第23話 説得士シャルカ

 ◇◇◇◇



 バルバトを戦闘不能にした。

 極太のミーティアレイでバルバトの左足、左手を焼き切ったのでもう動けまい。

 バルバトは思ったよりも戦闘センスが高かった。

 俺の確殺コンボを二回もしのいだことを考えれば、ここで仕留められたのは大きい。


(やはりトドメを刺す前に、少し情報を吐かせるべきだろうな)


 運良く生け捕りに出来たので、ここで何も情報を得ることなく処理するのはもったいないからな。

 俺は、その場にしゃがみこみバルバトの髪を掴んで持ち上げる。

 バルバトの目をのぞき込んだところ、驚くことにまだ戦意が失われていないことに気がつく。


「ふぐッ、うっぐ」

「バルバト、お前はもう何も出来ない。死にたくなければ今回の作戦について知ってることを全て話せ」


 当然バルバトを生かす選択肢はないのが、説得の様式美というやつだ。


「ペッ! くたばれェ、オルテノス風情がァ……!」


 バルバトは、俺の顔に唾を吐きかけた。

 べちょりとバルバトの唾液が俺の頬を伝う。

 魔力無しで、俺に悪態をつくとは、なかなかタフなことをする。

 俺は暴落していたバルバトの評価を一段階引き上げた。


「バルバト、お前はもう負けたんだ。話せば恐ろしい思いをすることはないぞ」

「誰が話すかよォ……、オルテノスには屈しねェ……」

「なら仕方ないな」


 あまり武官達の前でやりたくはなかったが、バルバトが口を割りそうにないし、やはり少し強引なやり方で説得するしかないだろう。


「バルバト、お前は今魔力を練ることは出来ない」

「あ”ァ?!」

「今のお前は"星屑ダスト"と同じ状態だ。そんなお前が俺の魔力を浴びたらどうなると思う?」

「どうなるってェ、はっ! て、テメェまさか!」


 ニヤリと邪悪な笑みを向けると、バルバトは俺の意図を察したらしい。

 俺は魔力をに練り、ほんの少量、魔力を漏出させてバルバトに流す。

 今のバルバトにそれほど魔力量は必要ない。


「うグっ、こ、これはァ! うぎぃッ」


 バルバトは自分の右手を見つめ、異変に気がついた。

 今、フォークで陶器の皿をひっかく音を聞いているような不快感が、バルバトの脳を侵食し始めている。


「はっ、やめっ、やめろォ! あ、頭がッオカッ、オカッ、おおかしくなるゥ!」

「今回の作戦、首謀者は誰だ?」


 今回の作戦はバルバトが立てたものではないだろうと考えていた。

 理由は二つ、まずバルバトの性格的に綿密な計画を立てられるようには見えないこと。

 次に、ホシロス侯爵家がバルバトに協力するメリットがないということ。

 バルバトとナイア王家の間に対立がある以上、バルバトを王にかつげば、オルテノスとナイア王家の両方を敵に回すだけだろうからな。


「オ”オ”! オ”ゴぉ! い、言うわけッねェ! くゥい、や、やめ、やめて、わ、わぁルカった! 俺がわるかッ! ハッ、はぎゃあ”あ”あ”あ”あ”あァァ!」


 バルバトがまだ抗っているので、少し説得を強くする。

 男の汚い断末魔の叫びが響き渡った。


(まずいな、加減が難しい)


 なまじ魔力が多い分、こういう繊細な魔力操作が必要になる作業はとことん俺には向いていない。

 今も、少しレバーをひねったらドバっと出そうな蛇口から一滴ずつ絞り出すようなギリギリを攻めているので、少しでも誤ったらバルバトを殺してしまう。


「言え、お前とホシロス侯爵家を結びつけたのは一体誰だ?」

「……ヒィッ! くッ、クソぉ、クソがァァァ……!」


 バルバトはその身を震わせながら、一人の武官を指差した。

 なるほど、あの武官か。

 たしかさっきバルバトが倒れた時に、助けに来ようとした武官だ。


(本当にあいつが黒幕なのか? いや……)


 ただの武官が単独でステラ級を動かせるはずもない。

 あの武官の背後にも、更に別の何者かいる可能性がある。

 よし、あいつも捕虜にして説得するしかないな。


「よく答えてくれたなバルバト。じゃあもう一つ聞こうか」

「何でェ! 話せばもう何もしないって言ったじゃねェかよォ!」

「はぁ? 質問は一つなんて、俺は一言も言ってないぞ」

「ッ〜〜!」


 バルバトに睨みつけられているが、抵抗する気力は残っていないようだ。

 それほど、魔力による説得は有意義なものだったのだろう。


「今回の作戦の実行犯は? ホシロスのステラ級三人とバルバト、他にステラ級はいるか?」

「……居ねぇ、四人だけだ」


 四人だけなのか。

 なら俺達をずっと追ってきたステラ級はバルバトたちとは別口なのか?


「バルバト、お前たちがペキオン村付近に来たのは偶然じゃないな? あれは俺達がここにやってくることをあらかじめ知っていたような動きだった」

「……」

「沈黙は肯定と取るぞ。俺達は準備も急ピッチで進めてきたし、行軍に遅延もなかった。そうなると、オルテナトリスに裏切り者かスパイがいて、お前達のところに情報を伝えたとしか考えられない」

「フハハハッ……確かになァ!」


 スパイの可能性は低いと思っている。

 オルテナトリスの検問は厳しいし、市内に入った魔力持ちの侵入を感知するような"魔道具"が外壁に設置してあるので、見つからずに侵入するのは至難の業だからだ。


「俺達の情報をお前達に伝えたのは一体誰だ?」


 俺の問いかけに対し、バルバトは不気味な笑みを浮かべながら、口を開く―――

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