第36話 海兵隊








 ベルトの魔石が輝き力を発揮する。


「シールドバッシュ!!」


 力を込めての渾身の一撃だった。

 ちなみに言葉に出すのは、心無しか威力が15%増しになる気がするからだ。


 戦士ゴブリンが吹っ飛ぶ。


 パワーなら圧倒的に俺が上!


 戦士ゴブリンは周囲にいたゴブリンを巻き込んで、屋上を囲う鉄柵に激突する。だがそれでも止まらず鉄柵を突き破り、ゴブリン数匹と共に桜木マンションの敷地外に飛び出した。


 そう、奴らは30階建てのマンションの屋上の外だ。高さにして地上100メートルと言ったところだろうか。そこへ奴らは投げ出された訳だ。


 落ちて行く瞬間、戦士ゴブリンと目が合った。それは驚きの表情だった。


 何かを叫びながら落ちて行く。


 しばらくしてズシーンという音が聞こえた。

 

 屋上に残っていたゴブリンどもは大騒ぎだ。

 慌てて球体に乗り込んで行くのだが、俺がそれを許さない。


「逃がすかよ!」

 

 メイスの一振り。


 その一振りで球体が大きくへこみ、破片を散らばせながら空中に投げ出された。

 

 そして大爆発。


 こんなに派手な爆発は初めて見る。それこそ映画のワンシーンの様だ。


 俺はさらに、屋上に着陸していた球体に目がいく。

 ちょうどゴブリンが振り返りながら、球体入り口に入って行くところだった。

 それもやはり恐怖の顔。


 構わずメイスをフルスイング。


 今度は鉄球が球体に喰い込んだと同時に大爆発。屋上に破片が散らばる。


 乗り遅れたゴブリンも一緒に吹き飛んだ。


 そして最後のひとつの球体。

 その球体の前で一匹のゴブリンが、恐怖の顔で片手を前に出し、まるで待ったを掛ける様な仕草をする。


 そこへ俺は何の躊躇ためらいもなくメイスを叩き落とした。


 今回は爆発は起こらなかった。

 鉄球が球体に喰い込みはしたんだが、そこから煙が噴き出るだけで屋上に留まっている。

 ゴブリンは一瞬で消えた。

 さらに球体の中からはヨロヨロとゴブリンが数匹出て来たが、そいつらも倒れたと思ったら直ぐに消えていった。これで多分ゴブリンはいなくなったと思う。

 空を見上げても球体はいない。完全に排除した。

 俺の完全勝利だ!


 だけどガスマスクみたいなのは、今回してなかったな。魔法で解決でもしたのか。疑問が残るよな。


 俺は気を取り直して、爆発しなかった球体に近付いて行く。使えそうな物はないか気になったからだ。


 空いている隙間は狭く、コブリンかって通れるくらいの穴で、そこから中に入ろうとは思えなかった。だがゴブリン製の盾と槍が、機体の隙間に挟まっているのが見えた。

 これはラッキーだな。思わず手で触れてしまった。

 そこで思い出す。個人認証してある武器だったら燃えて無くなる。

 慌てて手を引っ込めたが、既に槍は握って仕舞っている。しかし燃えない。おかしい。

 いや、おかしくないか。個人認証する前の状態だったというだけだ。

 折角の戦利品を危なく消すところだったよ。


 俺は槍と盾を持ってまずは桜木さんの玄関前に行く。そこからはエレベーターで一旦は一階に降りて、メイドカフェへ向かうつもりだ。

 だがエレベーターが動かない。よく見ると照明が消えている。つまり停電だ。


 ああ、このパターンはあれだ。

 下に警察が来てるパターンか。

 球体が居なくなったから、その内にヘリも来るだろうな。


 俺は溜め息をつきながら階段で下へと降りて行った。


 一階のイントランスホールに着くと、やはり予想通り奴らは居た。だがそれは警察では無く、迷彩服を着た部隊だった。何十丁ものライフル銃が俺に向けられている。

 そいつらは日本人ではない。俺のミリオタ知識が警笛を鳴らす。

 あれはアメリカ海兵隊の軍服だ。

 部隊章などの記章類は一切着けてないが、その装備は全てアメリカ海兵隊のもの。

 遂にお出ましになったか。

 多分、上の階も抑えられているだろうから、戻るのも無理だろうな。

 

 正直今は戦いたくはない。なんたって俺の最大の防御である盾にヒビが入っているからな。このまま使用を続ければ、間違いなく壊れる。その前に修理したい。

 でもそれも無理そうだ。


 海兵隊がエントランスホールに列をなして入った来た。

 さらに階段の上階からも足音が聞こえてくる。やはり上にもいたらしい。

 逃げ道なしだ。


 仕方無い。

 俺は戦闘体勢をとり、階段室からホールに出て行く。


 しかし一向に銃を撃ってこない。

 銃弾が効かないのは分かっているからだろう。もしくは俺を刺激しない様にしているのかもしれない。俺が暴れたら大変な事になるくらいは、理解しているだろうしな。


 俺は戦闘体勢のまま、ゆっくりと歩き始める。

 すると俺に合わせるように海兵隊も移動するのだが、隊列が乱れないのは凄いな。一定の距離を保ち続けている。


 俺がエントランスホール中央まで来た所で、海兵隊の間から将校らしい人物が出て来た。

 大佐の階級章をつけている。


 その大佐が3メートル程の距離を空けて話しかけてきた。

 それも日本語でだ。


「はじめまして、私はのヘンリー。君は間藤君、よろしいか」


「ああ、そうだが、俺に何の用がある」


「お互い行き違い、あった。仕切り直し、したい。話し合いOK?」

 

 何が行き違いだ。勝手な事を言いやがる。

 ここで断ったらどうなるのかな。やっぱ戦闘になるよな。アメリカ軍だったら、ミサイルとか撃ち込んできてもおかしくない。

 それならば話し合いの席に着いたらどうなるか。

 やっぱ拉致されるだろうな。そうなる前に戦闘になる。そしたら巡航ミサイルを撃ち込んでくるだろうな。

 結局同じか。

 なら答えは決まっている。


「断わる!」


 大佐か驚いている。


「何と? 話し合い、断わると?」


「繰り返し言おう。断わる!」


 その時だった。


 一発の銃声が響き渡る。


 俺の目の前にいた大佐の胸が、一瞬で赤く染まる。


 その時の海兵隊の反応が早かった。


 俺に向かって一斉射撃。


 何で俺にだよ!


 盾の自動防御システムが作動し、盾が幾つも現れて全ての弾丸を弾く。


 その間に倒れた大佐を運んで行く。

 でもどう見ても即死だった。


 俺は慌てて大声で訴える。


「俺は撃ってないからな、俺じゃないって!」


 何を言っても聞き入れてくれる雰囲気は無さそうだ。


 一部の兵隊が周囲の建物に銃を向けて、狙撃した奴を探している。まさか狙撃した奴が俺の仲間だと思っているのか?


 ええい、面倒臭い!


「正当防衛だからな!」


 そう言って俺はメイスを振り回した。


 部隊が丸ごと吹っ飛び、隣りの建物の壁に激突する。それでも射撃は収まらない。後ろから撃ってくる。

 それならと階段から降りて来た海兵隊を、振り向きざまにぎ倒してやった。

 だがそれだけじゃない様だ。近くのビルの上から撃ってくる奴らがいる。

 それらしい建物を見回すと、建物同士で撃ち合っている所もあった。各国の諜報員同士が戦っているんだろう。

 と言うことは、大佐を撃ったのも他国の諜報員何だろうな。俺とアメリカ軍との交渉を阻止したんだろう。


 それでこの状況となると、俺を殺すか無抵抗化してゴブリン製の武器を奪おうとしてくるな。でもそいつらは肝心なことを知らない。個人認証システムがあるから、他人は所持出来ないって事をだ。指輪は別だがな。


 俺が海兵隊を吹っ飛ばしてしばらくすると、生き残った海兵隊らが俺から距離を取り始める。

 嫌な予感がする。


 そこで近くのビルがパッパッと光った。

 そして何かが煙を吐きながら、こちらに向かってくる。


 ロケット弾だ!








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