。

 耕助さんが秘策と決意をしてくれたんだから、私もここからの決意を示すんだ。


───その為に、私が今ここで出来るのは……!


 私はスッと立ち上がり、お父さんを見下ろしながら凛と微笑んだ。


「お父さん、私の決意を込めてここで歌うね!」

「な、ここでか?」


 お父さんが目を丸くした瞬間、耕助さんがニヤッと笑みを浮かべて私に告げてくる。


「いいぜ澪。望月さんに……澪のお父さんに聴かせてやろうぜ。お前さんの奇跡の歌声をよ……!」


 耕助さんの力強い笑みに、私も心からの笑みを浮かべた。


「はいっ! ありがとうございます、耕助さん♪」


 そこから心の灯火を燃やして歌いながら、私は二人に感謝してる。

 自分を守ろうとしてくれてるお父さんと、私の夢を叶える為に全力で動いてくれてる耕助さん。


───私は絶対に負けない。AIドルオーディションで人間の輝きを煌めかせて、必ず優勝してみせる……!


 その想いと共に響く歌声は、まるで事務所の産声のように感じた。

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