第11話 ファンがいたなんて!

 切音さんが厄介ファンになりそうということでまずは打開策を錬った。

 アリカちゃんとしてはサクッと特定して配信人生もろとも終わらせたかったらしい。

 でも私はせっかくファンになってくれた人を突き放したくなかった。


「これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ」


 だってこの切音さんは私のスローライフ動画を気に入ってくれたんだから。

 ましてやこんな大物配信者が見てくれていたなんて感無量だ。

 なぜかうずくまってブツブツ言ってる切音さんの肩に手を置くと――


「切音さん、ですか?」

「ふぇあッ!?」

「わぁ! ビックリしたぁ!」

 

 いきなり立ち上がって石につまづいて盛大に転んじゃったよ!

 この人、動画と違いすぎるんだけど!?


「な、なな、なぜ、ここに……」

「偶然撮影で通りかかったんです」


 はい、デマ100%です。

 ここの場所はアリカちゃんが特定してくれた。

 切音さんのスマホの位置情報を取得したとか完全に真っ黒だよ。

 ここで気づいたんだけどまさか私にも同じことをやってないよね?


「あ、あっ、あぅ、あ……」

「き、切音さん。私、ミオ。このメールを送ってくれましたよね……?」

「は、はひっ……」


 切音さんがゆっくりと振り向いて、私の顔を見て後ずさった。

 本当にイメージと違いすぎるよ、この人。


「ほ、ほ、ほん、もにょ……ミ、ミミミ、ミオ様ぁ!?」

「えぇ……?」

「あああ、あなななたたの、どど、どーが、ず、ずず、ずっと好きででで……あっ!」


 切音さんが後ずさった先に石があって尻から落ちて転んだ。

 そしていたたまれなくなったのか、シクシクと泣き出す。 


「うっ、うっ……」

「た、立てますか……? というか怪我もすごいですね……」

「だい、じょぶ……だいじょぶ……うっ……うぅ……」


 どうしよう、これ以上フォローしきれない。

 ひとまず冷静に言うべきことを言おう。


「まず私の動画を見てくれてありがとうございます。すごく嬉しかったです」

「う、うれ、シイ……?」


 なんで人の心を知ったロボットみたいな反応なの!?

 もう怖いからとっとと言いたいことを言って帰ろう。

 アリカちゃんからこう言えって言われることがあるんだけど、すごい抵抗がある。

 アリカちゃんを見ると満面の笑みでいけいけみたいなジェスチャーしてる。


「でも連続でメッセージを送るのは……やめてください」

「うぐッ!」

「え? ちょっ!」


 切音さんが倒れたんだけど!?

 真っ青で泡ふいてる!

 確かに怪我してるけど!


「心停止してるねぇ」

「ウッソでしょお!」


 私は慌てて救急車を呼ぶことにした。

 これ、ワンチャン私達が疑わるよね。


* * *


「ハッ!?」


 切音さんが病院のベッドで目覚めた。

 私はリンゴの皮を剥いてウサギさんを作っている。


「あ! 気がつきましたね!」 

「ミ、ミオ様……あ、あっ、あ……」

「これ、よかったら食べてください」

「ミオ様の……ウサギさん?」

「ちょっとー! また心停止しないでくださいね!?」


 また気を失いかけたから慌てて揺すった。

 一応怪我の治療はされてるし命に別状はないらしい。

 一般人だったらとっくに死んでるほどの怪我と聞いて、さすが一流の退魔師だと思った。


「ご、ごご、ごめんにゃしゃい……」

「あの、そんなに緊張しなくていいんですよ。私なんかよりあなたのほうがよっぽどすごいですからね」

「そ、そ、そんなことは……」


 すごいモジモジして目を合わせようとしてくれない。

 これはいわゆるコミュ障というやつ?

 あとずっとスルーしてたけどなんで様付け?

 私相手じゃ埒が明かないと思ったのか、横からひょこっとアリカちゃんが顔を出す。


「切音さんねぇ。ミオちゃんに応援メールを送ったでしょ」

「は、はい……」

「あなたにとってミオちゃんは一人だけど、ミオちゃんにとってあなたはファンの一人に過ぎないんですよぉ。だから返信がこなくても仕方ないんです」

「すまん……」


 しゅん、というオノトマペが張られそうなくらい落ち込んだ。

 ちょっとかわいそうだけど厄介ファンになられても困るからね。

 というかちょっとバズった程度の私にファンだなんて大袈裟な気もするけど。

 私も一つリンゴを、と思って手を伸ばしたけど見事にない。


「フン……しゃくしゃく……あの程度の小物に後れを取るとはな……シャクシャク……う、うまっ!?」

「ダイガミ明神、勝手に食べる前に一言聞いてね」

「信者へ施しをするのにワシへのお供え物はないというのか!」

「よくわからないことで癇癪起こさないでって……」


 切音さん、ずっと落ち込んだままだ。

 かわいそうだけど言いたいことは言ったし長居するのもね。


「顔文字が原因じゃ……なかったのか……」

「は?」

「ミオ様……わ、私は、あなたに、に、二度、救われている……。一度目はあなたの動画を見た時……と、と、友達ができなくて、心身ともに疲弊してた、わ、私を、癒してくれた……」

「え……」


 切音さんにお友達がいない!?

 いや、でもこのコミュ力ならあり得るか。

 私も人のこと言えないけど。


 子どもの頃から悪さをする不良を成敗していたらいつの間にか誰も近寄らなくなった。

 アリカちゃんと出会わなかったらボッチになっていたと思う。


「ミオ様、あ、改めて、お、お礼を……あ、ありがと、ございます……」

「……こちらこそ、視聴者が少なくて嘆いていたけどあなたみたいな熱心な人が見てくれてすごく救われました」

「す、すくわッ……!」

「いやホントに心停止はやめてくださいね!?」


 また心臓の辺りを押さえ始めたから本当にヒヤヒヤする。

 あなたの今後の配信活動も応援していますって言おうと思ったけどやめておく。

 

「ミ、ミオ様……これからも、そ、その、ファンとして……応援してます……。スローライフ、楽しみです」

「ふぇえぇぇぇ!?」

「ひっ!?」

「今スローライフって言いました!?」

「い、いいいい、い、言いました……」


 思わず切音さんの肩を掴んじゃった。

 謝ろうと思ったら顔を真っ赤にして気を失いかけてさぁ大変!


「切音さぁん!」

「ハッ! あ、あっ……」

「切音さんだけですよぉ! 私の配信をスローライフって言ってくれるの!」

「言わない人が……?」

「みーんな呪霊討伐ばっかり期待してるんです! ひどいですよね!」


 切音さんが何かを考え込んだ後、刀を手に取った。


「あの、何を?」

「ふ、不届きな視聴者を一人残らず」

「いいからいいからぁ!」


 やばい、目がマジだった。

 落ち着かせたけどまだなんかブツブツ言ってるし、ひょっとしてとんでもないファンじゃ?


「ミオ様……これからも応援してます……ずっと……」


 切音さんが初めて笑ってくれた。

 ようやく少し話すのに慣れてくれたかな。

 でもね、普通の応援の言葉なのにちょっと怖いのは気のせいかな?

 こっちは連メールさえしなければそれでいいんだけどさ。

 なにはともあれ、これでめでたしめでたし――ん?


【今来た。きりねんとミオちゃんのコラボマジ?】

【認め合う女子二人……てぇてぇ】

【コラボ呪霊ぶっ飛ばし配信まだー?】

【ミオちゃん! きりねんと二人でスローライフ(呪霊討伐)しようぜ!】


 切音さんのスマホ! バリッバリ配信中じゃん!

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