UNDER XVIII

春島 傑郎

Ⅰ:魔神と勇者

 破魔の剣が振り下ろされる。その剣は魔神を切り裂く。

 筈だったのだろう。実際には薄皮にすら傷はつかない。勇者の顔を見るに、渾身の一振のようだ。


「今回の勇者は貧弱だな」


 いつまでも肩にある剣を手で払うと、小枝のように折れた。武器も貧弱そのものだ。


「さ、さっきの話を飲む。世界の四分の一で手を打たせてくれ」


 適わぬとみるや命乞いに切り替える情けなさ。人間の尺度では強く、繁殖機会も多く得られる外見なのだろうが、生まれ持った「勇気の加護」だけではどうにもならない。

 怯える勇者に手を差し出す。警戒しながらも勇者は魔神の手を取った。


「交渉成立だな」


 ぎこちない笑顔から苦痛に切り替わる勇者の顔。

 魔神は勇者の手をもぎ取った。勇者の右肘の先、ある筈のない歪な断面から、大量に出血していた。


「ぐあぁ。なん……で」

「初めから要求を飲めば飼い殺してやったのだ。『勇気の加護』が次の奴に移るのも面倒だからな」

「待ってくれ。命だけは……」


 苦痛と恐怖に歪んだ顔。対峙したときの自信に溢れた勇者の顔を思い出し、口角が上がる。


「ふふ。剣を向けたなら、殺すか死ぬかだろう?」


 魔神の指先から放たれた波動が、勇者の上半身をこの世から消した。


 こうした人間界の唯一の希望である勇者と、絶望と恐怖の権化である魔神の闘いは、この世界ではずっと繰り返されている。

 魔神はこれまで歴代勇者を217回殺し、54回不可侵条約を結び、2回殺された。

 勇者の力の源である『勇気の加護』は、別の個体へと引き継がれるが、魔神は死しても同一個体として復活し、戦闘経験が振り出しに戻らない。圧倒的な利が魔神にはある。


 とはいえ、二度は遅れをとり、復活には時間がかかる。

 復活を待つ無に浸る時間は苦痛であり、勇者はいないに越したことはない。


 突然、勇者の死体がぼんやりと光る。『勇気の加護』が次の宿主へと移動するつもりだ。

 その光は魔神城の窓をすり抜け夜空へと飛び立つ。魔神も不気味な漆黒の翼を広げ、窓を突き破り『勇気の加護』の行先を見定めた。

 いつもなら見失う速度で、視認できないほどの遠くへ消えていくが、今回はそうではなかった。


「あの策を使ってみるか」

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