第五十一話 心配性
平日のある日。
仕事から帰っていると、後ろから足音がした。しかも、それは会社からずっと、俺の後ろをついてきている。
俺の思い過ごしかもしれない。それに、足音はずっとしているけど、人が変わっている可能性がある。今さら見たところで、人が変わっているかなんて分からないから、後ろを振り返ったりはしないけれど。
足音は、俺が今の会社に入社して一年くらい経った時から、ずっとしている。ついこの間までは一ヶ月に月に一回くらいだったから、誰かと帰る時間が被っているのかと思っていた。けれど、ここ最近はほぼ毎日だ。
さすがに、不安にもなってくる。
「と、言うことで、もしかしたらストーカーがいるかもしれない」
その日の夜に、皆でご飯を食べている時、思い切って話してみた。
反応はそれぞれ。驚いていたり、冷静だったり、呑気だったりした。特に藍栖は、自分たちが何とかする、というスタンスで余裕そうにしていた。
「どうせ一般人なんだし、あたしたちがいれば大丈夫だって」
「もし不安なら、一胡が護衛してあげようか?」
「それなら、皆でするべきじゃない?」
そして、いつの間にか、護衛をする流れになってしまっている。俺は慌てて止めた。
「いやいや、そこまでは頼んでないから! 一人で大丈夫だけど、ストーカーがいるかもしれないから、皆も気をつけてってだけ!」
「それでも、聞いたからには助けないと。それが、私たち家政婦の役目でもあるから」
家政婦とは……って、俺は何回思ったんだろうな。この短期間で。
「ストーカーしてくるような相手に、心当たりはないの?」
波夢に聞かれて、しばらく考えたが誰も出てこない。
ストーカーするってことは、俺のことが好きってことだよな。でも、同じ部署にも違う部署にも、それほど親しく話す女性はいない。飲み会で飲みに行っても、毎回何事もなく帰ってくるくらいだ。
「いや、全く浮かばないな。まあ、だから困ってるってところもあるんだけど……」
「なるほどねえ。隠すのが上手いか、全く知らない人ってことか」
「とりあえず、私たちが護衛すれば犯人なんてすぐに分かるから、明日はとりあえず私で――」
「いや、あたしがいい!」
「いやいや、一胡でしょ!」
「だから、護衛までは頼んでないからー!!」
勝手に進んでいく話を、声を張り上げて中断した。護衛なんてつけて通勤中に会社の人に見られたら、どう思われるか分かったもんじゃない。しかも、この調子なら毎日護衛する人が変わるだろうし、それを見られればより一層やばい。
「とにかく、皆も気をつけてってだけ。俺は一応男だし、いざとなったらちゃんと逃げれるし、皆がくれた防犯ブザーもあるから大丈夫だって」
GPSがついてるのは、未だにそわそわするけど……。その分、安心感はやっぱりあるから、外さないことにした。
「そっか……」
「まあ、琳太郎に迷惑はかけられないもんね」
皆が同時にしゅんとなる。それに一瞬胸がキュンとなったが、決定は変わらない。
「でででも、お、男がストーカー、ってことも、ありえる、よね?」
両手を胸の前で組んでもじもじしながら空月が言い、俺を含めて皆がポカンとする。
男か、男は考えてなかったな。でも、それこそ、俺をストーキングする意味が分からない。性的指向がそっち方面なら、話は別かもしれないけど。
「じゃあ、その場合は危険かもしれないから、やっぱり護衛はつけた方が……」
「いや、それは大丈夫。防犯ブザーがあるから」
相手が男かもしれないっていうだけで、一緒に出勤するというリスクを負いたくはない。
「護衛なんていなくても、俺がどこにいても皆なら助けてくれるんだろ?」
女の子に助けてもらう前提の話の進め方はかっこ悪いけど、皆にやる気を出してもらうにはこうするのが手っ取り早い。
「もっちろん!」
「当たり前でしょ!」
「そうね」
それぞれが気合の入った返事をしたり、頷いたりしている。
よし、これで、護衛がどうのこうのという話はなくなっただろう。
「じゃあ、俺は明日からも普通に会社に行くし、週末になったらそれぞれと遊びにも行くから、皆もそんな気にしすぎないようにしよ」
そう言って、ごちそうさま、と手を合わせた。
それにしても、こんな顔だけ中の中くらいのギャルゲーオタをストーキングしたい奴が本当にいるのか。
俺はそこに、未だ疑問を抱いていた。
俺は本当に、ストーキングされているのか?
実感は全然ない。一生なくていい実感だと思うけど。
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