第五話 打って変わって波乱の予感
目覚ましの音が聞こえて、目を擦りながら体を起こす。
スマホを手に取って止めると、キッチンに人がいるのが見えた。別に視力が悪いわけじゃないけど、寝起きで目が開かないので薄目で見る。
手で隠しもせずに、大あくびをかました。
キッチンに立っているのはピンク色のツインテールをした女の子だ。髪の毛を細かく巻いたのか、毛先がカールしていて可愛い。そして、メイド服を着ている。どうやら、火曜日に来る家政婦のようだ。
女の子はフライパンで何かを作っているようだったが、目覚ましの音が聞こえたからか火を止めてこちらにやってきた。
「おはようございます、琳太郎様。東雲
にこにこと笑顔で話していて、印象がいい。ただ、メイクが濃い! 地雷メイクというやつだろう。嫌いではないけど、まさか家政婦でそういうメイクをした子がいるとは思わず、面食らってしまった。
つり目だけど大きな瞳をしていて、金色に輝いている。綺麗な瞳だな、と見惚れそうになるほど綺麗だ。
「あ、ああ、俺は葉上琳太郎だ。一胡さん、よろしくな」
「はい! あと、年下だし仕える身だから、一胡でいいですよ!」
「じゃあ改めて、一胡、よろしく」
「こちらこそよろしくお願いします! 琳太郎様の好みを把握していないので、今朝は簡単なサラダとオムレツにしてみました!」
なるほど、情報の共有はされないのか。確かに、仕事仲間ってよりは、後継ぎの問題があるからライバルだよな。
「ありがとう、すぐ食べていいかな?」
「分かりました、今用意しますね」
俺は向かって右の机に移動し、一胡はキッチンに戻って朝食の支度をしてくれる。そういえば、クローゼットの中は掃除しなくていいって、言わないといけないな。
「おまたせしました~」
そう言って俺の前に置かれたのは、白い平皿に乗ったオムレツとミニトマトとレタス、マグカップに入ったオニオンスープだった。それも美味しそうだ。
「ありがとう、いただきます」
切り分けようとオムレツに箸を通すと、ふわっとした感触と共に中から湯気が立ち上った。外面もそうだが、内面はより一層艶やかで、思わず息を飲んだ。そして、一口オムレツを頬張ると、しっかり焼いてあるのに少し半熟感があって口の中で卵がとろけるようだ。
「なあ、貴奈子さんもそうだったけど、料理上手すぎない? 今何歳なの?」
「今は二十歳です! この前、成人式してきました!」
「その若さで、こんなに美味いものが作れるのか! すごいな! プロみたいに全部美味いよ!」
オニオンスープも一口飲んだ。こっちも、香りよく、塩味もちょうどよくて
ほっと一息ついた。
ふと、返事がないなと思って一胡を見ると、顔を真っ赤にしていた。驚いて、思わず口にしたスープを噴き出しそうになる。
「べ、別に、そんな、プロに比べたら全然ですよ! 褒めすぎです! 追加の料理とか、何もないですからね!」
そう言いながらも、一胡はキッチンに行くと、平皿に乗ったオムレツを持って戻ってきた。
「こ、これは試しで作ったからそっちよりは美味しくないかもだけど、これくらいならありますよ!」
そう言って前に置かれたら、食べざるをえない。戸惑いながら箸で切れ込みを入れて、口の中に入れる。冷めてはいるがふわふわ感があって、さっきのに劣らず美味しい。
「いや、これも美味しいよ! 二つもくれてありがとう」
お礼を言うと、一胡はまた顔を赤くした。
「別に、どうってことないです」
やっぱり、これは俗に言う……。
ツンデレという奴ではなかろうか!?
いや、これは確実にツンデレだろう。これをツンデレと言わずして、何をツンデレと言うんだ。
「……褒めてくれて、ありがとうございます」
一胡は家政婦らしからぬ態度を取ってしまったと思ったのか、上目遣い気味にこちらを見て礼を言った。急なデレに、俺まで恥ずかしくなってしまった。
「いや、別に……」
何だこれ、ありがちな恋愛ゲームの中に入ったみたいな、変な感覚だ。
一胡は気を紛らわせるためか、鞄から貴奈子さんと同じ見開きのファイルを取り出した。サッチェルバッグを使っているあたり、可愛いものが好きなんだろうなと考える。
「じゃ、じゃあ、注意事項の確認をしますね。家を出るのは朝八時、帰ってくるのは夜七時。クローゼットの中は掃除不要」
「ちょっと待った!」
「はい!? 何か違いましたか?」
おかしい。何が好きか分からないって言っていたのに、帰宅時間やクローゼットのことは知っている。なんでだ?
「情報の共有が、されているのか……?」
「それはもちろん、仕える人が同じなのに、最初に毎回同じことを言わせては手間になりますから」
一胡は当たり前だろうと言わんばかりの顔で、不思議そうにしていた。
じゃあ、何でご飯の好みは共有されてない?
言わなくてもそれほど困らないことは、言わずに優位に立とうとしている?
そんなことが頭をよぎって、これが本当ならガチのサバイバルゲームみたいじゃないかと恐ろしくなった。あの真面目そうな貴奈子さんが、平然と嘘を吐いて皆より多く情報を持っている。
真剣勝負に口を出すつもりはないけど、姉妹なのに何だか切ないと思ってしまった。
その後、一胡から弁当を受け取ると、俺は会社に向かった。
まだ少し肌寒くて、コートに首を縮めて震えながら歩いた。
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