第9話

 的場が拳銃は偽物だと気付いたのは、コンビニ強盗を想定した研修のおかげらしい。

 警察官も驚いていた。

 警察署で事情聴取を終えると、外にはもう月が出ていた。強盗に蹴りつけられた鳩尾もなんともなかった。

 

 的場と寿一、俺とで三人並ぶ帰り道。

「お腹空きませんか?」

「もしや奢ってくれるんすか?」

 的場の私服は初めて見る。ラクダ色のチノパンと白いサマーニット。私服だと印象が変わるな。

 的場と晩御飯……正直なところそそられるが、家族にはとにかく早く帰ってこいと言われていた。

「俺はパス。寿一たちで行って来いよ」

「えー、じゃあ俺もパス」

 乗り気だった寿一が、なぜか手のひらを返す。

「そうですか。大学生の懐事情としては助かりますが、残念です」

「「大学生!?」」

 俺と寿一がハモった。

「ぴかぴかの大学二年生です」

 的場が薄い胸を反らす。

 驚いた。若いと思っていたが、学生だったなんて。

的場が学生として、授業を受けているところは想像できない。

「永年コンビニ勤務してそうなのに……」

「一体どんなイメージを、私にお持ちなんですか」

「何って、コンビニ。つーかどこまで行くんだよ。寿一、お前は家が反対方向だろ」

「こしろーを一人にしちゃ不安だから、付き添いで送ってく! 明日は迎えにくるからな」

「んな過保護な……」

 男一人に対して、大袈裟だ。

 意外なことに、的場も真面目な顔で頷いた。

「私も賛成です。村上くんは危なっかしいですから」

「ですよね。こいつ中学の時から、もうヒヤヒヤさせっぱなしで」

「心中お察しします」

 俺の悪口で、寿一と的場が通じ合っている。

 そして二人は、俺が中学のエピソードトークで盛り上がり、玄関口まできっちり俺を送り届けたのだった。過保護だっつの。


 両親からの説教と、姉貴からの溜息を受けて晩メシを食べて、風呂に入った。

 湯船でお湯につかり、一人きりになる。身体が温まると同時に、疲労が巡ってくる。

 屋上で寿一と喧嘩、コンビニで強盗に遭遇、三人で歩いた夜道。

 濃い一日だった。気を抜いたらこのまま眠ってしまいそうだ。

 英語の小テストが、あるから、このあと勉強しないと。明日の朝に回して、今日はもう早く寝て……

 的場、格好良かった。

 唐突に関係のない思考が、ぬるりと侵入してくる。

 玩具とはいえど拳銃を蹴り飛ばして、綺麗に一本背負いを決めて、アクション俳優のようだった。

 血管の浮き出た腕を照明にかざす。雫が滴って、水面に落ちていく。的場は俺よりも細腕で、非力そうなのに強かった。

 強盗に人質にされた時は、怖かったし気持ち悪かった。金になるという意味も理解できない――想像もできない。


 けれど、的場が俺を助けてくれた。

『大丈夫? 怪我はないですか?』

 ぱしゃり。

 水音が立つ。俺は腕をクロスさせて、自分の身体を抱きしめる。

 どうしよう、どきどきする。のぼせそうだ……

 まとば……下の名前、聞きそびれたな。

 てかやべえ、本当にのぼせそう……

 俺は湯船にブクブクと沈んでいった。

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