学園 編

第27話 入学式

 王都の中心部にある学園。

 そこはこの国で一番の教育機関だ。

 王都の中だというのに、広大な敷地面積を有している。

 おまけに施設もすべて立派で、金がかかっていることは火を見るよりも明らか。

 それもそのはず、ここは上流貴族や王族が通う場所。

 平民もいるにはいるが、かなり少数だ。

 そしてそのわずかな割合に入る平民の1人が、今まさに学園の門をくぐっていた。


 「やはり、かなり広いな」


 「にゃあ」


 その男は黒を基調とした制服に身を包み、肩には真っ黒な猫を乗せていた。

 大きくはない、どちらかというと小さい部類に入る猫の首には、金色の首輪がかかっている。

 周りには他の新入生がいるが、誰もその男のようなペットを連れていない。

 そもそも、この国に生き物を飼う習慣はあまりない。

 魔物が多く、飼うのに適した生き物が少ないからだ。

 その上、ここは学園。

 いくら貴族でも、わざわざペットを連れて行く物好きはほとんどいないだろう。

 もし問題を起こせば、その責任は飼い主に来るのだから。

 それにここでは、生き物は研究の対象になることが多い。

 外も危険だが、ここで迷子になったら研究対象と間違われてしまう可能性もある。

 よって当然、この猫には視線が集まるはずなのだが。


 「今年はエリー王女殿下が主席だって~」


 「やっぱり王族は違うね~」


 目の前を生徒たちが談笑しながら通り過ぎる。

 なぜか誰もそこに視線を向けていなかった。

 むしろ、その男と猫は存在していないかのように素通りされている。


 「こっちに行けばいいのか」


 そのまま大勢の流れの中に紛れていった。



 ♢ ♢ ♢



 レイラと別れてから2年。

 ようやくこの日がやってきた。

 なんとかギリギリに研究を終わらせ、レイラに手紙を書いたのだが、どうやらレイラはアレを使ってくれたようだ。

 ステージの裏手に俺と同じ魔力を感じる。

 ちゃんと指輪もつけてくれてるし、もしかしたら、デニスや国王の助言通りに行けるかもしれない。

 今でもデニスの必死な形相を思い出せる。


──お前っ、あの子を振ったのかよ!?


──次会うときは全力で謝って、自分の気持ちを伝えろよ!


──いや。お前のことだからはっきり言うが、指輪を渡して「結婚してください」って言え! いいな!?


 あの時は誤解を解くのが大変だった。

 レイラを捨てたとかで本当に殴ろうとしてきたからな。

 ただ、助言はとても参考になった。


 「今日はレイラ様が見れるぞ」


 「マジで楽しみ過ぎるな! 前に見たときは目が離せなかったし」


 ここは広い講堂。

 パッと声のした方を見ると、半分以上が埋まっている。

 そしてステージが見やすい前の方に座る生徒は、全員が胸に金や銀のバッジを付けていた。

 あれは貴族の階級を示すバッジであり、平民の俺は黒色だ。

 そして最後列からちょっと前に行ったぐらいの、目立たない場所に座っていた。

 もちろん、気配を消して。


 「あ」


 かなり前の方、具体的には最前列に、見知った人影があった。

 仲良く並ぶ2人の銀髪の少女。

 一方は肩まで伸ばし、もう一方はかなり短めだ。

 その2人、セーラとアイラはキョロキョロと周りを見渡していた。

 そういえば2人とも俺と同い年だったな。

 2人に見つかっていないようで安心だ。


 「にゃ~」


 肩で眠そうにあくびをしているのは、2年前に拾った魔物のルルだ。

 小柄の真っ黒な猫で温厚だが、かなり強い。

 具体的には、未知の森の中では最強クラス。

 その上、俺の実験を受けた最初の魔物であり、俺の能力の一つである転移が使えるのだ。

 事実上、この国で最強の魔物だろう。

 それだけなら危険な魔物なのだが、どうやらルルは人の言葉を理解しているらしい。

 高い知能を有していて、言うことをちゃんと聞いてくれる。

 念の為、暴れないように魔道具の首輪もかけているから、問題ないはずだ。


 気配を消しているのは、ルルがいるからではない。

 もちろんそれも理由の一つにはなるが、一番はレイラのためだ。

 国王からレイラの様子をちょくちょく聞いていた俺は、レイラがこの学園の生徒会長になったことを知った。

 1年生で生徒会長に選ばれるのは前代未聞らしい。

 それだけ努力をして、周りを認めさせたということだろう。

 現に今も、ちらほらとレイラの話が聞こえてくる。

 そのどれもが、期待や賞賛の内容だった。

 そんな歴代でもトップクラスの生徒会長だが、色々と仕事があるらしい。

 その中の一つが、入学式での話だ。

 新入生に軽く話すぐらいのものらしいが、それでも失敗させるわけにはいかない。

 それで評判が落ちるのはレイラなのだ。

 今会ってレイラの邪魔をすることになるのは絶対に避けたかった。


 「あの」


 と、思考に沈んでいると、不意に隣から話しかけられた。

 . . . . . . いや、おかしい。

 今の俺はそこそこ本気で気配を消している。

 それこそ結界も使って。

 それでもごく自然に話しかけられた?

 どういうことだ?


 「平民の方、ですよね?」


 隣を見ると、ふわふわした青い髪を腰まで伸ばした、小柄な少女がいた。

 胸元には黒いバッジを付けている。

 やはり俺に話しかけているらしい。


 「えぇ。そうですが?」


 「よかった。先ほどから探しても、全然平民の方が見当たらなくて」


 「そんなに珍しいものなんですか?」


 「例年、数人は受かると聞いているんですけど. . . . . . あ、私、レクシアって言います」


 意外にも少ないな。

 受験の時は1000人以上いた気がするんだが。


 「俺はレクトです」


 「にゃあ?」


 「あ、可愛い猫さんですね」


 「見えるのか?」


 素で聞いてしまった。


 「え? は、はい。あ、もしかして、この子は精霊とかでしたか?」


 「精霊も見えるのか?」


 「え、えーと。生徒の近くにそんな感じの生き物を見ることはありましたけど」


 まさか。

 ルルが見えた事にも驚きだが、この子――レクシアは精霊が見えるのか?

 精霊というのは、魔法を代わりに発動してくれる存在のことで、特殊な森や山で聞こえる・・・・

 精霊を使って自分では発動できない魔法を扱ったり、補助してもらったりできるが、それは滅多にいない。

 精霊は目に見えない存在であり、声を聞いて契約をすることで、契約者だけがようやく見えるようになるものだ。

 その声を聞くだけでも才能がいる上に、精霊に気に入られなければならない。

 精霊は気まぐれなものだと言われているので、完全に運だ。

 精霊を普通にみることができるなんて、恐ろしい眼を持っているな。

 俺の魔眼に近いかもしれない。


 「できれば、それは内緒にしておいてくれ」


 「はい。里の人にもそういわれました。変な目で見られるって」


 一度素で話してしまったし、この口調は使いにくいので普通に話すことにする。

 しかし、忠告されていたのになぜ話したんだろうか。


 「なんで話したんだ?」


 「え、その、その子が可愛かったから?、です」


 なんだこの子は。

 ポンコツなのではないか?

 忠告は何の意味があったんだ。


――静粛に


 と、頭の中で酷いことを言っていると、ステージからそんな声が聞こえてきた。

 頭を切り替えてステージの方に意識を集中させる。

 ついに始まるのだ。

 入学式が。





――――あとがき――――


 本当はこの話でレイラとレクトを再開させる予定だったのですが、思ったより長くなってしまいました。

 次回は必ず再会させる予定です。


 それと更新が不定期で申し訳ありません。

 これからも気長に読んでいただけると嬉しいです。

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