強すぎる力の使い道──超常の力は、助けた少女のために

メチル

出会い 編

第1話 強すぎる力

 月が隠れたある夜。

 人気のない森に隣接するように、大きな建物がそびえていた。


 「さあ、お次は王都の元貴族の次女です! 数年前に没落しており、今は平民扱い。貴族の中でも過去の存在で、勘ぐられる心配もありません! まずは100万から. . . . . .」


 中からは、その場を盛り上げるような声が聞こえる。

 そこではこの国で違法とされている、奴隷のオークションが行われていた。

 会場には仮面をつけた大勢の貴族が、ステージに出る少女へ下卑た視線を送っている。


 「うぅ、どうして. . . . . .」


 そんな中、奴隷に割り振られた檻の一つに、それなりの身なりをした15歳ほどの少女が蹲っていた。

 銀髪で色白の整った顔立ちだったが、ストレスにより肌は荒れ、顔は涙でぐしゃぐしゃ。

 手には不気味な手錠がかけられている。

 少女は刻々と近づいてくるオークションに、絶望と諦めを感じていた。


 「1400万で決定しました! さあて、お次はこちらの. . . . . .」


 「誰か、助けて. . . . . . 」


 名も知らぬ誰かが売られていく声を遠くに聞きながら、少女はそう呟く。

 しかしその呟きは、夜の闇に溶けて消えていくのみだった。



 ♢ ♢ ♢



 「今度はここか。これまた大層な建物だな」


 同時刻、その建物の上空。

 黒いローブを纏った人影が、闇に溶け込むように浮いていた。

 人影は眼下の建物を見下ろすと、心底面倒そうに顔を歪ませる。

 中で行われているものが、直接見えているらしい。


 「全く、ふざけた真似を. . . . . . ん?」


 奴隷たちへの同情ではなく、これから行う仕事の面倒さに苛立っていた。

 しかし何かに気づいたようで、しばし観察を始める。


 「あれはなかなかの才だな」


 人影は一点を見つめていたが、何かを決めたのか、表情を改めた。

 すると、それまで浮いていたのが嘘のように、重力に従って落ちていく。

 落下しながら、その人影はおもむろに右手を建物へ向け、振りぬいた。

 その後しばらく落下し、そのまま建物に激突する寸前。

 まるで幽霊のように天井をすり抜けた。

 その速度を保ったままオークション会場に舞い降りる。

 その瞬間、人影から恐ろしい殺気と魔力が溢れ出した。


 「裁きの時間だ」


 人影から低い声が発せられる。

 それはただの呟きだったにもかかわらず、沈黙した会場には驚くほど鮮明に響いた。


 「まさか. . . . . .」


 「影の審判者. . . . . .」


 会場では皆同様に、誰も身動ぎ一つできないまま恐怖の源へと目を向ける。

 しかし、そこに何かを見えた者はいなかった。



 ♢ ♢ ♢



 どうしてこうなってしまったのだろう。

 私は以前、辺境伯の中でも有名な貴族だったはずなのに。

 特に何か犯罪を犯したりしたこともなく、遠い昔に魔法の力と頭脳で底辺から成り上がった良い家系の生まれだったはずなのに。

 もしかしたら、妬んだ他の貴族の計画だったのかもしれない。

 あの日、あの時。

 魔物が出るという「未知の森」近くの別荘に滞在していたときのことだ。

 あれはまだ10歳に満たない私たち姉妹3人に、魔物討伐の経験を積ませようと両親が計画したものだった。

 国内でも名の知れた実力者だった両親もついて来て危険なんて何一つなかったはずだったのだ。

 しかし別荘から帰る途中。

 夜、全員が寝静まった頃。

 いきなりの轟音と揺れで私たちは起こされ、訳も分からないまま馬車から放り出された。

 近くで一緒に寝ていたお母様は、とっさに私たちに魔法をかけてくれたから怪我はなかったけど、何が起きたかわからず、パニックになってしまった。

 見張りのお父様が魔物と戦っているのが見えて、たくさんの血が出ていたのを覚えている。

 戦っていた魔物は、見たこともない大きな獣だった。

 恐ろしいほどの魔力を放っていて、お父様もとても危ない状態だったと思う。

 でも、そんなものを見続ける勇気はなくて。

 お母様にしがみついてしまった。

 妹2人も同じようにしていて、お母様は私たちを守りながら戦っていた。

 そう、魔物は一体だけじゃなかったのだ。

 お母様はしがみつかれているせいで碌に動けない中、私たち3人を魔法だけで守ってくれていた。

 でも、それも長くは続かなくて。

 ついに魔力が切れてしまった。

 今考えればわかるけど、お父様が苦戦していた魔物なのだ。

 守りに専念しても、逃げなければすぐにやられてしまう。

 しかし、私たちのせいで逃げることもできず、十分に戦うこともできなかったのだ。

 そしてお母様が倒れて、魔物が襲ってくると目を瞑った時。

 私はなぜか、誰かに抱えられた。

 お父様が来たと思って目を開けてみると、そこには仮面をつけた、赤黒い服装の男の顔があった。

 とっさに周りを見ると、妹2人も同じように抱えられており、お父様はお母様と同じように倒れていた。

 私はそこから覚えていない. . . . . .


――ガラガラガラッ


 深く思考に沈んでいた私は、大きな金属音で現実に引き戻された。

 何が起きたのかと、音のした方を見れば、なんと私を閉じ込めていたはずの檻が細かく分断されていた。

 ようやく出られる。

 そう一瞬だけ思ったけど、見張りの人がいたのを思い出した。

 これで逃げて捕まったら、どんな目に合うかわからない。

 でも、ここにずっといるよりは、逃げたほうが良いに決まっている。

 幸い、見張りの人が走ってくる様子はない。

 今がチャンスだ。


 私は建物を脱出すると決心した。





────あとがき────


 この作品を読んでくださり、ありがとうございます。

 この作品は甘々をメインとして書いていくつもりですが、ガチの甘々になるのはそれなりに後になります。

 できれば、そこまで読んでいただけると嬉しいです。

 週一回の更新を目安としていますので、気長に読んで下さい。

 ちょこっとだけ先に話しますと、学園に入ってから本格的な甘々にするつもりです。

 多少は序盤からあると思いますが。

 ちなみに、学園に入るのはかなり後です(キャッチコピー詐欺?)。

 今の所ハーレム予定はありませんが、ヒロインは複数人出てきます(なんか矛盾してる?)。


 もし“面白い”、“続きが気になる”など思いましたら、☆やコメントをお願いします。

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