第26話 煌煌

 バルバトが地面に風魔法を射出すると、土煙が辺り一帯に充満した。

 視界は塞がれ、俺はバルバトを見失う。

 途中からやけに素直に質問に答えているなと思ったが、ずっと自由になる隙を伺い、あるいは時間稼ぎをしていたのだろう。


(クソッ! 完全に油断したな)


 自分の注意力のなさに舌打ちしたい気分になった。

 ……落ち着け、冷静になるんだ。

 俺は瞬時に魔力感知を発動させる。


(まずい)


 急激に接近してくる魔力の存在を感知した。

 突然人影が視界に現れる。

 間一髪、俺はバルバトの剣戟をパイプで防ぐ。


「フハハハッ、いい反応だなァ」


 バルバトは二度三度と剣をふるい、すぐさま離脱した。

 このまま尻尾を巻いて逃げてくれたほうが、楽だったんだけどな。

 俺は力押ししか出来ない近距離よりも、遠距離の方が攻撃のバリエーションに富んでいるので、逃げてくれれば感知魔法と遠距離攻撃の餌食えじきに出来たのに。


「貴族が暗殺者の真似事か?」

「フハハハッ、違ェねェ。だが俺はもう油断はしねェ。テメェは必ずぶち殺す!」


 ヒットアンドアウェイに徹されると厄介だな。

 バルバトの反応がある地点を魔法で消し飛ばすか。

 そう思って右手を前に出したところで俺は気がついた。


「これなら魔法は打てないだろうよォ」

「チッ、小賢しい真似を」


 俺の魔法の射線上は武官たちがいた。

 なるほど、魔法で処理することは諦めるしかない。


(カウンターを狙うか?)


 しかし既に俺の間合いを見切っているような雰囲気がある。

 仕留められる、と思った瞬間には離脱しているので、少しモヤモヤする。

 視界を潰すような泥臭い真似をしたり、俺の弱点を的確についてくる当たり、バルバトは実戦経験が豊富なのだろう。


(やはり、バルバトを仕留める選択をしたのは正解だった)


 このレベルが何人もナイア王家にいるとはなかなか考えづらい。

 バルバトの力量に達するようなステラ級はかつて一緒に修行していた、兄弟子のユークレーンくらいだろう。

 ここでバルバトを仕留められれば、将来のオルテノスが受ける被害を抑えることが出来るはずだ。

 しかし、このままでは決め手にかけるな。


(しょうがない、を使うか)


 俺は一つ切り札を切る決断をした。

 ポケットから金貨を一枚取り出して握る。

 そして金貨にガッツリと魔力を込め、それを人差し指と中指の間に挟んだ。

 次に接敵したタイミングですべてが終わるだろう。



 ◇◇◇◇



(あの小僧クソガキ、一体何をしやがったァ)


 土煙が舞う中、小僧クソガキから魔力を練る気配を感じた。

 しかし何か魔法が発動したような様子はない。


(ハッタリかァ? ……いや、様子を見る)


 俺は魔力を練り上げ、小僧クソガキの足元に向かって風魔法を放つ。

 直撃した気配がしたが、"盾"でしのがれたか。

 やはり、小僧クソガキが魔力を練ったのが気になるが……わからない。

 逃げるか?

 いや駄目だ、小僧クソガキに背中を見せることだけはまずい。

 俺の勘がそう言っていた。


(―――殺るしかねェ、小僧クソガキをここで殺らなきゃ、ナイアは終わりだァ)


 俺は、思いっきり地面を蹴り上げ、小僧クソガキに剣戟を仕掛ける。

 身長差を利用して上から叩き切り、一回転して横薙ぎ、そのまま連撃。

 小僧クソガキの棒さばきは巧みだった。


(クソッ、これでもしのがれるかァ。力だけじゃなく技術もあんのかよォ)


 小僧クソガキの一撃は怖いが、近づいちまえば、取り回しが難しい長い棒は剣に対して不利に働く。

 俺はこのまま押し切れると判断し、更に連撃を加えた。

 だが俺はこの時既に、小僧クソガキに誘い込まれてしまっていたのだろう。



 ―――帝国金貨?



 ふと小僧クソガキの右手から一枚の帝国金貨がこぼれ落ちるのが見えた。

 この場に不釣り合いなそれは、くるくると回転しながら空中を落ちていく。

 小僧クソガキは一歩退いて、"盾"を展開し始めた。


(一体何をしている?)


 小僧クソガキの行動の意味は理解できなかった。

 しかし次の瞬間には、その意図を理解する。

 帝国金貨それが地面に落ちて跳ね返るやいなや、まばゆい光を放ったのだ。


(巨大な魔力反応だとォ!? まずい! "盾"をォ……)



 ―――帝国金貨それは、強烈な轟音とともに大爆発を引き起こした。



 ◇◇◇◇



「ケホッ、ケホッ……やったか?」


 俺は、自分の目の前で"魔力爆弾"が正常に発動したことを確認した。

 魔力伝導率の高い物質に特殊な魔力を注ぎ込み、強力な爆弾を作り出す魔法である。

 爆発は任意のタイミングで、様々な条件付けをすることも出来る。

 今回は自爆覚悟の技になってしまったが、魔力抵抗が高い俺が更に"盾"を起動したので、ダメージは軽微だ。


「さて、バルバトは処理できたかな?」


 土煙が消えていくと、岩陰からが出ているのが見えた。

 周辺は血溜まりになっているので、岩の向こうでおそらくは死んだか重症を負っているだろう。

 俺は死体を確認しようとそこへ向かう。


「足?」


 そこにあったのはバルバトの死体ではなく、―――人間の足だけだった。

 背後でガラッと、瓦礫が崩れるような音がした。


(クソッ、罠だったか)


 俺は振り返って冷や汗が流れた。

 そこで見たのは、片腕、片足一本ずつになりながらも血だらけで剣を振りかぶっているバルバトだった。

 なんという執念、瓦礫に身を隠して魔力感知をかわしたのか。

 ここまでやられると敵ながらあっぱれというほかない。


「獲ったァァァァ!」


 俺は、初めて死の気配を感じた。

 走馬灯というやつだろうか。

 バルバトの動きがひどく緩慢かんまんに見える。


 俺はただ無意識に爆発的な量の魔力を練り上げていた。

 そして練り上げた魔力をパイプに込める。

 パイプには青白い筋が走り、先端からは星雲のように煌煌こうこうと揺らめくあざやかな光が勢いよく吹き出した。


「は?」


 事実だけを言えば、肉体の性能差で俺の方が早く動けたというだけに過ぎないのだろう。

 俺はカウンター気味に姿勢を低くし、ただパイプを横薙ぎに振るう。

 その一撃はバルバトのステラ級の肉体を星具ごと、断ち切った。


「グフッ……」


 どちゃりと、バルバトは地面に倒れる。

 上下分かたれた肉体からおびただしい量の血が流れ出した。

 バルバトはこのまま放置しても死ぬだろう

 だが、ステラ級はその肉体の強さからしばらくは生きながらえてしまう。

 少し気が引けるが、介錯してやることにした。


「悪いな、お前はここで仕留めると決めていたんだ」

「……やはり……滅魔導師だったかァ……ゴフッ……だが、この輝きは……」


 バルバトが気になる言葉を残したのを最後に、俺は―――その首を刎ねた。

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