第11話 話し合い(2)
「私を救ってくださって、本当にありがとうございます」
レイラはとても綺麗な笑顔を浮かべて、感謝の気持ちを伝えてきた。
俺はつい、その笑顔に見惚れてしまう。
しかしやはり、これほど純粋に笑うレイラを見ると、助けたときの俺はかなり濁っていた気がする。
「いや、さっきも言ったが、俺はレイラを利用しようと. . . . . .」
「もう、こういう時は、どういたしましてって言うんですよ?」
「. . . . . . そうだな。どういたしまして、レイラ」
「はい!」
俺が促されたままそう言うと、レイラはまたもやきれいな笑顔を見せてくれた。
かなりひどい理由だったが、それでもあの時助けてよかったと思う。
「一つ伝えておきたいんだが」
「なんでしょうか?」
「レイラたちが襲われたのは、何らかの大きな組織が関わっている」
「どういうことですか?」
「レイラたちが襲われた年に、他にも似たような災難に見舞われた家がいくつかあるんだ。どれも魔法に長けた家だったな。その上、魔法の天才と言われる王女まで攫われかけた」
これは今の依頼主から聞いた話である。
王女の話は王族の方がもみ消したっぽいが、一部では噂程度に知られているものだ。
魔物が蔓延るこの世界では、魔法は重要な対抗手段だ。
その中でも優秀な魔法使いは毎年多くの魔物が出てくる未知の森付近で国を守っていることが多い。
襲われたのも、そんな未知の森に近い領地の家だった。
「では、また襲われる可能性がある、ということでしょうか?」
レイラは怯えながらそう聞いてきた。
これは良くないな。
せっかく酷い環境から抜け出せたのに、また怖がらせてしまった。
「俺がいる限り大丈夫だ。まぁ、そいつらの目的も情報も何もないが、一応知っておいてほしい」
「わかりました」
俺の魔眼があれば探れるが、なにせ情報が足りない。
貴族の中ならば他家を恨むことは多いと聞くし、かなり前の話だから強く記憶に残っている者も減っているだろう。
依頼主にも協力してもらうか。
「さて。次は、俺の話だな」
「あの、レクト様も無理には話さなくていいんですよ」
「わかっている。だが、俺もレイラに知ってもらいたいんだ」
このことを伝えられるのは、レイラぐらいだろうからな。
♢ ♢ ♢
14年前。
俺はとある貴族の元に忌み子として生まれた。
この呪いともいえる魔力をもって。
俺の生まれた家はとても裕福とは言い難く、辺境で身分も高くない、いわゆる下級貴族のところだった。
しかし俺が生まれて間もなく、その家は潰れた。
理由は明白、俺の魔力が原因だ。
母は俺の出産後まもなく死んだ。
ずっと俺の魔力の影響を受けていたのだ。
そして母の死後、俺の魔力が危険であることを知った父は、俺に近づかなくなった。
ただそれでも、衣食住や読み書きなど、生きる上で必要なものは与えてくれた。
常に死と隣り合わせでありながら、ここまでしてくれたのには今でも感謝している。
だが俺が5歳になった時。
ついに父も倒れた。
俺の魔力を微量ながら蓄積していき、果てには蝕まれたのだ。
「父は最後に、俺をある人の所へ託して息を引き取った」
「ある人、ですか」
レイラは沈痛な顔で俺の手を握ってくれている。
先ほどとは立場が逆だ。
「その人は、今の俺の依頼主であり、この国の国王だ」
「え、国王陛下が?」
「あぁ」
その後俺は国王のおかげで、この未知の森の中に家を建ててもらい、ここで過ごせるようになった。
しかし同時に、自分の存在が人を殺すものだと理解していた。
本気で死ぬべきだと思ったこともある。
「そんな. . . . . .!」
「ありがとうレイラ。だが、それは国王に止められたんだ」
レイラは俺の代わりに悲しんでくれている。
つい頭を撫でてしまった。
「両親の死を無駄にするな、と言われてな」
「. . . . . . 素晴らしい国王陛下です」
ちょっと頬を染めながら、上目遣いで見上げてくるレイラ。
結界さえなければ、抱きしめていたことだろう。
だが俺は、この呪われた魔力のせいで触れることができない。
「それから俺は、国王からの依頼をこなして報酬を得つつ生活していた。たまに街に下りたが、そのときに出会ったのがデニスだ。俺が8歳くらいの時だったな。子供の俺の話を聞いてくれて、いろいろ用意してくれた。まぁ、最初は信じていなかっただろうが」
「良い人ですね、デニスさんは」
「あぁ」
デニスには本当に助けてもらった。
まず、人と接触できない俺は、買い物がとてもやりにくかった。
場所も知らない上に、人に近づくことができない。
そして俺自身、あまりお金を触れられない。
その上、あまり町に長居できないのだ。
そんな中、デニスは俺が欲しいといった物はだいたい用意してくれた。
俺はデニスが死なないよう、二か月に一度訪れるかどうかの頻度でデニスに頼っていた。
「そんな生活をしていて、あるとき国王から奴隷の不正売買を抑えてほしいと依頼が来てな。見てもらったと思うが、俺の魔力は結界に特化している。転移もできるし、任意の条件で空間を仕切ることもできる。すぐに仕事をこなして終わるつもりだった」
だがあの時、俺はレイラと出会った。
「さっきも言ったと思うが、俺は最初レイラを見たとき、ただ俺の魔力の実験に使えると思っただけなんだ」
「. . . . . .」
「今もそうだ。俺はレイラに少なからず魔力の影響を与えているのに、レイラに出て行ってほしくないと思っている。レイラのことを考えるならば、本来は俺から遠ざけるべきなのに」
「それは違います!」
レイラは声をあげて抗議した。
「最初は利用できるという理由だったかもしれません。ですが、私は今、レクト様のお側にいたいからここに居るんです。たとえレクト様に出て行けと言われても、私の気持ちは変わりません」
「. . . . . .」
「もし、レクト様が私に申し訳なく思っていらっしゃるのでしたら、それは不要です。私は自分の意志でここにいるのですから」
「. . . . . .」
「私を遠ざけないでください」
レイラは意志の灯った目でそう言ってきた。
俺はその目に射抜かれたかのような感覚になる。
そうか、俺はどこかで、人と暮らすのを怖がっていたのかもしれないな。
いや、レイラだからこそ、自分が怖かったのだろう。
人を殺してきた自分が。
「. . . . . . わかった。すまない。俺が間違ってたよ。もうレイラを遠ざけるなんて言わないから」
「はい、約束ですよ」
「あぁ」
俺はまたレイラとの約束を増やした。
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