第18話 学校生活が騒がしいんだけど!?

 ログハウスから帰ってきてから一週間、ここ最近は登校にも気を使うようになった。

 何がって町を歩けば知らない人から声をかけられる。

 サインとか求められても生まれて一度も書いたことがないからわからない。

 まぁそれだけならいいんだけど――


「君がミオちゃんか! 最近部屋に知らない女が出るんだよ!」

「知りませんっ! 警察に通報してください!」


 知らない男の人からこんな相談を持ち掛けられるのが日常だ。

 私はダッシュで逃げた。


「おぉ~……孫がいうとったお方じゃ」

「ありがたや、ありがたや」


 挙句の果てに信号待ちしていたらおじいちゃんやおばあちゃんが拝んでくる。

 私は神仏の類じゃないんですけど。

 そんな光景を見たミョウちゃんが満足そうに笑っている。


「フ……ようやく愚民どもが貴様を認め始めたらしいな」

「愚民とか言わない。一応守り神だったんでしょ」


 人型になったミョウちゃんが歩きながら油揚げを齧っている。

 一応再生数や登録者がうなぎ登りだからね。

 ご褒美として少しずつ油揚げの枚数を増やしてあげていた。


 ようやく校門が見えたところで私はうんざりする。

 例のごとくすごい人がたくさんいて待ち構えていた。

 私は大きく息を吸ってから全力ダッシュ!


「あっ!」

「と、飛んだ!?」


 大衆の上を悠々と飛んで通過した。

 ちなみにスパッツを履いてるからちゃんと見えない。

 これはアリカちゃんのアドバイスなんだけどね。


 言われるまでずっと制服のスカートのままだったなぁ。

 確かにスカートだと色々と危ない。

 そんなわけで校庭に着地した私は後ろの大衆を大きく引き離した。


 これでようやく安心して校内に、とはならない。

 校内にだってたくさん生徒達はいて当然のように群がってくる。


「ミオさん、おはようございます!」

「西園寺さん! あの自転車の呪霊を倒した技ってなに!?」

「次はどこにいくの?」

「この勢いなら言える! ミオ! 俺と付き合えぇぇー!」


 ありとあらゆる情報が私の耳に入ってきてクラクラする。

 覇界拳を使えば情報処理できるけど、こんなことで使いたくないしなぁ。

 と、そこへずいっと割って入ってきたのはアリカちゃんだ。


「はいはーい! ミオちゃんへのお話はマネージャーの私を通してくださいねー!」

「アリカちゃん、ありがと……」

「あとそこの告白した男子の安田君は毎夜のごとくネットで有名人に誹謗中傷を繰り返してますねー! 特に企業相手はまずいですぉー!」

「でもそういうのはやめてあげてね!?」


 アリカちゃんに突っ込まれた安田君は狼狽してそそくさとその場から離れた。

 なんで当然のようにリサーチ済みなのかな?

 それにアリカちゃんって私以外には敬語を使うんだよね。

 礼儀正しい証拠だけど相手が子どもでも同じだし昔からちょっと疑問に思ってる。


「あ! もう企業さんのほうは開示手続きしてるみたいですから覚悟しておいたほうがいいですよぉー!」

「だから追い打ちとかいいから!」


 安田君が悪いのはわかるけどオーバーキルにも程がある。

 それから私は人の波をかきわけて下駄箱を開けた。

 するとどうでしょう。

 大量のお手紙がドサァっと落ちてくる。


「こ、これ、ラブレター!?」

「えーと、これを送ったB組の山西君は二股してるねぇ。こっちの二年生のサッカー部の森川君は万引き常習犯だから論外論外~」

「軒並みクズしかいない!」

「ミオちゃんに近づきそうな悪い虫はちゃーんと調べてるから安心してねっ!」


 アリカちゃんの笑顔が頼もしくもあるけどちょっと怖い。

 こんなアリカちゃんだから校内では割と恐れられている。

 登校初日に女子グループに目をつけられたんだけど、そんな彼女達は翌日には大人しくなったもの。

 今もアリカちゃんに道を譲ってるくらいだ。


 そんな中、いつの間にかミョウちゃんがお狐様モードに戻ってトコトコと歩いていた。

 バレるでしょと思ったけど誰も気づいてない。


「ミョウちゃん、大丈夫なの?」

「このワシが愚民どもに捕捉されるようなマヌケとでも?」

「だったらレストランの時とかそれでいいんじゃ?」

「それでは珍味を味わえないではないか。それにそのまま味わえばいわゆる無銭飲食になるだろう?」


 この神様、食い意地がすごい。

 狐だから人を化かすなんて朝飯前なのかな。

 でも最低限のモラルを理解しているのは私の指導の賜物か。


「てめぇら! 西園寺が困ってんだろうがッ!」


 怒号と共に現れたのはタイショウ先輩だ。

 それなりに迫力があったのか、群がっていた人達が青ざめて散っていった。

 でも気になるのはその隣に女の子がいるところだ。


「おう、今日も大変だな」

「タイショウ先輩、ありがとうございます。ところで隣にいる人は?」

「こいつはウラン、俺の幼馴染だ」


 ショートカットで眠そうな目をしたウランさんが無言で頭を下げた。


「こいつとは腐れ縁でな。そんなわけで今は俺のチャンネルのマネージャーをやってもらっている」

「あ、コメントきてるよ」

「ウラン、ホントか!?」

「『一騎当千とかいってるけどボコられまくりやんwざっこw』だって」

「クソがッ! だったらてめぇは俺に勝てんのかよ!」


 ウランさんがスマホ画面を見て淡々と読み上げていた。

 私のチャンネルでいうアリカちゃんみたいなものかな?

 でもアリカちゃん、そういう変な報告はあまりしないからなぁ。


「あ、登録者が増えてるよ」

「おぉ! ようやく俺の魅力が伝わったか!」

「でも二人減った。しかも低評価ついてる」

「んだよぉッ!」


 タイショウ先輩が地団太を踏んで心の底から悔しがっている。

 これは本当にマネージャーの仕事なのかな?


「西園寺! 頼む! そろそろ俺に覇界拳を教えてくれッ!」

「いや、だからそれは断りましたよね?」

「俺だってチャンネルを伸ばしたいんだ!」

「チャンネルを伸ばすために覇界拳を習得しようとしないでくださいよ!?」


 あのタイショウ先輩が両手を合わせて私なんかに懇願してくる。

 ウランさんは何もアドバイスしないのかな?

 と、ウランさんの顔を見ると少し笑っている気がした。え?


「コメントきた。『すてきな動画ですね。ご利益がありそうです。いつかこうなりたい。ごうりきです。みおとしたくない動画です』だって」

「おぉぉぉーーーー! ついに俺の魅力に気づく奴が現れたかぁ!」

「あ、でも縦読みで『すごいごみ』ってなってる」

「やっていいことと悪いことがあんだろうがよぉッ!」


 本当だよ! ウランさんもそんなの読まないであげて!

 これ本当にマネージャーの仕事!?


「はぁ……なんだか朝から疲れちゃったなぁ」

「ミオちゃん、勧誘のお手紙もたくさんきてるよ」

「勧誘? 部活は入る予定ないけど……」

「そっちもあるけど退魔師のチームへのお誘いとか色々あるね」


 アリカちゃんの話によれば退魔師は単独で活動している人やチームを組んでいる人と様々らしい。

 この学校にも当然退魔師をやっている人がそれなりにいる。

 もしくは親が退魔師をやっていて子どもを使って勧誘しようとしていたりとか。


「退魔師じゃないから受ける気ないよ」

「一応聞いてみただけ。でもこれからもっとこういうの増えると思うよ」

「はぁぁぁ~~~……」


 もう本当にため息しか出ない。

 目の前ではスマホを掲げて号泣しているタイショウ先輩がいた。

 どうも後から立ち上げたチャンネルに登録者数を抜かれたらしい。

 かわいそうだけど私は教室へと向かった。

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