第13話 チンピラに絡まれた

 休み明け、私は学校へ行くのが怖かった。

 何が怖いかって、すでにネット上で私のことが至る所で取り上げられている。

 SNSではワンパンガールや覇界拳というハッシュタグがつけられていてトレンド一位に躍り出ていた。


 私はSNSをやってないからこの辺はアリカちゃんに教えてもらったんだけどさ。

 私を描いたファンアートが大量に出回っているし、動画配信サイトでも多くの時事系チャンネルに取り上げらていた。

 それらを扇動しているのがアリカ見つけました!特定チャンネル!ってところなんだけどね。


「さ、さすがにネット上と世間じゃ大違いだよね」


 私はビクビクしながら校門に向かう。

 ネット上で話題になっていても世間には認知されてないなんてことがよくある。

 私のそれもきっと同じだよ。


 ほら、普通に登校できる。

 誰も私のことなんて――いや、なんで校門の前に人だかりが出来てるの?

 芸能人でも来るのかな?


「あ、もしかしてあれってミオさんじゃない?」

「本物のミオちゃんか?」

「本物だ! やっぱり同じ学校だったんだ!」


 なんかロックオンされてりゅうう!

 私は反射的にUターンして校門から走って逃げた。

 無理無理無理無理!


 そりゃ底辺はつらいけどこれはこれで極端だよ!

 そもそも私はスローライフ系の動画配信者なんです!

 呪霊とか祓わないから! 


「おっと、どこへ行こうってんだ」


 逃げる私の前に誰かが立ちはだかった。

 その体躯は私よりも大きくて熊でも立ちはだかったんじゃないかと思うほどだ。

 私は思わず足を止めてしまった。


「えっと……賀木タイショウ先輩?」


 この学校の番長の賀木タイショウさん。

 いわゆる不良で、そのケンカのあまりの強さから最強の不良だとか恐れられている。

 少なくともこの町でこの人にケンカを売る人はほとんどいないらしい。

 

 昔、家に借金を取り立てにきた借金取りのヤクザを半殺しにしてから事務所に乗り込んで壊滅させたとか。

 バイクの音がうるさいと言って一夜にして暴走族のチームを3つも壊滅させたとか。

 とにかく意味がわからないエピソードてんこ盛りの超危険人物だ。


「な、なんでしょうか?」

「……お前、ずいぶん名前が売れてるらしいな」


 タイショウさんがすごい睨みつけてくる。

 いやいやいやいや!

 私は癒し系スローライフ動画の配信者だよ?

 こういう不良漫画みたいな人達とはジャンルが違うの!


「そ、そうでもないですけど……ハハッ」

「しらばっくれてんじゃねぇ」

「すみません……」


 タイショウさんがずいっと距離を詰めてきた。

 私とは体格が違いすぎて完全に見下ろされている。

 なんで、私が何をしたの。


「お前は今や有名人だ。そうと聞いたら黙っているわけにはいかねぇ」


 これは完全にタイマンの流れだ。

 ジャンル違いの人が私にケンカを売っている。

 なんでこういう人達はケンカをしないと気が済まないんだろう?

 短い高校生活なのにケンカで名前を売ってどうするんだろう?


 気持ちを切り替えるしかないか。

 いつまでも先輩だからといって恐縮しても仕方ない。

 ここは堂々とした態度で臨もう。


「……ケンカなら買いませんよ」


 私は踵を返して歩き出した。

 こういうのは相手にしないほうがいい。

 

「待てッ!」


 腹の底から大声を出したタイショウさんが迫ってくる気配を感じた。

 まさか背後から!?

 問答無用でくるならこっちだって――


「やるっていうなら」

「力を貸してくれッ!」


 タイショウさんは殴りかかってくるわけでもなく土下座していた。

 えっと、なにこれ?


「先輩?」

「お前、動画配信サイトでずいぶん有名みたいだな! 頼む! 俺にもコツを教えてくれ!」

「は?」

「これが俺のチャンネルだ!」


 私の答えを待たずにタイショウさんがスマホ画面を見せつけてきた。


チャンネル名 :タイショウの一騎当千チャンネル

登録者数  :6人

最高再生数 :13回

ライブ最大接続数:2人

収益化 :なし


 私は目をこすった。

 だって情報量が多すぎて頭に入ってこないんだもの。


「えっとー……?」

「俺も呪霊討伐チャンネルをやってるんだ! だけど呪霊には一回も勝ったことがない! あいつら、その辺のヤンキーとは明らかに違う……!」

「そりゃ呪霊だし……」

「だから呪霊討伐で名を馳せたお前なら奴らへの対抗策というか、コツがわかるんじゃないかって思った。何せ奴らには俺の拳がまるで通用しない……!」

「うん、だから呪霊だし……」


 あまりの勢いに呪霊討伐で名を馳せたの部分に突っ込み忘れた。

 タイショウさんが拳を震わせて悔しがっている。

 あの町中の不良から恐れられるタイショウさんが呪霊討伐?

 いや、ヤンキーとケンカするよりは社会貢献になってるか。


「呪霊だとコツがいるんだろう!」

「は、はい。だって霊体ですから普通の攻撃は通りません。だから霊力を使います」

「霊力だとぉッ!」


 声が大きすぎて耳がキーンってなった。

 ていうかこの人、生身で呪霊に戦いを挑んでたの?

 脳筋にも程があるでしょ。


「そうか……霊力! 霊力でぶん殴ればいいのか!」

「まぁそうですね。がんばってください。それじゃ」

「待てぇ! その霊力というのはどうすれば引き出せるんだ!」

「すみません。そろそろ学校にいかないと遅刻するんで……」


 埒が明かないから私は無視して校門に向かった。

 さっきは思わず逃げちゃったけど登校しないわけにはいかない。

 というかこの人も私と同じ高校だから遅刻するはずなんだけど。


「少し! 少しでいいから教えてくれ!」

「ちょ……!」

「頼むッ!」

「学校にいくんで!」

「……そ、そうか」


 タイショウ先輩は我に返ったように呟いた。

 そうだよ。私達は学生なんだからね。


「俺が間違っていた。これではいかんな」

「そうそう、遅刻したら大変ですよ。それじゃ」

「まずは俺がお前を応援しよう」


 なんか耳を疑う言葉が聞こえてきた。

 聞かなかったことにして立ち去ろう。


「今、お前のチャンネルを登録した。俺はこれからお前を応援する」

「あ、ありがとうございます。それじゃ……」

「これでも足りないというなら、俺の舎弟を総動員させてチャンネル登録させる!」

「いや、ちょっと待ってください。落ち着いてください」


 タイショウさんがスマホを操作して何かを送信した。

 嫌な予感しかしないから無視しよう。

 こういうのはホント関わらないに限る。


「おい! 舎弟に挨拶のメールを送らせたから確認してくれ!」

「あ、挨拶? 舎弟? ちょっと住む世界が違いすぎて何がなんだか……」

「頼む!」

「はい、はいはいっと……え?」


――新着メールが128件届いてます


「はぎゃああぁぁーーー!?」


 さっきの今でフットワーク軽すぎない!?

 というかメールを一斉送信したの!?

 これは開かなきゃダメ?


"うっす! ミオさん!

タイショウの兄貴の舎弟デンジロウっす!

兄貴の頼みとあっちゃ断れねぇ!

俺もマジ気合い入れてミオさんを応援するっす!"


「なんか来てるぅ!」


 デンジロウって誰!

 いや、確かにバズってから知らない人から応援メールがたくさん届くけどさ!

 これ全部舎弟とかいう人達から?


"初めまして、オレはタイショウさんの舎弟頭のゴウジです。

以後お見知りおきを。

いきなりで申し訳ありませんがタイショウさんのためとあって死ぬ気で応援します。

ライブ配信があった際には気合い入れて最低でも100コメント以上残すつもりです。

怠ける奴がいたら俺がヤキ入れますんで安心してください"


「あ、あぁ、あっ……」


 私はよろめいて壁に手をついてしまった。

 人気が出るのはいいけどなんかこれじゃない。

 色々とおかしい。


「西園寺、ひとまず俺にできるのはここまでだ。足りなければあと50人ほど追加できる」

「いや、ホントそういうのいいんで!」

「ハッハッハッ! 遠慮するな!」

「そういうやらせみたいなのはやめてくださいって!」

「やらせではない! 俺もあいつらもやると決めた以上は半端なことはしない!」

「微妙にずれてるし!」


 もう何もリアクションができない。

 このまま押し問答しても時間の無駄だと思った私はおとなしく学校へ歩き出した。

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