勇者の息子のスローライフ 〜勇者である母から知らない少女の面倒を見るように言われて困ってるんだが?〜
リズ
訪ねてきた少女
よく晴れた、日差しの強い日のこと。
ある村に住む少年、リヒト・シュタイナーは村人からの依頼で魚を釣りに近くの川に仲間である年下の少年少女とやって来ていた。
「俺だけ釣れねえんだけど」
「場所が悪いんでしょうか?」
岩場に座って釣竿から糸を垂らしているリヒトが、隣で二つ年下、十六歳を迎えたばかりの、背の低い茶髪の少女ルネが吊り上げた魚を目で追いながら呟いた。
そんなリヒトに、ルネは首を傾げながら言うと、川下で槍を構えている幼馴染で茶髪の少年、ウィルに視線を向ける。
「ウィル〜。そっちはどう?」
「おりゃ! ……よし獲れた! これで三匹目!」
ルネの言葉の直後、水面を突いたウィルの槍。
その槍は魚の胴体に深々と突き刺さっていた。
「俺も剣でやれば良かった。あっ、そうだ」
年下の二人に釣果で負け、ため息を吐いたリヒトだったが、何か思い付いたのか、釣竿を岩場に置くと、立ち上がったリヒトは岩から水面に飛び降りた。
浅い川だが、それでもリヒトは水に濡れないように、水面に足が着く前に魔力で足場を形成すると、そこに立ち、魔力を手に集めていく。
そして、その手の魔力に属性を付与。
雷撃魔法で魚を感電させ、一網打尽にしようと考えたのだ。
「あ〜。兄ちゃんズル〜」
「流石に魔法はダメですよお兄ちゃん。獲りすぎは禁止って、マスターも言ってました」
「はあ。分かった、分かったよ」
弟や妹のような二人に言われ、リヒトは手の魔力を握り潰すと「まあせっかく降りたし」と、水中に手刀を刺し込み、魚を手掴みで一匹捕獲して、魔力の足場から岩に飛び上がってルネのバケツに捕獲した魚を放り込んだ。
「これで依頼分は達成だな。帰ろう」
「了解で〜す」
「はーい」
その日の依頼分の魚を捕獲したので、リヒトたちは川から村への帰路についた。
草原をしばらく歩き、土の道に出てしばらく歩いていると村の小麦畑が見えてくる。
まだ日は高く、青い空に白い雲が流れ、空を泳ぐように飛んでいる四枚羽の鳥が見えた。
「いやあ。平和だなあ」
「兄ちゃんジジクサイな」
「そうか?」
他愛無い話をしながら歩くリヒトたち。
そんなリヒトたちの後ろから、ガラガラと木の車輪が回る音が聞こえてきた。
振り返って見てみれば、幌付きの馬車がこちらに向かってくる。
「今日って行商人のおっちゃん来る日だっけ?」
「いや? いつものおっちゃんじゃないな。別の行商だろ」
ウィルの疑問に答えていると、馬車がリヒトたちを追い抜いていった。
そんな時、リヒトは幌馬車の荷台に乗っていた少女と目が合う。
肩までの薄い赤い髪の少女の目は、綺麗な翡翠のようだった。
そんな少女が乗っていた馬車を見送り、リヒトたちは歩いて行くと村に到着。
村唯一の酒場を兼ねている冒険者ギルドに足を運んだ。
こじんまりした木組みの家くらいの冒険者ギルドは、リヒトの生まれ故郷であるエドラという都市のギルドに比べると吹いて飛びそうな様相だが、中は綺麗なもので、しっかりと掃除が行き届いている。
そんなギルドの受付、というかもはや酒場のカウンターのようなその場所に、エプロンを着用している二十代半ばの女性が立って何やら書類仕事をしていた。
その女性の頭からは枯れ枝のような角が生え、ロングワンピースの臀部付近の穴からは鱗に覆われている尻尾が生えている。
「ミユ姉さん、じゃなかった。ギルドマスター、ただいま。はいこれ、依頼の魚」
「お帰りなさいみんな。早かったわね、じゃあこれ報酬ね」
竜人族のギルドマスター、ミユから報酬を受け取ると、それを三等分しようとするが、リヒトは自分の釣果がほぼ無かった事に負い目を感じ、ウィルとルネに少し多めに報酬の金を渡した。
「兄ちゃん、気にしなくていいぜ?」
「そうですよ。私たちパーティじゃないですか」
「いい。次は負けねえ」
「釣りを勝負か何かと考えてらっしゃるよこの人」
「う〜ん。負けず嫌い」
受付カウンターの前でそんなやり取りをしている三人を、ギルドマスターは微笑んで眺めていた。
村で唯一の冒険者パーティは仲が良く、みんな未来ある優しい子供たちだ。
「みんな今日はご飯食べていく?」
「いや。今日はいいや。この前貰った野菜がまだあるし」
「俺も帰ってから食べるかなあ」
「私も〜」
「あら残念。また食べに来てね、基本的に暇だから」
「ギルドとしてそれは大丈夫なんだろうか」
「いいのよ。田舎だし」
村長に聞かれたら怒られるんじゃない? というツッコミはあえてせず。
リヒトたちはその日は解散。
ギルドの前で別れ、リヒトは一人で自宅へと向かっていった。
キッチンと、ベッドを置いている広めのリビング一部屋に風呂トイレのみという、一人で暮らすには十分過ぎる広さのマイホーム。
この村に来た際にみんなで作った我が城。
そんな我が家の前に、二つの人影を見て、リヒトは警戒して腰に差していた剣の柄に手を掛けるが、その人影の一つに見覚えがあって、すぐに手を下ろした。
「あれ? 村長さん珍しいね」
「おおリヒト、帰ってきたか、ちょうど良かった。お前さんに客人だ。母君からの手紙を預かってきたそうじゃ。では、儂は帰るでな。あとはよろしく」
「ああうん。ありがとう?」
長い白髭を蓄えた村長の言葉に答えながら、隣に立つ人、少女を見て、リヒトは少し驚いていた。
自宅の玄関前に村長と立っていたのは、村に帰ってくる際に追い越していった馬車に乗っていた薄い赤髪の、翡翠のように綺麗な目をした少女だったのだ。
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