第6話 朝
俺は風呂から上がり、レイラのいなくなった部屋で諸々の片づけを結界なしで終えた。
まぁ、2階で寝ているだけだが、それでもさっきの状態に比べると寂しく思えてしまう。
レイラと会うまでは、そんなこと考えもしなかったのに。
「これは. . . . . .」
研究にでも没頭して寝ようかと思っていた時。
レイラの部屋から、悲痛な声が聞こえてきた。
♢ ♢ ♢
「レクト様. . . . . .」
俺は泣きながら目を覚ましたレイラを見つめる。
本当はもっとこう、抱きしめたりしてあげたいのだが、魔力の影響が怖くて手を握るので精一杯だ。
手だって、結界越しに握っているだけだが。
「大丈夫か、レイラ」
レイラは涙にぬれた瞳で俺のことをしばし見つめた。
そして握っている手を見て、もう一度俺の方を見ると、涙を溢れさせた。
「レクト様っ!」
そしてそのまま俺に抱き着いてきた。
咄嗟に俺とレイラの間に結界を張ったが、これだけ密着すると影響が出そうで怖い。
しかしこれほど泣いているレイラを引き離すことなどできなかった。
「どこにも行かないでくださいっ!」
何か悪い夢でも見たのだろう。
俺が逃げられないくらいに力いっぱい抱きしめながら、必死な様子でそう訴えている。
「置いて行かないでください!」
夢で俺がレイラを置き去りにでもしたのだろうか。
夢と現実を錯乱しているようだ。
「大丈夫だ、レイラ。俺はここにいる。レイラを置いてなんて行かないから」
俺はできる限り優しくレイラの頭を撫でながら、落ち着かせるようにそう言った。
魔力のことは怖いが、できるだけ注意して、レイラを抱きしめ返す。
「で、でも、みんな離れて行って. . . . . .」
「俺は離れない。ほら、ここにいるだろ? レイラの側に」
「. . . . . .ほんとう、ですか」
未だに泣きながら俺の胸に顔を埋めたままだが、俺の言葉を聞いて、多少は落ち着いてくれたようだ。
「あぁ。俺はどこにも行かない。ちゃんとレイラの側にいるよ」
「約束、ですよ」
「わかった。約束だ」
泣き声はだいぶ小さくなったが、それでも恐怖に震えている。
よほど怖い夢を見たようだ。
「レクト様. . . . . .」
その後しばらく、レイラが満足するまで抱きしめ続けた。
♢ ♢ ♢
「申し訳ありません」
レイラが落ち着いた後、リビングに移動した俺は、朝ごはんの準備をしていた。
レイラにはソファに座って待ってもらっている。
さすがにあの状態の後、料理をさせる気にはならなかった。
まあ、俺がレイラに何かしてやりたかったというのもあるが。
本当はもう一回寝てほしかったのだが、完全に目が覚めてしまったらしい。
「なんでレイラが謝るんだ? まあ、とりあえず朝ごはんだ」
「ありがとうございます。しかし、一晩中側にいてくださったんですよね?」
「まあ、そうだな。勝手に部屋に入ったのは悪かった」
「い、いえ、私は住まわせてもらっている側ですから。それよりも、私のせいでレクト様が眠れなくなってしまって. . . . . .」
なるほど、レイラが浮かない顔をしているのはそういう理由か。
俺としては徹夜など全く問題ないのだが。
研究をしているときは、3日連続くらいザラにやっている。
「気にするな。俺は慣れてるからな。それよりも、レイラは大丈夫か? 俺の魔力の影響を受けてないか?」
寝不足は不健康になれども深刻ではない。
しかし、俺の魔力は普通に触れれば死に至るもの。
いわば呪いだ。
謝らなければならないのは、むしろこちらの方かもしれない。
「はい。全く問題ありません」
「確かに、問題は無さそうだな」
俺は自身の魔眼を使ってレイラの体を見るが、俺の魔力による侵食は見受けられなかった。
これならば、しばらくは一緒に暮らしていくこともできそうだ。
「きれい. . . . . .」
「ん?」
「あ、えぇとですね。その、レクト様のその瞳が光るのもきれいだと思いまして」
「俺の魔眼か? まあ、魔力を帯びているから、ビジュアルはいいかもしれないな」
「はい。とっても素敵です」
「あ、ありがとう」
ヤバい。
人と接してなくて、褒められたことがほとんど無いから、こういう時はどうしたらいいんだ?
「ほ、ほら、朝ごはんできたぞ」
何とか朝ごはんを完成させて、この恥ずかしい気持ちをごまかす。
「ありがとうございます. . . . . . あの、そちらに行ってもいいですか?」
「ん? 別に問題はないが、狭くなるぞ」
1人暮らしにしては広いテーブルに、二つ皿を並べると、レイラが俺の対面から隣に来たいと言い出した。
まぁ、1人暮らしなのになぜか椅子も3つぐらいあるし、かなり広めのテーブルだから、来ることに問題はない。
多少、食べにくくはなってしまうが。
「はい、レクト様にご迷惑をお掛けするのはわかっているのですが、どうしても、落ち着かなくて」
なるほど、朝のことでまだ落ち着いていなかったようだ。
それならば、どれだけ近づいてくれても構わないが。
むしろ、それぐらいで落ち着けるというのなら気にせずに近くにいてほしい。
「いや、俺のことは気にしなくていい。あと、不安な時は言ってくれ。俺ができることなら何でもやるから」
昨日は気づいてやれなかった。
これからは、できるだけレイラにそんな思いをしてほしくない。
「ありがとうございます、レクト様」
隣に移ると、ほんのわずかな隙間を開けて、レイラがご飯を食べ始めた。
これは. . . . . . 思っていたよりも恥ずかしいな。
俺よりも一つ年上の15歳の少女が真横にいるのだ。
さっき抱きしめていた時はレイラが心配でそれどころではなかったのだが、今は平常心でいられそうもない。
だがしかし、レイラは心が傷ついているのだ。
平静を保たなければ。
「えーと、それよりも、今日の予定なんだが」
結局俺は、適当な話題を出して気をそらすことしかできなかった。
「買い物に行こうと思っている」
「買い物ですか?」
「あぁ。レイラの服とか、他の日用品だな」
「そんな、わざわざ買っていただく必要は. . . . . .」
またもや躊躇いを見せるレイラだが、これは必需品だ。
さすがに無いと困るだろう。
「必要ある。今俺の家にあるものは、全て俺の魔力が多少なりとも染み込んでいるからな。魔力が移っていない新品を買わないと、レイラに影響があるかもしれない」
「. . . . . . そうですね、わかりました。ありがとうございます」
とりあえず、俺の魔力の話を出せば、レイラは納得してくれた。
何かあれば魔力のことを話しておくとしよう。
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