暁天ノ祓(ぎょうてんのはらえ)
沙城さし
第1話「日常」
思念を反映する、超常的な力「霊力」或いは「魔力」。それを有する「霊能者」「妖怪」或いは「霊」。これはそんな「彼ら」がいる現代のお話。
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金曜日、古典の授業が終わり、微睡みの中HRが始まる。なんとか板書を追い続けるのに使った真面目さを振り絞って睡魔に抵抗を試みるも、五日間の疲労の前にはジリ貧で、ついには心地良さの誘惑に負けてしまい……。
「おい久火(きゅうが)ァ、起きろ〜〜」
そう言って肩を揺らしたのは、授業中は人目も憚らず爆睡していた友人、木嵐 結丸(こがらし ゆいまる)だった。気付けば教室には疎らに人が残るばかり。どうやらHRは終わっていたらしい。
「んん……もう少し寝かせてくれたっていいじゃないですか、結丸さん」
「ンなこと言ってられっか!今夜はニ〇ダイだぜ!だから俺ァさっさと『課題』を終わらせてェんだ」
結丸は伸びた前髪の隙間、眼鏡の奥の瞳を輝かせている。昨刻の授業はもとより睡眠時間だと思っていたのだろう。この様子でどの教科のテストも一桁台から順位を落としたことが無いのだから感心する。話を聞いていたらなおよりなのだが……。
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この寝坊助の高校生、火村 久火(ほむら きゅが)と、彼に話しかける木嵐結丸は普通の人間ではない。それどころか人間ですらない。
彼らは俗に言う「妖怪」だ。本来の姿はそれぞれ、妖狐と、木彫りの狛犬の付喪神。
超常的な力「霊力」を有し、それを使役する者「霊能者」(人間社会に参加する妖怪も含む)は、法に則った範囲だと三種類存在する。
一つ目は専用の教育機関に通い、霊力を扱う技術「霊術」の心得を学び、霊的事象を管轄する国家機関「祓霊局(ふつれいきょく)」に所属する「霊術官」、またはその研修生。
二つ目は祓霊局に申告し交戦や必要以上の霊力の使役をしないことを宣誓し「民間霊能者登録」をした者(祓霊局の職務外の霊力を用いた商売をするにも登録が必要)。
三つ目は神職「御霊仕(みたまづかえ)」とそれに関わる者。祓霊局と管轄が被ることも多いが、信仰対象の「神霊」の扱いには、より繊細な霊能力の扱いを学ぶ必要がある。地元の霊的事象の相談窓口になる事も多く、祓霊局の管轄の事象であっても除霊や緊急時の交戦は認められている。
それ以外は違法な霊能者となる。
久火たちは町の神社に「所属」しており(神霊に直接関与しない下積み、パトロール要員として)、民間人の護衛という責務のもと、人間の霊能者として通常の高等学校に通っている(霊術教育の役割は神社が負っているため、それを教育機関から受けることを免除されている)。霊能者は不思議な存在であれど珍しくはないため、その素性に気付いている者はいない。
結丸が言った「課題」は学校から出されるソレではなく、神社の職務のパトロールのことを指していた。
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「ふぁ……僕も今日は早く寝たいですし、行きますか」
「そりゃいつもだろ」
つり目を擦る久火に、ケタケタ笑う結丸が返す。
「さァて、今日もこの町の平和を見届けるかァ〜」
「気を抜くなっていつも言われてるじゃないですか」
ちょっと普通じゃないだけの、いつも通りの放課後。
のはずだった。
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