第28話 魔法の指輪
桜木さんは語り出す。
「私、生まれは日本なんだよね。でも小学校1年生の時にさ〜、連れ去られちゃつて。空手道場からの帰り道だったかな。気が付いたらゴブリンみたいな異星人に歩かされてんだよ~。それが見たこともない森の中でさ、見たことも無い植物ばかりだったんだよね〜。クネクネ動く植物とかいるのを見てさ、ここが地球じゃない別の所だって、子供ながらに理解してたと思うよ。とにかく怖くてずっと震えてたんだよね〜、笑える、ガキんちょだったんだな〜」
そこで俺が口を挟む。
「その時は一人だったのか」
「あ〜、そう言えば一人じゃなかったかも〜。十人くらいで森の中を歩かされてたかな。でも日本人は私だけだったよ。誰とも言葉が通じなかったからね〜。それで丸太で作られた高い塀が見えて来て、そこに入れられたんだんだよ〜。中には沢山の人間が住んでてね、奴らに強制労働させられていたんだよ。その中にはコミュニティがいくつかあってさ〜、私は自然と日本人コミュニティに入ったんだよね〜」
「働かされてたって言うけど。具体的には何をさせられてたんだ?」
「仕事は色々あったよ。魔物の植物畑を管理する人達とか〜、あとは鉱山に木こりに木工、まるで地球の昔の生活みたいだったよ。奴らってさ、生活レベルは低いみたいなんだよねえ。でも地球人とは大きく違うのは、魔法の存在だよ〜。あいつらさ〜、魔法みたいなのを使ってくるんだよねえ、魔法だよ魔法。中世みたいな暮らしをしてるくせにだよ〜、魔法の道具とか使うから文明レベルがチグハグなんだよね〜。それでさ、私は魔物植物の管理をすることになったんだったかな〜。でも直ぐに奴らに別の仕事につかされたんだよね。今考えるとさぁ、多分子供だったからだと思う。日本語がしゃべれる異星人が出て来てさ、私を教育し始めたんだよね〜。怖くて最初は何にも頭に入ってこなかったかな〜。ま、学校みたいなもんかな。そこには私以外にも20人くらい居てさ、皆同じように勉強させられたかな。でも不思議なのはさ、お互いに言葉が通じないんだよ、ブルったよね〜。日本語話せるの異星人の先生だけだったんだよ。後で分かったんだけど〜、それも魔法だったみたい。でもその学校で魔法とかを理解出来るようになったかな〜」
奴ら、つまりゴブリン達から桜木さんは教育されてきた訳だが、それには奴らの魂胆があった。再び地球に戻してスパイをさせること。
そして桜木さんは13年ぶりに地球に戻り、定期的にゴブリン達と連絡をとりながら、地球で暮らしてきたと言う訳らしい。定期連絡と言っても日本で起こった大きなニュースとかの報告が殆んどだったらしい。どうやら人間の文化や風習を気にしてたようだ。
そこで俺は再び質問した。
「なあ、地球に戻った時によ、何でその奴らから決別しなかったんだよ」
「せん君さ〜、誰が“異星人に
「いやいや、そうじゃなくてもだよ、定期報告なんかしなければよくね?」
「それがさ〜、聞いてよ。報告が遅れるとどこに居ても連れ去られるんだよ〜、あの場所にだよ〜。逆らえるはず無いじゃ〜ん」
「そ、そうか。なすすべ無しかよ……それなら、もしかしてこうして素性を話したのがバレたらだよ、桜木さんはまた連れ去られるのか」
「そうかもねえ……」
何か空気が重くなってしまったな。
「そ、そうだ。俺のこの武器で何か分かることあるかな」
俺はメイスと盾を見せる。
「あっちでは異星人の武器は見ることはあっても〜、触ることは滅多になかったから知識も殆んど無いんだよね〜。私もこっち来て初めて武器を手にしたくらいだかんね。だから分かる事と言ったらさ〜、これがかなりレアな魔石ってことくらいかな。緑色の魔石が入った武器なんか、今まで見たこと無いよ。色がついた魔石はレアでさ〜、それだけ強力ってこと。私の任務でそれを取り返すってのもあったかな〜なんて」
だから家に誘ったのか……
「じゃあ、こっちはどうだ。この指輪っ」
俺の指の黒い石が
「ちょっと前に私が聞いたじゃん。あれってもしかしてその指輪は魔道具かな~と思ったからなんだよね。やっぱそうなんだね〜。近くで見て確信したよ。これも魔道具だよ〜。せん君、凄いの持ってるじゃん。指輪の魔道具はかなりレアって聞いたことある。それに黒い魔石はレア中のレアだよ〜。魔石の色は濃いほど強力でレアなんだ〜。それを人間が持ってるとか、ビックリだよ〜」
「それで何の魔道具か分かるのか」
「だ〜か〜ら〜、私の専門外だっての。でもね〜、魔道具の使い方なら分かるかな〜」
使い方だと〜!
「頼む、教えてくれ。そうだーーこれ触り放題にするぞっ」
そう言って、フェリスの獣耳を引き寄せた。
「ふにゃ〜!」
引っ
「魔道具の扱いは簡単だよ。手に触れて念じるだけだよ〜。念じると何かを持ってかれる感覚があるけど、それが魔力ってやつだね〜。魔力を消費する感覚ね〜。魔力って地球の知識だと、ダークマターらしいね〜。それを体内で変換させたものが魔力みたい。だけど~、魔道具によっては魔石から魔力を吸い取って、使用者の魔力消費は必要ないパターンもあるからね。それよりさあ、早く念じてみてよ〜。どんな魔道具か知りたい~」
「念じると言っても、何を念じれば……うっわっ!」
急に頭に何かが入ってきた。
魔石の加工方法?
魔石のコントロール?
魔石の魔力充填方法?
・
・
・
魔石に関する知識だった。
魔道具の作り方的なものまで!
この指輪は魔石の知識が詰まった本みたいなものらしい。もしくは魔石技術を利用する職人の、ジョブやスキルの指輪か。
それに言われた通り、身体から何かが抜けて行く感覚。
まさにファンタジー!
違う、ゲーム世界!
すげ〜、俺、魔道具が作れるかもしんね〜!
魔物から取れた魔石を使って、魔道具の魔石へ魔力補充をすることも出来るらしい。
これで俺のメイスや盾にエネルギーを補充できる。
そこでグリムが尋ねてきた。
「何が感じられました?」
「魔石の知識と利用法だな。俺は魔石職人になったらしい。材料と魔石さえあれば色々作れる。でもな、材料の入手が難しいな。聞いた事もない材料ばかりだよ」
「それってゲームに出て来る様な、素材集めをしろってことですかな」
「そうだな。素材があれば何でも作ることが出来る。もっと強い武器やワンドもな。ただし魔法を使える者がいないと、ある程度限定されるがな」
魔物には保持できる魔力量によって採れる魔石の色が違うらしい。
保持出来る魔力が多ければ多いほど魔石は大きくなり、魔力濃度が濃いほど色が濃くなるらしい。
だから黒い魔石は究極の魔石でレアとなる。
その知識の中でゴブリン武器や所持品が消える理由を見つけた。
「ゴブリンの所持品が消える理由も分かったぞ」
俺がそう言うと桜木さんが答えてくれた。
「ああ。それね~。それって認証登録のことでしょ。認証登録するとその人以外には持てないんだよねえ。だから所持者が転送されると一緒に消えるんだよ。たださ~、どういう訳か認証登録出来ない品物もあるんだよね。確か小さい品物だと無理って聞いたことあるし~、認証登録する前なら最初に触った者が仮の登録者になるねえ。そうだ、このコンテナの武器はまだ誰も触ってないよ~。欲しければ持って行って良いよ~」
それでも倒したゴブリンが消える理由が思い浮かばない。
「なあ桜木さん、ならさ、ゴブリンが消えるのはどういう理由なんだよ。まさかゴブリン自体にも所持者登録とか働くのか?」
「黒幕は別にいるんだよねえ。あの緑色のヒューマノイドはアバターなんだよ。だからある程度のダメージがあると転送が切れちゃうのかな~。ファンタジー的に言うとリザードマンみたいなのがいてさ〜、そいつが黒幕なんだよねえ。私も一度だけ遠くから見たことあるよ。アニメの中のリザードマンそのものだったね~、笑える。そのリザードマンのアバターが緑色のヒューマノイドだよ。云わば遠隔操作出来る生体兵器みたいな感じかなあ」
聞けば聞くほどに、奴らのテクノロジーが怖くなる。
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