Cys:19 コスモティーと、向き合う決意

「よっ、お待たせ魔法少女」


 振り返った私の瞳に映った耕助さんは、少し汗をかいて息を切らしてる。

 さっきの私に近い。

 相変わらず口調は軽いけど、きっと、全速力でここまで走ってきてくれたんだ。


 それを感じた私の胸がトクンと波打ち、冷えた体が火照ってくる。

 だから、本当は凄く嬉しい。

 でも、私はワザと軽くふてったフリをした。

 素直になると、感情が抑えられなくなっちゃう気がするから。


「……もう、体冷えちゃいました」

「すまねぇ、すまねぇ。けど、そう思って買ってきたぜ。ほらよ」


 耕助さんはニカッと笑みを浮かべ、紙袋から缶入りのコスモティーを取り出し渡してきてくれた。

 掴んだ両手がジワッと温かい。

 ちなみに、この前浜辺で買ってくれたのとは、また違うバージョン。

 コスモティーは幾つか種類があって、味がそれぞれ違う。


「でも『ネビュラ・アールグレイ』って、こんなのありましたっけ?」


 私はちょっと謎めいた顔を浮かべながら、缶のパッケージを眺めた。

 缶は全体的にピンク色の基調で、鎖が巻き付くイラストがプリントされている。

 コスモティーは全国的に有名だし、私も好きだから結構詳しい。

 けど、今手にしてる種類は見たことが無い種類だから。


「まっ、ちっと色々あんのさ。とりあえず、温かい内に飲もうぜ」


 なんで耕助さんがコレを手に入れたのか、結構気になる。

 けど、今はとりあえず一緒に飲む事にした。

 缶を開けるプシュという乾いた音が、静かな展望台に響く。

 一口飲むとラベンダーの薫がほんのりして、宇宙の神秘さが胸に広がるように感じた。


「美味しい……!」


 浜辺で貰ったのも凄く美味しかったけど、これはまた別の味わいがある。

 胸に広がる宇宙が心を広げ、何だか悩みが少し小さく感じる気がしてしまう。

 そんな不思議な気分を感じる私の前で、耕助さんは急にコートを脱ぎだした。


「暑ぃ……! サマーだよサマー。海が俺を呼んでるぜ」

「ええっ?! 耕助さん、それは言い過ぎです。今はまだ冬……」


 私が軽く笑いながらそこまで言った瞬間、耕助さんはコートを私の身体にバサッと被せた。


「澪、ちょっと着といてくれ。暑くてたまんねーんだ」

「ちょ、ちょっと耕助さんっ」


 私は焦った顔で見上げたけど、耕助さんはコートを私に着せたまま、受け取ろうとしない。

 確かに少し汗はかいているけど、こんな真冬にコートを脱いだら寒いに決まってるのに。

 けどそんな風に思う私をよそに、耕助さんは街の景色に目を向けた。


「まっ、とりあえず着とけよ。にしても、いい眺めだな」

「はい……」


 私も耕助さんの横に並んで、街の景色を見下ろしている。

 この展望台から夕日に照らされたビル街は見えるけど、人は小さすぎて見えない。 


───あの中で、私もみんなも笑ったり泣いたりしてるんだ……


 そう思うと、何だかとても切なく感じてしまう。

 ただその気持ちが、私から言葉を零れさせてゆく。


「耕助さん、実は私……最低なんです」

「最低? そうか……」


 耕助さんは否定してこなかった。

 少し意外だったけど、その分話しやすい。


「今日、せっかくみんなと仲良くなれそうだったのに、私が変に勘ぐったせいで、全部、壊しちゃったの……」


 私は視線を足元に落としたまま、ぽつりぽつりと口にした。

 渦巻いていた気持ちを言葉にすると、ハッキリ分かる分、自責の念が増してゆく。

 私はギュッと拳を握りしめた。

 情けなくて悔しい気持ちが止まらない。

 そんな私を耕助さんは横からスッと見つめたまま、軽く笑みを浮かべた。


「なるほど……澪は優しいヤツだな」

「えっ?」


 軽く謎めいた顔を振り向けた私に、耕助さんは真摯な眼差しで静かに告げてくる。


「トラブった時ってのは、だいたいのヤツは相手を悪く言うもんだ。けど澪、お前は自分を責めてる。優しい証拠だ」


 私は思わず目を大きく見開いた。

 そんな風に考えた事なんて、一切なかったから。

 もちろん、だからといって自分が優しいとは思わない。

 でも、気持ちが少し楽にはなった。

 

「耕助さん、ありがとうございます⋯…!」


 見上げながらお礼を告げた私に、耕助さんはニカッと微笑んだ。


「それによ、壊しちまったって事は、一度は創れたって事だろ。だったら、また創りゃいいのさ」

 

 その言葉は嬉しく思うと同時に、私に少し重さも感じさせる。

 

「そうですね。でも、出来るのかな……私に」


 私は不安げな面持ちのまま、軽く斜め下に視線を落とした。

 確かに、耕助さんの言う通りだとは思うけど、また上手く創れるかは自信が無いから。

 元々内気な私には、仲良くするキッカケ作りが一番難しい。

 正直、明日みんなとどんな顔をして会えばいいのか悩んじゃう。

 そんな私の横で、耕助さんは展望台の柵に両腕を乗せて街の景色に目をやった。

 夕暮れの光に照らされた耕助さんの横顔は、どこか切なく感じる。

 

「出来るさ。歌に向き合うのと同じように、人にも真っすぐに向き合えば応えてくれるもんだ」

「真っすぐに……」

「そう。もちろん、それでもダメな場合だってある。他人を変える事なんて出来やしない。けどな……」


 耕助さんは、そこまで言うと私にスッと振り向いた。

 

「歌にも人にも、真っすぐ向き合う事は自分で出来る。だから俺も澪も、ただそれをしていけばいいのさ。無理せず、一歩ずつ確実によ」


 優しく力強い笑みを浮かべた耕助さんの言葉が、私の心に沁みてくる。

 それが、本当の意味で私の心を落ち着かせた。

 これからどうしていったらいいのかが、耕助さんのお陰で分かったから。

 

「分かりました耕助さん。私、歌にもみんなにも、真っすぐ向き合っていきます!」


 力強く告げた私に、耕助さんはコスモティーを片手に軽く微笑んだ。


「らしくなったな。まあ俺も澪も、まだまだここからだ。たまにはこうやってコスモティー飲みながら、一緒に頑張っていこうぜ」

「はいっ……!」


 熱い気持ちと共に笑みを浮かべた私と、それを優しく見つめる耕助さんを、オレンジ色の光が優しく照らしてる。

 心も希望でいっぱいになり、明日からもまた頑張れそう。

 私はその気持ちのまま、耕助さんと一緒に展望台を後にした。


 けれど翌日、私はとんでもない出来事に巻き込まれてしまう事になるの。

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