第24話 英雄王子が宝剣に憑りついた少女?

ゴブリンキングを倒した俺とリアは、体力も魔力も限界に近いので、広場で小休憩をすることにした。

エルラムとオランも俺達の体から抜け出して、空中に浮かびながら休んでいる。


すると地面に刺した宝剣アリネスから少女の声が聞こえてきた。


「やっとゴブリンキングから開放されました。感謝します」


「アナタは?」


「私の名はリーゼ・エルランド。 エルランド王国の第二王女でした。先のゴブリンの異常発生の時、軍を率いてこのゴブリンの巣窟へ乗り込んだのですが、ゴブリン達に隙を突かれ、宝剣アリネスを奪われてしまったのです。何とかゴブリンキングを相打ちしたのですが……」


『兵士達は全滅し、そなたの命も尽きたのか』


リーゼの言葉を聞いて、エルラムは頷きながら長いアゴヒゲを擦る。


リーゼの話では、先のゴブリンの異常発生は、王国全土を広がるほどの規模だったそうだ。

今回はガストンさんが早期に気づいたおかげで、俺達だけでも対処できたらしい。


「ゴブリン達が繁殖を繰り返し、数が増えていくのを、何もできずに口惜しく思っていましたが、しかし、これで無念も晴らせました」


ゴブリンキングを倒した今、リーゼさんの遺恨も消えたよな。

これで彼女も何の憂いもなく昇天できるだろう。


少し悲しく思っていると、宝剣から聞こえてくるリーゼの声がキッパリと言い放つ。


「しかし天に召されるのはまだです! どうして私が英雄王子なんですか! これでも生きている時は可憐な美少女だったんですよ! どうして私が男になってるんですか! 断固、抗議いたします!」


「そんなこと言われても、歴史を正すなんて俺達にはできないし……」


「それはわかっています。とにかく私を外に連れ出してください! 間違いについては子孫に直接問い質します!」


実は王女殿下なのに王太子と間違われていたことが恨みとなって、霊が宝剣に憑依して魔剣になったということか。


リーゼの子孫といえば、エルランド王国の王家だよな。

できることなら面倒臭そうだから、王宮とは関りを持ちたくないんだけど。


そんなことを考えていると、宝剣エクリプスが地面から抜け、空中に浮かび上がる。

どうやらリーゼがポルターガイストの力を使ったようだ。


「トオル達にお礼をしたいと思います。私が示す地点を土を掘り返してみてください」


「地面の中に何かが埋まっているのか?」


「先の戦いの時に幹部兵士に持たせた宝具が眠っているのです。このまま地の奥底に埋もれさせていても仕方ないですから、皆さんへの褒美といたします」


「これがホントの宝探しね! ワクワクするわ!」


『ドンドン掘っていきますです』


両拳を握りしめ、リアが嬉しそうに笑う。

オランも楽しそうだ。


俺達も苦労してゴブリンと戦ったんだだから、少しぐらいの褒美があってもいいよね。


宝剣アリネスは空中を飛んでいき、次々と地面を指し示す。

その場所をエルラムとオランがポルターガイストを使って掘り返すと、色々な宝具が見つかった。


エルラムの査定では、どの品も国宝級の代物らしい。

発掘した宝具の中に、『次元収納の指輪』があったので、全ての品物を指輪を使って収納する。


背嚢から水筒と非常食を取り出し、軽くお腹を満たした後、俺達は地上を目指して上り坂を歩いていく。


まだ巣穴には、ゴブリン達が彷徨っているはずだから、俺とリアの体に、オランとエルラムが憑依してくれている。

リアはともかく、俺に戦闘力を求めるのは無理があるからね。


ゴブリンの群れがチラホラと現れて戦闘になったが、地下へ向かう時とは違い、数が少ないような気がする。


やっと地上に戻って来ると、太陽は傾いて空が真赤に染まっていた。


ヘトヘトに疲れた体を押して、街道を歩いてレグルスの街の外壁まで辿り着くと、無数のゴブリンの死骸が地面に倒れており、門を守るように冒険者達が臨戦態勢で構えている。


その集団の中にガストンさんの姿を見つけ、俺は大きく手を振った。


「あれ? 皆、殺気だってますけど、ガストンさん、何かあったんですか?」


「森で原因不明の大爆発があったと冒険者ギルドに報告があってな。それで外壁と門の警戒を強めていたんだが、そこにゴブリンの大群が押し寄せてきてな。なんとか一掃できたんだが、何が起こっているのか、全くわからん」


俺に状況を説明しながら、ガストンさんは苦い表情を浮かべる。


そういえばゴブリンの巣穴に入る前に、エルラムがエクスプロージョンをぶっ放したんだった。


もしかすると、俺達がゴブリンキングを撃退したことで、ゴブリン達がパニックになって街に向かったのかも。


顔色を青くする俺の表情を読み取って、ガストンさんが訝しむような表情をする。


「そういえば、お前達にはゴブリン達の調査を頼んでいたな。森の方向から歩いてきたが、お前達が何かやったのか?」


「その……もう、あの森は無くなりました」


「やっぱりお前達が何かをやらかしたのか。冒険ギルドで全てを吐いてもらうぞ」


ガストンさんが俺の肩に腕を回して、凄みのある笑みを浮かべる。


冒険者達に囲まれ、冒険者ギルドの建物まで戻ってきた俺とリアは、ガストンさんに身柄を拘束され、二階のギルドマスターの執務室へと連行された。


大きいソファにドカッと座ったガストンさんは、長い息を吐く。


「さあ、何があったか吐いてもらおうか」


「……実は……」


対面のソファに座って、俺とリアは身振り手振りでゴブリンの巣窟を発見し、その穴に潜って地下へと向かい、ゴブリンキングを撃退するまでの経緯を説明した。


そして腰の鞘から宝剣アリネスを取りだし、テーブルの上に置く。


「オークキングが持っていました。宝剣エクリプスです」


「宝剣エクリプスだと! 英雄王子が所持していたと言われる幻の宝だぞ!」


驚くガストンさんに追い打ちをかけるように、宝剣に憑依しているリーゼが声を放つ。


「私は王子ではありません! 断固、抗議します! 子孫達にはお説教が必要なようですね! 私を王宮へ連れていきなさい!」


「宝剣エクリプスがしゃべっただと!」


「彼女の名前はリーゼ・エルランド。皆の言われている英雄王子が、宝剣に憑依している少女ですす」


英雄王子が実はエルランド王国の第二王女だったことを説明すると、ガストンさんは疲れたように、ソファに背中を持たれさせ、片手で顔を覆う。


「なんてこった。それが事実なら、エルランド王国の王家が絡むじゃないか。俺の手に余るぞ」


リーゼのおかげで、森が焼け落ちたことは有耶無耶になりそうだ。

でも宝剣エクリプスとリーゼの件はどうすればいいだろう?


レグルスの街の領主はアルバート様だから、貴族のことは貴族に押しつけるしかないよね。

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