もしも神様が異世界転生を止めようとしたら
サンサソー
第一章 異世界転生
第1話 終局の幕開け
知恵は付いても罪は変わらない。
奸智・強欲・自棄・怨恨・侮蔑・情欲・嘘・裏切り……。
人間は文明をこそ至上とし、信仰が失われています。
モラルを失い、空っぽの人間ばかり。
神ですら、もはや神らしさなど微塵もなく。目をかけた人間を使って世界を玩具にするばかり。
人も、神も、邪な刺激を求めています。
罪に次ぐ罪。堕生に次ぐ堕生。
では、そのような者を探して捕まえよう。
そして悪逆の道を示す神々を除こう。
世界をあるべき姿へと転生させるのだ。
愚かなる者どもよ、裁きの時は来た。
◆
きっかけは高名な予言者による未来視だった。
「なんと…どこも黒一色…!神も、人も、世界そのものの姿がまるで見えん…!」
次元震?大魔王の侵攻?それほど間を置かず、答えとなりうる新たな凶報は真っ先に神々へと伝わった。
制裁神の目覚め━━━!!
「っ!」
「感じましたか、弟子よ」
「そんな……ありえません!奴はほんの4千年前にマスターに倒され、眠りについたはず!」
「これでは休まる暇もない。やれやれ、平和とは実に短いものだ…」
◆
とある世界。
そこは人類滅亡を掲げる大魔族によって世界は混乱に陥っていた。
女神セレシアはこの危機を脱するため、異世界から勇者となりうる素質を持つ人間を転生させることにした。
女神の期待通り、勇者は困難を乗り越えながら魔王と対峙し、見事討ち果たしてみせたのだった……相打ちという形で。
「大人びましたね、舞。転生した時はまだあどけなさが残る女の子でしたのに」
「やめてーな女神さま。それに、今の私にはアニスって名前があるんですよ」
「ふふっ、失礼しましたね勇者アニス」
ただの転生者と神ではこのようにフランクな会話にはならなかっただろう。
転生した後も、神は強力な加護を授け聖剣を通して助力をしていたことで、2人はともに旅をした仲間たちと同等の絆を育んでいたのである。
「よく魔王を倒してくれました。これで全ての命は平和に暮らすことでしょう」
「へへっ、改めてそう言われると嬉しいや」
「誇ってください。あなたの成したことを疑う者など誰もいません……ですので、私から一つプレゼントがあります」
「プレゼント?」
「魔王を倒した功績を称え、あなたに今一度の命を与えましょう。平和な世界で、今度こそ人としての幸せを手に入れてください」
前世では不幸な事故に見舞われ、今世では勇者として戦いに赴き死んだ。それで終わりにするなど、女神セレシアは許せなかった。
神である前に一人の友として、彼女には幸せになって欲しかったのである。
「……ありがとう女神さま。でもこの旅が幸せではなかったわけじゃないんだよ?」
「え?」
「無二の戦友たちと出会えた。なにより、聖剣や夢を通して元気づけてくれた友達がおったもん。魔王を倒したのは、幸せになりたかったからじゃない。今の幸せを守りたかっただけなんだよ……セレシア」
「アニス……また、神殿にいらしてくださいね。その時はとびっきりのお茶でもご馳走しますから」
「やった!」
女神の手に光が灯る。転生の際にも見た奇跡の光だ。
輝きが強まり、いよいよ蘇生が行われようとしたその瞬間……それ以上の輝きが空から降り注いだ。
「そこまでです。それ以上の勝手は許しませんよ、女神セレシア」
凛とした声とともに、光の中から人影が現れた。
暗く輝く紫髪を弄りながらコートをなびかせる男性。2人へ鋭く向けられた金色の瞳からはひしひしと怒りの感情が伝わってくる。
「ッ!?そんな…ここは神の領域。私が招かない限り誰も侵入できないはずなのに…!」
「誰だ!」
セレシアの慌て様、そしてこの場を支配したただならぬ気配に当てられ、アニスは聖剣をその手に召喚し構えた。
「我が名はアルバ。こことはまた別の世界に存る神です」
「神さま?セレシアと同じ…」
「そこの愚神と一緒にするんじゃねぇ!」
「ッ!?」
唐突に鬼の形相となって放たれた一喝にアニスはたじろぐ。代わってセレシアは、わなわなと身を震わせながらアルバを見つめるのみだった。
「おっと、すまない。今のは私ではないのだ、許してくれたまえ」
「い、いや……えっと、どうしたのセレシア。さっきから何も言わないけど」
震えた様子から声をかけるアニス。それをきっかけとしたのか、セレシアは問いに答えずアルバへと口を開いた。
「まさか……転生者を見つけては神もろとも制裁を行っているという、あの…?」
「え?ハッ!?」
「その通り。我こそが制裁神……貴様らのような者たちに裁きを下す者」
「ちょっ、ちょっと待って!?こんがらがってきた!」
突然現れた男が別世界の神であり、転生者たちに裁きを下している?
情報量の多さにアニスが目を回していると、先程までの様子から一変、セレシアは敵意をもって光の弓をつくり矢先をアルバへと向けた。
「セレシア!?」
「油断をしてはいけません!彼は制裁とは名ばかりの殺戮をはたらく大罪神です!何千年も昔、あまたの転生者や神々を世界ごと滅ぼしたという邪神!それが彼です!」
「じゃっ、邪神……そ、そこまで言わなくてもよくないですか?」
顔をピクつかせるアルバをよそに、セレシアは弓と自らの周囲に光の矢を生じさせ、強く引いた。
「このままではせっかく平和になったこの世界も……アニス!力を貸してください!」
「わ、わかった!」
聖剣から光の力が溢れ、オーラを纏う。臨戦態勢となった2人を前にして、最初の厳かな雰囲気はどこへやら、アルバは慌て始めた。
「ちょっと待ってくれ!まずは私の話を聞いてくれ!」
「アニス、気を許してはいけません!彼は百を超える世界を滅ぼしてきた、分かり合うなど不可能です!」
「アイキャントークコトーバ!」
ギリギリまで引き絞られた弓からセレシアの手が離れ、光の矢が放たれる。それと同時にアニスも聖剣の力を解き放ち聖なる光波を放った。
「ちょっ、待てって!うわぁぁあぁあああ!!」
方や神の一矢、方や魔王を倒した勇者の一撃。それらは凄まじい爆発を引き起こし、爆煙で辺りを飲み込んだ。
◇
待てと言ったのに、問答無用で攻撃してくるとは…!
煙の中から力なく落ちる私へ、セレシアと呼ばれていた女神はさらに光の矢を放ってくる。
再び着弾する間際、私は手刀にオーラを纏わせ矢を弾いた。
「この私に攻撃するとは……そんなに私に制裁されたいか」
いや、神気を見たところあの女神はまだ生まれて数億年程度といったところか。
複数の神が存在していればともかく、唯一神は予想外の出来事にめっぽう弱い。人間たちともほとんど接しないために、神としての精神的な成熟にはかなりの時間を有するのだ。
であれば、悪名高い私が現れて好戦的になってしまうのは仕方がない……だなどと言うものか!
「いいだろう。貴様らの望み通り、私の手で制裁をしてやろう。消えよ愚神、消えよ転生者。すべては、このアルバのもとに━━!」
制裁は、まだ始まったばかり。
この機会をじっくりと楽しんでくれよう。
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