第三章 快速電車にトラブルあり

第四十九話 幼馴染の変化

 伝言通り、俺たちは毎週末それぞれデートをすることにしたが、これといって変化はなかったように思う。

 映画館に行ったり、デパートに買い物をしに言ったり、美味しいスイーツを食べに行ったり……。一般的なデートでやりそうなことはだいたいしたが、相手の素というのは見えない気がする。そもそも、デートしたからって、こんな短期間で相手を知ることができたら、苦労しない。

 別に焦ってはいないが、ただ仕事をして週末にデートをするという生活を続けていた。

 そうして一か月が経った今、一日の終わりに部屋で休んでいた俺に思わぬ知らせが入っていた。


「え、こっちに来る?」

『そう! やで、引っ越しの荷解き手伝って!』


 電話の向こうで楽しそうに話すのは、俺の幼馴染の愛結だ。

 地元で美容師をしていたが、もっと可能性を広げたいという理由で転勤を決意し、この度上京してくるらしい。

 友として喜ばしいことだが、あまりにも急だったため驚いて聞き返してしまった。


「いいけど、どのあたりに引っ越してくるんだ?」

『えーっと、りん君の家の近く!』

「は!?」


 伝え方が大雑把すぎてほとんど場所が分からないのと、近くに引っ越してくるという二つの意味で驚いた。


「お、おう」

『初めての一人暮らしは不安やろって、りん君のお母さんが近くを勧めてくれたからそうすることにしたんやて』


 あの母親は、つくづく責任感のないことばっかりするな……。

 まあでも、愛結が頼ってくれるのは嬉しいし、俺が恋愛で悩んでいた時に相談にのってくれた恩もあるから手伝おうと思えた。


「おけおけ、何日にする予定なの?」

『来週の土曜日の予定なんだけど、空いてる?』


 天井を見て、カレンダーを思い浮かべながら考える。

 来週の土曜日だから、今日からちょうど一週間後か。今週は皆予定が入っているらしいからデートの予定はないけど、来週もまだ予定は決まっていない。


「うん、大丈夫!」

『よかった。じゃあ、来週の土曜日よろしくね』

「分かった。気をつけて、こっち来なよ」


 そう言うと、少しの間の後に、愛結は返事をした。


『……うん、ありがと』

「じゃあ、来週ね」

『うん、来週』


 そうして、俺は電話を切った。

 そっか、愛結がついに、上京するのかぁ。改めて考えて、何だか感慨深い気持ちになった。

 大学で一緒だった菊谷は同じ会社に就職して一緒に上京したけど、高校からというか、幼馴染がこっちに来るというのは、何だか新鮮だった。

 自分の引っ越しは家政婦が優秀すぎたせいもあって、何の役にも立てなかったからな。せめて、愛結の引っ越しでは、力仕事として運んだり組み立てたりと、色々活躍したいなんて考えていた。

 そこに部屋をノックする音が聞こえ、それから声がした。


「琳太郎、ちょっといい?」


 この少し間延びした妖艶さのある声は波夢だ。

 入っていいよ、と言うと、波夢は静かに扉を開けた。


「もう休んでたのにごめんね」

「全然いいよ、どうしたの?」


 聞くと、少し気まずそうにしながら、波夢は話を切り出した。


「来週の土曜日、一緒に出かけたいんだけど……」


 さっきまで話していたから、思い出すまでもなく予定が入っていることは分かっていた。何というか、タイミングがすごいなあ。


「ごめん、来週の土曜日は予定が入ってて……。日曜日なら大丈夫なんだけど、そっちはいけそう?」

「うん、大丈夫! 忙しいのにありがとう」


 波夢は柔らかく微笑んで、嬉しそうにしていた。

 バレンタインで失態を晒してしまったからか、波夢は他の誰よりも俺と出かけようとしていた。それだけ、この将来をかけた勝負に必死というわけだ。俺としても、その気持ちに応えてあげたいから、忙しくても出かけるくらいはしないとと思っている。


「あのさ、土曜日に入ってるのって、なんの予定なの……?」


 何で気になるのかは分からないが、波夢は遠慮がちに聞いてきた。特に隠す理由はないし、幼馴染がいてたまに来ることは以前皆に言っているため、驚かれることもないだろう。


「ああ、前に話した幼馴染の愛結が上京してくるらしいから、その引っ越しの荷解きを手伝うことになったんだよ」

「じゃあ、わたしも手伝うよ! 人が多い方が早く終わるでしょ?」


 波夢の申し出は嬉しかったが、流石に愛結が気を遣うかもしれない。それに、家政婦の仕事ってわけでもないのに、手伝ってもらうのは申し訳ない。

 断じて、波夢が来たら他の人も来て、俺が活躍できなくなるとか、そんなことを考えているわけではない。


「いや、今回は遠慮しとくよ。愛結も気遣っちゃうかもしれないし、仕事ってわけでもないのに、休日に働かせられないから」

「そうだよね……。じゃあ、日曜日、楽しみにしてる!」


 余裕がない感じを見せたくないのか、少し落ち込んでいたように見えたけどすぐに切り替えて波夢は部屋を出ていってしまった。せっかくの好意を断ってしまったのかもしれないと思うと胸が痛んだが、それでも一緒に行くという選択肢はない。

 それにしても、今回はどこに行くか聞いていないけど、波夢の方で考えてあるのだろうか。いつもは二人で話して決めているけど、今回もそうとは限らない。なんなら、俺が考えておいてもいい気はする。

 忙しくてゲームをする時間は減ってしまうけど、予定があることは嬉しい。

 最近は週末に誰かと出かけることが習慣になってきていたけど、愛結の荷解きの手伝いというイレギュラーの予定が入ったことで、いつもよりも気持ちが昂っていた。

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