第21話 □ 迷い子の正体と新たな敵

□ 迷い子の正体と新たな敵



 目を覚ます。朝だ。ウィルス認定される人間たちには、昼のように感じる世界。


 光が指すのは、朝の光によく似た、夕日が差し込む。


 夕日の光、で、目覚める。


「……う~……」


神夜は、ある部屋で寝ていた。


その部屋は、旬の家らしい所で、何だかデジャブのような違和感を抱いていた。


それもそのはず、霧咲と神夜の立場が逆転していたからだ。


「あれ、神夜は……戦って……暁斗と……。そうだ暁斗が消えて……その後は……」


 神夜は霧咲が起きた時と同じような台詞を口にした。


霧咲はそれが面白かったのか急に笑い出す。


「あははは‼」


 神夜は笑っている霧咲に起き上がり質問した。


「な~霧咲~旬は⁉」


「ふふ、旬くんならそこに居るわよ」


「わっ!」


 霧咲が指を刺したのは、神夜が寝てるベッド下だった。


その指した先には、ちょこんと女の子が座っていた。


「……この子は⁉」


 神夜は霧咲に旬はどこか聞いたはずなのに、霧咲は見知らぬ女の子を指した。


「旬くんよ!」


「えっ⁉」


「だ~か~ら~この女の子が旬くんなの!」


「え―‼」


 霧咲に言われるまではこの女の子が旬だとは気づかなかったが、言われて見ればどことなく、目元や体型が類似していた。


「旬だよ、僕!」


百歩ゆずって旬のことを認めたとした神夜。だが、すぐさま、もう一つの疑問が出てきた。


今度は夜魅がいないことに気づく。


 神夜の布団の上に乗っかっていた旬らしき女の子は、神夜の顔をジーと、見てニコニコと笑ってくる。


神夜は、ニコニコの顔をした旬だと言い張る女の子に苦笑いで返し、夜魅の事を霧咲に聞いた。


「じゃあさ~夜魅はどこに居るんだ~?」


「はは~……夜魅……夜魅はね~……あはは」


 霧咲の視線の先の方向に顔を向け用としたが、そこは、自分の横。神夜は恐る恐る自分の横を見た。


「わっ‼」


 神夜は又驚いた。


神夜はそのまま布団から飛び跳ね一歩後ろに下がり戦闘態勢になった。


「あ……そうか今はもう敵じゃなかったんだった~……はぁ~」


 と、ため息を漏らした神夜は、こんなことが、最近あったような……と思いつつ、ホッとしていた。


それを見た霧咲はまたもや面白く見えたらしく笑いをこらえていた。


「ムフ……ムフフ……ムフ」


 夜魅は神夜の言動を見て一言。


「今は、敵じゃねーが、味方でもねーぞ」


 といい窓から外に出て行った。


神夜はそれを耳にすると、夜魅はそういう性格だからな~なんて勝手に思って、神夜なりに納得をしていた。


「そう…………なんだ~」


 神夜はそんなことを小声で言いながらベッドに座ろうとした。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん出て行っちゃったよ……追わないの?」


 旬と名乗る女の子が先にベッドの上に座っていた。


「……」


 そうだった、この女の子のことを忘れる所だった。


さっきは夜魅の事もあって適当に話しを負わせていたけど、もうそれは無理そうだ。


神夜はそんなことを思いながら女の子を見ていった。


「……え~と、旬なんだよな……?」


「うん、僕……旬だよ」


「でも旬って男の子だったはずじゃ……」


 神夜は霧咲の方を向いて疑問を何と無く任せた。


「それが……そうじゃなかったみたい……」


「というと⁉」


「元々旬くんは旬ちゃんだったってこと……」


 霧咲はなぜか気まずそうに今の一番の疑問となる問題の答えを出した。


「えっ……この子は女の子だったって事か⁉」


「うん……」


神夜が男だと思っていたのもそのはず、初めあった格好は、帽子を深くかぶっていたから、てっきり短髪の男の子だと思ったのだった。


だが、今はまるで違う、帽子を取った旬の髪は、肩よりも下まで伸びていて、その髪の毛と顔を見ればどっからどう見ても女の子だった。


 それを知った事で、どうこうする問題でもなかった神夜は、ひとまずそのことを理解したとこで旬の問題は解決した。


「でも……昨日のこの子のこの力……」


 霧咲はそう言うと、旬の体をジロジロと見始めた。


「……うぅ~」


 旬は恥ずかしくなったのか、地面に落ちている帽子を深くかぶり、顔を覆い隠した。


 神夜は、そのしぐさを見て普通の女の子にしか見えなかった。でも、霧咲の言うと通り、この女の子旬には、何かの力があるのは間違いないのだ。


「お兄ちゃん……お姉ちゃん怖い~」


 旬はそういいながら、神夜の脚にくっついてきた。この姿を見てる分には、霧咲も神夜も普通の女の子にしか見えないのだ。


 霧咲は旬をジロジロ観察するのを止め、急に提案をしてきた。


「まぁ~そんな難しいこと考えてても何も解決しないしね~。外に遊びにいきますか~」 


と、旬と神夜に提案した。


「外? うん、お外に遊びに行く‼ ねえ~お兄ちゃん行こうよ‼」


 旬は嬉しそうに神夜の脚を引っ張りはしゃぎ始めた。


「じゃあ行くか!」


「やったー‼」


 そのまま旬と神夜と霧咲は外に出かけた。


三人はまずコンビにより、お菓子や漫画などを色々と調達を済ませ、近くにある公園に行った。


お店の店員は、いるのだが、ほぼほぼセキュリティッ対策で、配置された、データ人間だ。


その証拠に、レジや品出し名をする素振りもしないし、現に、無人の自動レジ決済で、商品を購入している。


購入と言っても値段がゼロ円といつも表示され、店員に効くと「ご自由にお持ち帰りください」と言ってくる。


無料サービスは嬉しいのだが、とても不気味な世界だ。


更に、コンビニでに陳列された標品を手にとって無人レジに進むと、先程取った商品を埋めるように青い粒子が出現し商品を補充している。


無人レジ&無人陳列といったところか・・・。


また、この無人レジでとうした場合にのみ出現するようだ。


おそらく、この無人レジにより、個数を把握しているのだろう。


そして、店内を店員という名目で、監視しているのであろう。




外を出ると、基本的に神夜たち以外は、人気は感じられず、一定の巡回ルート上を往復するデータ人間くらいだ。


データ人間は、基本的に、室内に多くいて、外にいるデータ人間は少ないらしい。


神夜達が行く先々はどこも人気が無く静まり返っていた。


少しは不思議に思っていたがやはり、データの世界だからと思ってしまうと、なぜかなんでも納得してしまう。今の疑問もそれで片づけられる。


 神夜と霧咲は近くにあったベンチに座った。


霧咲は一息してから、神夜の方向を見ずに話しかけた。


「でもなんでこの子、急に話しかけてきたんだろう……」


 霧咲は公園で遊んでる旬を見ながら、神夜に問いかけた。


「急にって、話しかけたかったからじゃないのか⁉」


 神夜は「何を言っているんだ」ぐらいにしか、霧咲の話を聞いていなかった。


「でも、この世界には、人間は私と神夜くん、それから私の祖先であり、作り出された夜魅。たった三人しか居ないのよ」


「もしかしたら、この子は・・・」


 霧咲は深刻な表情で旬を眺めていた。


「それじゃあこの子も俺達を狙って送られてきた、データ人間って事か」


「可能性は0じゃない……」


「そんな……」


「それに、私がここまでデータ人間にやられずに居たのも本当はおかしいのよ……。こんなにおそわれるようになったのも、神夜くんが来てからだし……」


「そうだったのか」


「私達の記憶を改竄して、何かしているのは確かかもしれないわね。そう考えるとあの男が何ども目の前に現われていたかもしれないわ」


 そう言うと、霧咲は下を向いて深く考え始めてしまった。


それを見た神夜はベンチから立ち旬の居るブランコまで走っていった。


―――旬がデータ人間だなんて……ありえないだろ……だって、旬は感情があるし普通に喋ってるじゃないか……そんなことあるわっけ……―――。


 そう思いながらも、神夜はどこかで旬のことを少し恐れていたのも事実だった。


公園で遊び終わり、三人は帰り道の途中だった。すっかりあたりは暗くなり、月がはっきり見えるようになってきた。


いつでも、くらいが、夜になると、雲が晴れ、月が見えたりするのだ。


そんな中、神夜の背中には旬が乗っていた。途中で寝てしまったのだ。


「たくも~眠いなら言ってくれよ~顔面強打する所だっただろ~」


神夜は公園で旬と鬼ごっこをしていた時だった。旬が鬼ごっこの途中で眠くなり、目をこ擦り始めた。体力を使い果たしたのであろう。


 その直後に公園の小石に足を取られ、そのまま倒れてしまったところを神夜がとっさに支えたのだ。


 そんなことがあったのもあり神夜の服は砂だらけに汚れていた。


「なぁ~霧咲、旬がデータ人間の可能性があるって言ってたよな~」


「可能性は0じゃないと言ったんだけど!」


 霧咲は口を膨らませて少し怒った口調だった。


「まぁ~似たようなもんだろ、それって見て解らないのか?」


「う~ん、データチップが埋め込まれているかどうかで解るよ、埋め込まれていたらデータ人間で、なかったらそうじゃない」


「うん、そんなことくらいは解るよ、そのデータチップがどこにあるかを知りたいんだ。霧咲なら知ってるよな⁉」


「知らない」


 霧咲は即答した。


「えっ⁉」


「知らないのよ……データチップがデータ人間に埋め込まれているのは知ってる……でもそれがどこにあるか解らないの」


「多分頭とかにあるんじゃないか⁉」


「私もそう思ったけどまだこの世界で一人だった時、データ人間を倒してデータチップを見つけたの、その初めに見つけたデータチップは瞳のなかにあったのよ……」


「じゃあ旬の瞳には、データチップなんて無いじゃないか、だったら、旬がデータ人間だなんて可能性は……」


 神夜は旬の瞳を思い出しながら霧咲と会話を続けた。


「でも前に神夜くんが暁斗って言う人と、会った時あったじゃない。その時、夜魅が倒して消えるまでの状態のデータ人間を見ていたのよ。その時は、瞳じゃなくて、足の裏にデータチップと、データ番号が書かれていたのよ……。後、違うデータ人間の肩にも、違う番号のデータチップとデータ番号が……」


 神夜は絶句した。


霧咲の見たと言う話しが本当なら、足の裏に……いや、どこにあるか解らない……そうどこにデータチップがあるのか解らないのだ、それを聞いた神夜は霧咲の「知らない」の意味がやっと解った。


「旬がデータ人間の可能性は……0じゃない」


 神夜は気づくと霧咲と似たような言葉を吐いていた。


その時旬は神夜の後ろで目を開いていた。



   ◇



真夜中。


神夜は、寝ている最中に、寒さを感じ、トイレに行こうと、布団から出て廊下の明かりをつけた。


何だか寒気がした神夜は、その寒気の根源を探してみた。


その寒さの原因は、ドアが開いていて外の風が廊下に入ってきていたことが、原因だった。


「霧咲か~外に居るのは~~寒いから閉めろよ~」


 神夜は、寝惚けながら恐らく、霧咲だろうと外へ出た。


そこには、初め真っ暗で見えなかったが、小さい人影が闇の中でより暗く見えた。


「……旬!」


 神夜は一気に眠気が飛んだ。


「お兄ちゃん……」


 旬はなぜか、凄く悲しそうな目をしていた。


「どうしたんだ⁉ 旬?」


「僕、データ人間なの……お兄ちゃん達を追いかけてる人達と同じなの……」


 今にも泣き出しそうな声で旬は神夜に言った。


「……旬、帰りの話聞いてたのか⁉」


「うん……」


「そうか……でもあいつらなんかとはお前は違うぞ。旬お前は神夜を襲うか?」


 旬は神夜の問いかに、んうう……と、首を横に小さく振る。


「旬、お前は神夜達を嫌な目に合わせたいか?」


 同じく横に小さく首を振る。


「旬、お前は神夜達を消したいと思ってるか?」


 旬は、今までよりも少し大きく首を横に振り、やだ! と、小さな声で言った。


「じゃあ旬は神夜達と一緒に居たいか!」


 神夜は今までよりも大きな声で質問した。


「うん! 一緒に居たい! ずっとずっと一緒に居たいよ‼」


 旬は神夜の質問よりももっと大きな声で、涙を流しながら必死に答え、神夜の胸へと走ってきた。


「そうか、そうだよな、旬、俺もお前と一緒に居たい……。あいつらと一緒なもんか! 他の皆もそう思ってるはずだよ。旬!」


 神夜はそういいながら旬をそっと抱きしめた。


その時を待っていたかのように風が急に強く吹き始めた。


その風は段々と強風に変わっていき旬に細くて長い髪を横向きにさらさらと流した。


「……」


 神夜はその時確かに見た。旬の髪で、首元が見えた時に、番号のような印の焼き跡のようなマークを……。


 それは一瞬しか見えなかった。風は急に強風から弱風に変わっていき旬の綺麗な黒髪は、元の位置に戻っていった。


「なっ!……」


 神夜は言葉が出なかった。


なぜなら、ここで騒いだら旬がデータ人間だと騒いでいるのと同じになってしまうからだ。


それは、裏を返せばこの世界からウイルスを排除するための暗殺者と認めるようなものだったのだ。


「どうしたの……お兄ちゃん?」


「んっ⁉ 何でもないよ……なんでもない、よし、そろそろ寝ようか!」


「うん!」


 神夜は旬の手を掴んで部屋に戻り旬を寝かした。


それから一人で夜のコンビにへと足を運んだ。


神夜は夜食とするお菓子(ポッキー)などを買い、真夜中の町をぶらぶらと歩き買って来たお菓子(ポッキー)を食べ始めた。


「んっん……やっぱり、この世界のお菓子は……食べても……へらないな~……」


 本来であれが、こんなときに、お菓子なんて……。と思っている神夜だったが、今は、こうすることが最善だった。


 そう、神夜は、困惑していたのだ、あんなにもなついてきている旬が、データ人間で、俺達の敵になるわけがない……そう信じたいと。


 神夜は、やるせない気持ちを抑えながら、一旦冷静になるため、冷たい風に当たり、コンビニまで、足を運んだのだった。


 お菓子(ポッキー)は食べた後、小さい粒子がまたお菓子の元の形へと形成され、気づくと元々の状態へと戻っていた。


そんなお菓子を見ながら神夜は夜の街を歩いた。


「これでも腹に溜まっている感じがするんだよな~……これ……」


 神夜は、ポッキーを持っている片方の手だけを上に上げ、ポッキーのチョコが付いている先を、月に照らし合わせて方目を閉じながら、月と黒い空とポッキーを重ね見た。


そして、不思議な出来事と言うのはいつも突然だ。


「何だ……皆既日食か⁉」


 神夜はポッキーと月の間に、何か黒い闇のようなものが……そう、小さな黒い球体が見えた。


その黒い球体は、まるで霧咲の手足に、円のように光っている青白い光と、何となく似ていて、でもぜんぜん同じものじゃない、そう、まさに逆だ。


旬のあの体中に、くるくると巻き付いていた青白い光とも似ていた。


闇のような黒い球体は、どんどんと近づいて来たのか、大きくなっていき、月位にまで大きくなった。


一瞬月が消えたのかと錯覚をおこして驚き、周りが真っ暗。


真っ暗になったのは、一瞬で、周囲は何も変わらず、静かな夜。


なぜか怖くなり逃げようかと、とっさに足を引いたが、気づくと月の光は暗闇の道を微かに照らしていた。


光が、見える。月明かりで足元も周囲も見えている。沿う感じた神夜はホットした。


 そう、先程の黒い球体は、一瞬にして消えてしまったのだ。


元の月が神夜を微かに、微弱な光で照らした。




(……――私は――生物の精神を司る者――)




 どこからともなく聞こえる声。


神夜は不気味に感じ、弱気になりそうだったが、そんな姿を見たら命を奪われるのではないのかと思い、少し怖かったが強気で出ることにした。


「おい、なんだ~生物の精神を司る者とか言う……お前は、どこに居るんだ! 話すなら姿を見せるのが礼儀ってもんだろ‼」


 神夜は声を張り上げながら、周りをきょろきょろと見回した。


どこも人影は見えない……いや、こんな暗闇だから、見えないの間違いかもしれない。


だいたいデータ人間は話しかけてきたりしないのだ。


なんて思いながらも回りを警戒して見渡す。


「どこを見ているんだ! お主よ! 私はここだぞ‼」


またどこからか声が聞こえてくる。今度はかなり近くで聞こえた気がした。


「どこだ! 見えないぞ‼ 隠れてないで出てこい‼」


 神夜は大きな声でまたもや叫びその声は夜の街中に響きわたった。その響きが終わり少しの間沈黙が不気味に闇に蠢くことは無いが、そんな感じがした。



「……」


 神夜は何気なく手元にあったポッキーを口元に運ぶと口の中に入れて歯で噛み切る。




(―――イテッ‼ ―――)




「⁉」


 今度の声は神夜の目の前から、いやもっと近くの場所から聞こえたように感じた。


その声はさっきの不気味な声ではなくごくごく普通に痛みを感じてとっさに出る普通の声であった。


神夜はその声の出所がわかったのか少しだけもしかしたらという行動を起こした。


その行動とはポッキーを食べるという一動作の行動だけの仕草にあった。


瞬間的に再生したポッキーを「ポキッ」とポッキーが折れる音を立てながら神夜はポッキーを食べた。




(―――イテッ‼ ―――)




 またあの声だ。


やはり神夜が嘘だろと思いながらもポッキーを食べたのは政界だったようだ。


「やっぱり……生物の精神を司る者って言うお前は……ここだったのか」


 なんの偶然かは知らないが、誰かの意識が、神夜が買ったポッキーに魂が宿ったという事らしい。


(―――一度ならず、二度も痛みつけたな、お主‼ ―――)


 何とも信じたくない事実だった。


「で、なんで俺のポッキーに宿ったんだ~」


(―――あまり驚かないのかなお主は―――)


「いゃ……これでも驚いてるっ……つうか~……何度も凄い光景を見てきたからな。なれたって言うかしょうがね~つうか~」


 神夜は、ポッキーを自分と同じ目線の高さに合わせて話し始めた。


「ていうかお前なんでポッキーなんかに入ったんだ⁉」


 神夜は一番大切であろう事を聞いた。


(―――お主の中に入ろうと思っていたが、入る途中に、お主がいうポッキーとやらに、行く手をはばまれて……。仕方なくこの器の中に入るしかなかったのだ―――)


「……」


 そして、そのポッキーに宿った奴は続けてこういった。


(―――お主の体を借りてこの世界の有様を見たかったのだが――――こんな体だからな、見たくてもこれでは移動すらできない――お主――入れさせろ―――)


「はぁ⁉」


(―――もう一度だけ言うぞ――お前の器の中に入れさせろ―――)


「はぁ~そんな事は、聞けば解るよ」


(―――よし、ならば入っていいのだな―――)


「いや……そういうことじゃなくて……大体なんでこの世界を見たいんだ? 何か探してるのか⁉」


「――そうだ――私の対(二つそろってひと組になるもの)を探している――」


―――マジか~得体も知れない奴の目的を本当にあたっちゃったよ~……)


なんて思ってしまった神夜は問題に巻き込まれる前にこの場から立ち去ろうとした。


「そうなんだ~へ~まぁ~がんばってね! じゃあこれで神夜は……」


 神夜は持っていたポッキ―を暗闇の道の上に置くと着た道を帰ろうとした。


(―――まぁ~まて、《陰》と《陽》この二つの逆の性質が合わさった時、本来の在るべき姿に戻り私達は帰れるのだが……。いつの日か、私の対が、突然消滅してしまったのだ《転送中です》と言う表示と一緒にな……―――)


「!」


 神夜は驚いた。


その話しが本当なら暁斗と同じ消え方をしたと言うことになる。


それにこの生物の精神を司る者から、何か暁斗に関する情報をコイツが知っている可能性がある。


 それにここに来た方法を知ることで、帰る方法だって分かるかもしれない。


「あんたは、どうやってここに着たんだ……」


 神夜は、道上に一旦ポッキーを起き、ポッキーに宿る《生物の精神を司る者》に問いかけた。


「……」


《生物の精神を司る者》は、何も言わず、ただただ沈黙したままで、口をきこうとはしなかった。


そのあと少しの間考えたのか条件を付けてきた。その声は今まできいたことの無い真剣な声で語りかけてきた。


「その方法を教えたら、お主の体を借りて、対を探してもいいのなら……、教えなくもない……なぁ~。精神をのっとるとか、奪うとかじゃない……、貸してもらうだけだ。いつもは、お主の中で寝ぬっている。」


 また沈黙が少し流れた。


神夜は少し考え答えを出した。


「……解ったよ……教えてくれたら俺の体を貸してやる……貸すだけだぞ……いいな……」


「条件を飲むか、いいだろう教えてやる」


「……」



(――対が消える直前に触れると、こっちの世界に来れる――)




「えっ⁉」


 神夜は唖然とした。


なぜなら《生物の精神を司る者》がこの世界に来た方法は、全く神夜と同じ方法であったからだ。つまり、得る情報はなにもなかったということだった。


「待て……じゃあこの世界から戻る方法はどうするんだ……」


(――帰る方法なんてまだ知らない――)


「おい……マジかよ、俺と全く同じ情報量かよ!」


(――お前が帰る方法を知っていると、思っていただけだな――。だが、約束は守ってもらうぞ――)


「解ったよ……でどうすればいいんだ」


(―――私が宿るこのポッキーと言う今の私の器を食べろ、そうすればお前の体に乗り移れる―――)


「解った」


 神夜は、地面に落ちているポッキーを手に取ると、手で周りを払ってから、口の中に少しずつ入れた。


「イタッ! イタッ! イタッ!」


 《生物の精神を司る者》となのるポッキーは、神夜が修復不可能なくらいに、粉々に噛み砕いた。


「ゴクリッ」


と口の中のお菓子とどのような化学反応が起こるのか、様子をうかがう。


「…………ン……」


 ンッというのどに何か通った音か、はたまた空気をのんだ音なのか神夜には何なのか数秒間は全くもってわからなかった。


「……」


どのくらい黙ってそこに立っていたのだろう。


自分の感覚では、五分近く黙って立っていたと思っていたが、実際にはそんなに時間は過ぎていないのだ。


この感覚は、周囲がスローになっている感覚なのか、自分が、単純に早い思考をしていて、体感的に遅くなっているのか、よくわからなかった。


だが、飲み込んでから、だいぶ待ったのは確かだ。


「おい、生物の精神を司る者……いるか⁉」


 と神夜は自分の体を見て話してみた。


「――……ンッ……あぁ、入ったぞ――」


 この時、神夜はちょっとした謎があったのだが、それは直ぐに解けた。


それは……ンッと言う音の正体だった。


自分ののどかと思ったが、その音は恐らく《生物の精神を司る者》が出した音だったと言うことらしい。


なんて間が抜けた声だった。


「おぉ……こんな感じで話すのか、何か変だな……」


 神夜はそう言うと疲れたのか、路上に座りこんだ。


(―――何してるのだ―――)


「え、疲れたんだよ~なんでかわからないけど、はぁ~」


 神夜は、いろんなことに安心したのか、路上でうとうとし始めてしまった。


(―――聞くのを忘れていた、お前のなは何と言うのだ―――)


「おれか~俺は、神夜蒼麻(かみや そうま)っていうんだ。生物の精神を司る者よろしくな」


 神夜はそう言うと、すぐさま忘れていたことを、生物の精神を司る者に言った。


「あっ! そうだ。お前の名前を教えてくれよ、何だか長くて呼びにくいからさ~」


 気づくと、神夜は、気さくに話しかけられるようになり、恐怖を感じなくなっていた。


(―――名前などない―――)


「えっ……名前がないの⁉」


(―――名前は、ないが昔シナプスと言われていた……一番最近の名前もあったのだが……―――)


「シナプス⁉ 何だ、あるじゃないか、じゃあ、シナプスってこれからは呼ぶぞ~シナプス」


 神夜は食い気味にシナプスと呼ぶ事にした。


 なぜなら、疲れがたまり、かなりぐったりしていたためだ。


 理由は体がシナプスと一体化したことで来る疲れかもしれない。


 つまり、疲労のような疲れがピークだったため、早めに呼び名を決めて眠りに付きたかったことにある。


(―――いいだろう、神夜―――)


 神夜はそう言うと、その場でぐったりとして寝てしまった。



   ◇  



 朝だ。もちろん朝だが、カーテンから、差し込む光は、夕焼けの光。神夜はベッドの上にいた。


「わ~~~~あ」


 神夜は大きなあくびをしてから布団から出る。


台所に行って、コップに水を汲み、その水を少し飲んでまたベッドに座る。


「おはよう! お兄ちゃん‼」


 旬だ。旬は凄い速さで、二階へ上がると、そのまま神夜に飛び掛った。


「わっぁぁ~やめろ! こら~! 旬くっ付くな~~重~い‼」


 神夜は旬に押されて倒れた。


旬は神夜の上に載りはしゃいで手で神夜の胸を叩いている。


 と霧咲が二階からゆっくりと階段を下りてきた。その間も神夜と旬は格闘中であった。


「うるさいな~~どうしたの朝から~~」


 霧咲の服はいつも見ている服とは違いパジャマで出てきた。


パジャマの柄は水色の水玉模様が入った何とも可愛らしいパジャマだった。


「なっ……何やってんの! 神夜くん‼」


「えっ……ええぇ……」


 霧咲の目に移ったのは、神夜が旬を両手で上に上げようとして、旬が凄く嫌がって逃げようとしている所だった。


その場所を見たからだろうか、霧咲は口を膨らませて、神夜をじっと見てから「ばしばしっ」という効果音だけが聞こえた。


「何だ~……。それを早く言ってくれればよかったのに~。全くビックリした~はは……」


 霧咲は事情を知ると、凄く顔が真っ赤になり、正座をして神夜を見つめていた。


「いや……誤解だって言ってたのに、話しを聞かずに叩いてきたのはどこの誰だか……」


「何か言った!」


 霧咲は聞こえていないフリをして、神夜に目線で訴え掛けてきていた。


それを、なんとなく理解した神夜は、これが妥当だろうと言う言葉を返した。


「何でもないよ! あはは~」


 神夜はそんな言葉でやり過ごした。


霧咲は一旦落ち着くため、台所にあった水を口に含み、口のなかと喉を冷やすと、顔のほっぺた部分にコップをあてて顔を冷やすと、コップの中の残り少ない水を飲んだ。


「あ……その水……神夜のなんだけど……」


 神夜は霧咲がコップの水を飲み始めた時に自分のだといいづらそうに切り出した。


「……んっ…んっんっ……フッ!」


 霧咲は水を最後まで、飲み終わった後、噴出しそうになるのを抑えてまた、顔を赤くして黙り込んでしまった。


「お姉ちゃん、どうしたの⁉」


 旬はその何と無く変な空気をその一言で吹き飛ばした。


「何でもないよ~」


「顔赤いよ! ほんとにほんと!」


「うん、本当だよ!」


 旬のおかげでこの場は元の空気の戻ったように感じた。


そんなことを思っている時ふと気づいてしまった。ある事に。


「そういえば……シナプス……あれは……夢だったのか⁉」


 神夜は心の中でそんなことを思っていたら近くで聞いたことがある声がした。


「――夢じゃないぞ、神夜――」


 そうだ、シナプスを体の中に入れたのだった。


神夜は夢ではないことに気づきなぜか、今定になって怖くなった。


夜の時には見えなかったが朝になってはっきりと見えているものがあった。


「黒い球が……神夜の腹の中に……」


 思わず驚き口にしてしまった神夜はそぐに招待が何なのか予想が付いた。


なぜなら昨日の夜に見た球体が神夜の中にあったのだ。


単純に考えればシナプスに間違いないだろう。


「おぉ……お前か……何でお前喋ってんだよ。寝てんじゃなかったのか?」


(―――そのつもりだったのだが、神夜が道路で寝てしまったので、神夜の記憶から、ここの場所を探してベッドまで運んでやったのだ―――)


「そうだったのか。通りでその後のこと覚えてないのか~。夢だと思ったよ」


(―――夢ではない―――)


 神夜は、夢ではないことを理解した。


夢ではなく、現実だという事を確認し終えると、今度は自分の記憶を見せると言ってきた。


(―――対を探すには、器のお前にも対がどんな姿をしているか、は解っていた方が、効率がいいからな、寝ている間も、もしでくわしてもいい様にしとこう、目を閉じろ。神夜――)


 シナプスはそう言うと、自分の記憶から探す対の姿を神夜に見せた。


「……」


 神夜は数秒の間、暗闇の中に光を一つ見つけた。


その光に吸い込まれるように意識を持っていかれた。


 数秒目を閉じていた神夜は、あらゆる過去に起きたシナプスの記憶。


映像として頭の中にくるくると過去の記憶が回っていた。


その中からひときも目だった記憶があった。


その記憶に、神夜は吸いこまれた。


「……」


(―――どうだ、解ったか神夜、この対を私は探している―――)


「……これって……」


 神夜が目にしたのは、もう一人の霧咲の姿をした若い女の後ろ姿であった。


髪の毛はピンク色で、少し白が混じった髪をしていて、後ろで髪を縛った美少女だった。


(―――解ったのか、神夜―――)


「似てる……この人……」


 神夜はそう呟くと、シナプスに一つ質問した。


「なあ、お前はもし、対が見つかったらどうするんだ……」


 神夜は暗い口調で、シナプスに問いかけた。


(―――私達が元居た場所に、一緒に戻るだけだ―――)


「それってお前らの世界に二人で帰るって事だよな……」


(―――そういうことになるな―――)


「……」


 その言葉を聴いた神夜は、黙り込んでしまった。


その後少し時が過ぎ、話す気になったのか、神夜の口が動いた。


「……髪の毛の色は違ったけど、もう一人の霧咲によく似ているんだ。お前が探している対に…………」


 神夜は、顔を下げた。自分の体の中にある黒い球(シナプス)を見て、人差し指で霧咲の方を指した。


「――あの女の子がそうか⁉ 神夜……――」


 シナプスは、旬のことを言っているようだった。


それを聞いた神夜は顔を上げて訂正の言葉を言った。


「違うよ、その小さい方じゃなくて、その後ろの女の子が霧咲だよ……」


「――あの子か。私が探している対だと言うのか⁉ 似ていないじゃないか神夜――」


シナプスは不機嫌そうにそういって黙ってしまった。


「今はね、霧咲にはもう一つの人格があるんだ。危険が迫ると、もう一人の霧咲になるんだよ……。その時の姿が、お前が探してる対にそっくりなんだ……」


神夜はそう言うと、再び顔を下に下げて黙ってしまった。


神夜は、もしシナプスが探している対が、もう一人の霧咲であったら、この世界でともに同じ境遇の仲間がいなくなってしまうと思ったのだ。


そのため、あまり言うのは進まなかったのだが、陰と陽の関係性が大切だと、なんとなく解っていたのか、神夜はシナプスに霧咲の事を言ってしまったのだ。


「――そうか、だがこれでは解らないな……――」


 シナプスは、神夜の体を自分の手足のように動けるように裏と表の精神を入れ替えた。


 それが意味するのは、神夜とシナプスが入れ替わるってことだ。


「えっ、何? 何か付いてるの⁉」


 神夜の体をのっとったシナプスは、霧咲の体中を真剣でいて鋭い目で見つめた。


「これじゃあ解らないな……素のお前を見せろ」


 シナプスはそう言うと、霧咲の顔をジーと鋭い目で見た。


「素の私って…………そんな目で見ないでよ……なによ。急に!」


 霧咲は、困惑状態で顔を真っ赤にさせ、神夜の体で動いているシナプスを見ていった。


―――バカ‼ おい、おい、霧咲に何言ってんだよ! シナプス‼ つうか、俺の体返せ‼―――。


「おぉ、そうだったな、うっかりしてしまった。今戻すぞ」


 その言葉通りに、神夜とシナプスは立場が入れ替わり、神夜は元の自分に一瞬で戻れた。


「わっ!」


 神夜は、自分の置かれた状況に気づくと、直ぐに霧咲の腕を持ち二階へと上がって行った。


「ちょっと話しがある、来てくれ!」


「⁉」


 最終的に到達した所は、霧咲が寝ていた小さな部屋にたどり着いた。


「霧咲よく聞いてくれ。さっきいったことは気にしないでくれ! 忘れてくれ! 何でもないんだ!」


 神夜は誤解を解こうと必死になり、あやまちが起きないように話した。


いろんな意味で、神夜が霧咲を連れ込んだこともいろいろと誤解されやすい。


「あっ…………分かった………………忘れる」


 霧咲の理解はなぜか、直ぐに納得してくれた。でもまだ困惑しているように見えた。


 シナプスは他人事のように神夜に堂々と言葉を掛けた。


(―――この子顔が赤いぞ、体調が悪いのでは? 大丈夫か⁉ ―――)


「お前のせいだろう……」


と、神夜は小さく言葉をつぶやき返した。


「何か言った?……」


 まだ何か勘違いしているのか、霧咲は顔を赤くして目がおろおろしていた。


「何でもないよ! 何でもないない!」


 神夜はきっぱりと言った。そんな時に、一階から旬が上がってきた。


「お兄ちゃ~ん、お姉ちゃ~ん 待って~」


 旬の声を聴いた神夜は、自分の本来の目的を思い出した。


本来の目的とは、暁斗ともとの世界へと一緒に変えることだった。


それを思い出した神夜は、霧咲に一つの頼みごとをした。


「霧咲! 頼みがあるんだ!」


「何?」


「暁斗を一緒に探してくれないか」


「良いよ……。だってその人を探せば、私の父も見つかるかもしれないもの……。その代り私の父も一緒に探してくれる?」


 神夜は即答した。


「あぁ! 一緒に探そう、約束だ!」


 その話を効いていた旬もなぜか同意した。


「僕も探す! 約束!」


 そして神夜達は、その日をさかいに、それぞれの目的のために捜索を始めた。



   ◇◇◇   




システム冷却直前:熱が蓄積された世界




ひとまず、落ち着き神夜と霧咲と旬は、それぞれの目的のために外えと出た。


 この日だけは、雲と、夕日が、がなくなり、一気に快晴の晴れになる時期がある。その時期は、決まって、膨大な処理を行なった後に起きる。暑い日。


 つまり、膨大なシステムを管理している仮想世界(データワールド)の骨組みは、膨大な処理を行わなくてはならないのだ。


 その処理がピークに達すると、熱を排出し、システムを冷やさなければ、熱により、システムが壊れる可能性がある。


 PCなどの、端末機器と同じだ。つまり、今日が、その熱を排出する時期である。


 そう、現実世界でいうと「夏」のような状態になる。


 そう、ただただ暑い世界に早変わりする。


 だが、現実世界と違いこの、現象は、不定期で行われるため、予測がつかない。


「あちぃ~……日があちぃ~」


 神夜達は何かしていたい気分だ。


いや、何かしていないと、おかしくなりそうだったが、正解かもしれない。


 なぜなら、こんなに、暑い。


そして、いつもどおり、自分の目的を果たすため、ひたすら情報収集の日々。


そんなルーティーンをひたすら続けるだけの日々。


つまり、退屈さとこの暑い日には何かをして気を紛らわせたい、と思うのが普通の思考だろう。


そんな時だった。気分転換も兼ねて、この日は探しものをする日にしたのだった。


これで暑さを和らげ、なおかつ進展があれば一石二鳥だ。


いつもと天気がまるで、違う晴れの珍しい日に、神夜達はあるものを探すことにしたのだ。


そのあるものとは一人一人目的は違う。


その価値も大きく違うものであった。


神夜は幼馴染の親友でもある暁斗の捜索は無理だが、手掛かりを、霧咲は自分の父親の手掛かりを、そして旬は黄色いタンポポを探すらしい。


それぞれ目的は違えど、他の人の目的の者や、手掛りを見つけたるよう努力するなど、してこの暑い日をそれだけを考えながら、それぞれが乗り越えようとしていた。


「タ~ンポポ! タ~ンポポ~! どっこにいる~!タ~ンポポ! タ~ンポポ~! どっこにいる~! タンポポさん!」


 それぞれに目的があり、神夜達は暇があればあの日をきっかけに、何か無いかと探していた。その探し物はずっと続き、終わることは無いと思って来ていた。


簡単に言えば諦めと言った方が正しいのかもしれない。


この世界には、まともに話せる者など神夜達しか居なく、退屈で何かしていないと頭がおかしくなりそうなくらい静かで人気が無い。


だからなのかこうして目的をもった神夜達は、その目的にたどり着くまでは、正気で探し続けていられるのかもしれない。


「旬~どこだ~あまり遠くに行くなよ~」


「あっ!」


「どうした旬!」


「見つけた‼ タンポポさん‼」


 神夜はその日いつも通りに、捜索を途中だった。


いつの間にか、旬の姿が無かったのだ。居なくなった旬を神夜と霧咲とで一緒に手分けして探していたのだった。


 本当に神夜は旬が居なくなったと思っていたらしく、必死に探してやっと見つけたのだが、この姿だった。


その場所は、高い草村の中心辺りに広がった花畑で、回りの高い草が隠し、守ってるようにも見えた。


「お兄ちゃん! 見て! 見て! タンポポだよ‼ ほら!」


「お! ほんとだ! タンポ…………」


 全然違う花だった。


神夜は、その時「この花はタンポポじゃない」よとでも、いおうかと思ったが、とっさに言うのをやめてしまった。


なぜなら、こんなに嬉しそうに喜ぶ旬に、タンポポではないことを告げた瞬間、この笑顔は消えてしまい凄く落ち込むのではないか、と思ったからだった。


でもそれは神夜の想い違いであったようだ。それが分かったのは、ある人の言葉によって告げられた。


「あれ~それはタンポポじゃないよ~」


高い草村を掻き分けて、誰かがこっちらにむかっているのが分かった。


それを聞いてしまった旬は、予想通りないてしまうかと思われた。


みるみるうちに表情が涙をこぼす表情に変化していき、顔中にシワが増え、今まさに泣きはじよううとする超然。


だが次の言葉でピタリと無くのを止めてしまった。


「でも、そのお花さんはね。タンポポよりも大きく、タンポポよりも太陽みたいに輝いているのよ!」


「タンポポさんよりも、本当に太陽みたいに輝いてるの⁉」


「そうよ」


「じゃあタンポポさんじゃなくて何て言うの⁉」


「ひまわりよ」


そんな言葉だった。


「ひまわりさんっていうのね! ひまわりさんきれ~だね! お兄ちゃん!」


 まぁ~そんな言葉で、旬の悲しい顔は見なくてすんだ。だが、なぜか、やりきれない気持ちが神夜の中にはあった。


「そして、ここはどこなのかな~神夜く~ん」


 霧咲が来てくれる予想は付いていたが、霧咲がここまで早くに来れるとはと想い、旬の近くに寄った。


霧咲と神夜は正反対の道に進んで、旬を探していたのだが、到着が速い。そう、神夜のモヤモヤした違和感は、このことだったのかもしれない。


「来るのが速かったなぁ霧咲」


「まあね」


神夜は、喜ぶ旬を見ながら、その違和感を覚えたまま何気なく旬の横に付いていた。


「神夜くん、旬くんをこっちに連れてきて! ここにも綺麗な花があるわよ!」


 霧咲は草村の向こうで、そんなことをいい、こちらに出てこようとはしなかった。


神夜はまたもや、違和感を抱く。


単純に何で草村から出てこないのだろうと言う感じだ。


「お姉ちゃん! どこに居るの⁉ どんなお花なの⁉ お花! 見たい‼」


 旬の声に反応して、草村がガサガサと動いた。


やはり何か変だ。


神夜がこの草村に入ってきて、この花畑を見つける間に、花など一厘も咲いては無かったはずだ。


まして、この草の中では、栄養を吸収して咲くなど稀である。


その前に咲く事が出来るのか……。と思考する神夜。


「旬! 行くな! こっちに来てくれ!」


 神夜はそう言うと、周りを異常に警戒し始めた。


そう、神夜は気づいたのだ、これが《罠》だという事に。


「えっ、どうして⁉ 私、見たいよ、お姉ちゃんが見つけ…………‼」


 草村の奥から、何かが出てきて、旬を一瞬にして草村の中へと引きずりこんだ。


「旬⁉」


 一瞬にして旬は草村に消えた。「ガサガサ」と言う音だけが、草村と花畑を不気味に静かに聞こえている。


神夜は、恐る恐るその旬が消えた場所へと歩み寄る。


そして「ガサガサ」という音は静かにやみ、風が静かに吹いた。


「コイツかぁ~霧咲さんが言ってた子供は~……」


「‼」


 誰かの声が突然聞こえた。


だが、姿はどこにも見当たらない。


「ふ~ん。こいつが、シナプスの欠片ね~。こんなの欲しいのかな~。霧咲さんは……」


「さぁ~ね。私には関係ないもの~。それに天然者じゃなくて、人工者なのよ私達……」


「まぁ~よ~。その通りだがよ~。こいつ持っていかないと、怒られるぞ№Ⅲ」


「そうね、あんたの言うと通りね~。だから、さっさと持ち帰りましょう。あいつには悪いけど先に任務達成ねぇ」


 草村の向こうから、何者かが居るらしい。


話している様子からすると、二人居るみたいだ。


性別は男女一人ずつ。


神夜はそんなことを考えていた。


そして、その声は段々と神夜に近づいてくるのが分かった。


「こいつを持ち帰るのはいいけどさ~どうする……」


「これをを持ち帰れば、任務達成なんだから、何やってもいいんじゃない~⁉」


「……」


 神夜は息を飲んだ。


神夜は冷静に考えるのをやめざる終えなかった。


なぜなら、その者たちは恐らく旬を奪い去るのが目的で、今誰か邪魔となる者を殺す話しをしているように聞こえたからだ。


恐らくそれは神夜なのであろう、いや、神夜しか居ないのだ。


神夜はそう思うと顔中に汗がだらだらと出てきて、熱があるのかと言うくらいに、熱くなっていた。


「ガサガサ…………」


音が目の前で止まった。


神夜は頭が真っ白になり逃げることを忘れた。


違う、忘れたのではなく、逃げられないの間違いだった。


「クソッ……体が動かない……」


 ―――俺がビビリなのは知っている。でも、この世界に来てからは少しなれて、このぐらいの事なら動けたはず……なのに……なのにだ……―――。


だが、動けなかった。


神夜は電車の時の恐怖で動けなかったわけではなく、あの時に起きた現象で、脚が消えてた時のような動けなかったにどちらかと言うと近かったのだ。


 それはあろう事に、脚や手だけに限らず。「首」「顔」など、体全てが全く動かないと言う状況であった。


 金縛りにかかったように動けないのだ。


 動けない状態で空の異変にも気づく神夜。


 ―――空が動かない―――。


システム上暑い天気が続きこの仮想世界では珍しい快晴。


入道雲が確認できるが、雲がゆっくりと動いていないのだ……。


その空の雲は止まって見えたし、風の動きも感じない。


 ―――時間が灯っているのか⁉……―――。


そうなのだ、神夜だけではなく、ここの周辺一帯が、全て時間が止まったように感じられた。


「感が良いのね~あんた~その通りよ、時間を止めたの……」


「⁉」


 神夜の心を読んだのか、神夜が考えていたことを言い当てた。


だが、まぐれに過ぎない。


人の心を読むなど出来るはずが無い……。神夜は心の中で思っていた。


「へ~心が読めるはずが無いって思ってるの~これはまぐれだと……いいなってね……。いいこと教えてあげるね~。今彼方が思ってることは正解よ、でも半分不正解~」


「⁉?」


 また、読まれたようだ……。ありえない……そんな事ができるはずないと神夜はそう思いまぐれだと自分を納得させた。


 二人居るうちの一人が、いろいろと喋ってくる。


不思議で疑問に思ってしまったが、うまく何か情報を漏らさないかとひそかに神夜は聞いていた。


「はぁ~だめね~心が読めるのはまぐれだと……まだ思ってるの~⁉ しかも、口が滑って情報を漏らすとでも~……。そんなこと思ってるんだ~つまんないことしか、考えないのかなぁ君は⁉」


 読まれている。


さすがに、ここまで読まれたら、信じないのがおかしいのかもしれない。


なぜなら、ここはデータワールドだからだ。


どんな能力者がいてもおかしくない。


「やっと分かったようだから、少し口を滑らしてあげるわ~……」


 そう言うと草村かから黒衣を着た男女の二人が出てきた。


 先程話していた男女の声の主であろう。


女の方は金髪で両方の端の髪が跳ねている短髪の女だった。目つきが鋭い。


もう一方の男は、左の銀髪右が黒髪の変わった髪の色で、目つきが悪く不良と言う言葉が似合うような男だった。


そして、その出てきた男は、片手で肩には旬を担いでいた。


「ジッ…………‼」


 神夜はとっさに旬! と言おうとしたが、神夜の口すら動いてはくれなかった。


だが、会話する方法はあった。


今、目の前に居る金髪の女の方に心を読ませればいいのだ。


―――おい、聞こえるか……旬を返せ、お前らは何もんなんだ。何で動けないんだ。これもお前らの仕業だろ―――。


「……って、時間をとめてるのは私じゃないわよ。№Ⅳが止めてるのよ~私がこんなつまんないことすると思う~⁉」


神夜には、そんなことはどうでもよかった。


神夜はそう思いながらも必死に心を読んでいる金髪の女に心の中で訴えた。


「うるさいわね~そんなに一辺に、聞かれても、分からないわよ~。教えてあげるから黙りな!」


「おい……№Ⅲ」


「いいじゃない。私達の目的は、これを回収することなんだからさ~。それに私達が知ってるのに、この子が知らないのは、フェアじゃないのよね。それにこっちが一方的なのも面白くないのよね~」


金髪の女はかなり面白くないのが嫌いらしく、そう言うと神夜に色々と話し始めた。


「そう! 私は、公平な立場になることで、相手の心を読めるようになる能力なの! 力がすごすぎなので、中立の立場にならないと能力を使うことができない条件付きだけどね!」


―――まさか……そんな成約があるのか……―――。


「いい、№Ⅳと私は、人口のシナプスで生み出された能力者なの、そして、主に私は心を読む能力を見込んでくれたの。№Ⅳは、時間を操れる能力を持ったのよ、でも、その能力はランダムに一つの生命体に発生す条件での能力なのよ、そして、私達意外にも後数人いるわ」


「バカ! ぶち殺すぞ! 俺の弱点話してんじゃね―よ‼」


「てへ! ごめん! でも公平にならないと、相手の感情を読めないの! 許して!」


(―――こいつら、中が悪いのか⁉―――)


「これぐらい教えといてあげれば、効果継続するかな⁉ これで、中立の立場になれたかな⁉」


 ―――金髪の女の話が、本当だとしたら、後何人もの《ナンバー》がいて、そいつらも今、神夜の目の前にいる《時を操る者》と《心を読む者》見たいな力を持っているってことだ―――。


「何でこれをもらって行くかって⁉ 決まってるじゃない、霧咲さんのご要望だもの、悪いけどこれはもらっていくわよ」


 これじゃなくて旬だ、などと、言いたい所だが、声が出ない。


《心を読む者》が心を読んだのか答えた。


「これは物よ、これは、天然シナプスの力の欠片で元々は命すらなかったのよ。でも、人体化実験が成功して、人間の姿になって逃げ回るから《データ番号》と《刻印》で追尾できるようにしてあるのよ。刻印にはデータチップを内蔵しているわ。まぁ~私達じゃあどれが欠片か分からなかったからね~。これを識別して追尾できるのは仮想世界に住んでいるデータ人間だけなのよ。連絡が来て、こうして見つけられたってわけよ! 霧咲さんは人口シナプスよりも天然シナプスの方が価値あるって話よ……」


 悲しげな表情を浮かべる女。


「おい……さすがに喋りすぎだぞ!」


「いいじゃない~どうせ何も出来やしないんだから」


 神夜は、それを聞くと分かっていたことだが、改めてこの《データワールド》では人間などと言う生き物は、奴らと神夜達くらいだということを、思い知らされた気がした。


―――いや、恐らく奴らは自分たちのことを、人口のシナプスと言っていたから人間ではないのかも……―――。


女の悲しい表情はおそらく自分たち(人工シナプス)よりも、旬(天然シナプス)のほうが「勝ちがある」=「大切にされる」と感じたからであろう。


おそらく自らの創造者を親のように感じているのであろう。


女は投げやりのように、ふてくされたように……自分の愛が足りないという感情を№Ⅳにぶつけているようだった。


 それにしても、旬がシナプスの欠片とは初耳だった。


神夜は動けず、喋れずじまいだったが、一つだけやれることがあった。それは、自分の中に眠るシナプスを起こすことだ。


つまり、この現状をなんとかできるのは自分の中で眠っているシナプスだけなのだ。


神夜は、それだけに今出来る全力を尽くした。


「何なのこいつ⁉ 誰か起こしてるみたいよ№Ⅳ」


「こいつには何も力を感じない。お祈りの呪文だろう~№Ⅲ」


「でも、情報をこんなに教えたんだから、死んでもらわないとね~。と言うわけで殺しちゃいま~す……いいよね!」


 金髪の女は、急に、狂った口調になり、ウインクをしてきた。だが、そのウインクは、とてつもない殺気と一緒に神夜に届いた。


「……」


 女は軽くそういうと、神夜を抹殺するために、こちらへ歩いてくる。


 神夜は必死に起きるのを願って、神夜の中にいるってシナプスに呼びかける。


 先程までの、情報を譲渡してくれていた人格と同じには思えないほど、過激な発言と、男の不良よりも、怖い表情で迫ってくる。。


「そうやって、意味不明な呪文唱えて死になさい‼ 何もできない無能人間‼」


次の瞬間。


心が読める女は、腰に付けていたナイフを取り出して、そのナイフを神夜の腹目掛けて突き刺そうとした。


「‼」


「⁉」


 神夜と心を読める女は、どちらも動かず時が過ぎる。


数秒たった所で、心を読む女は神夜からはなれ一言呟く。


「……あんた‼……一体⁉」


その声には恐怖感が感じられ、言葉の最後になると、恐怖感だけではなく、苦しさと痛みが感じられた。


「あぁ~……いい目覚めだな…………」


「⁉」


 神夜に刺さるはずだったナイフは、刺そうとしてきた女の腹に刺さっていた。


 時間を止めていた男が、時間を止めるのを止めたと思われた。


だがそれは違うようだ。


今の神夜には、時間を止める力は効かないのだ。


そして、女の読む力も効がなくなっていた。


 恐らく人格が変わっている神夜であろう人格が言葉を発した。


「話しによれば、お前らが私の対の欠片を持っていると……聞いたのだが……どこかな⁉」


「……」


「……」


 異能の力を持った二人は、何も答えることなく沈黙を続けている。


 心が読めなくなったのか、さっきの勢いはまるでなくなっていて、時間を止めていた男の方も、不安と焦りの表情に代わっていき、立場がガラリと変わった。


「こたえる気が無いのか……それとも答えたくても、なぜか答えられないのか……どっちだ?」


 そう、神夜の体を借りているシナプスが目覚めたのだ。


シナプスはそれだけを話すと自ら神夜の意識に戻し、自分の意識を神夜の中に戻した。


何かの力からから解放されたかのように、心が読める女と時間を止める事ができる男は口を開いた。


「何だよ今の力は、お前ただの人間じゃないのか……」


 そうだ、神夜はただの人間だ。


「……うっ……心が読めなくなるなんて……何なのよ。こいつは……はぁ……はぁ……」


 さっきの神夜はシナプスのおかげで、時間停止の対象が、一人のため、人格が入れ替わったシナプスは、二人目としてカウントするらしい。それか、シナプスには本当に聞かないのどちらかだ。


実際男の力で動けなくなっている神夜だったが、シナプスに替わって動いた時に男を睨んでプレッシャーをかけたことにより、手出しされないのかもしれない。


その姿だけはまだ恐れられる不気味さを残し他状態で、神夜本人に変化したので、相手を圧倒するポーズと今にも、攻撃を仕掛けてきそうなす獲物を見る目で、神夜は硬直していた。


「チッ……たく、そんな目で見んなよ、分かったから、こいつは置いていくほらよ~これもって帰れそうに無いからな。荷物は置いていくだけさ、近いうちまた来るぜ~」


そう言うと男は、方に担いでいた旬を下ろすと、女の腕を自分の肩に掛けてデータワールドならではの消え方で消えてしまった。


《転送中です》


《転送しました》


「ふぅ~……助かった……」


 神夜は何か曇った顔つきで、地面に倒れ込む旬の姿を凝視していた。


徐に自分の体の中に入っている黒い球体を確認すると安心したのかその場で倒れ込んだ。




   ◇




気づくと、辺りは赤い。


どんな状況なのか、分からずただ神夜は地面に寝転んでいた。


「神夜くん‼ 神夜くん‼ 大丈夫‼」


神夜が目を開けた時。空が見え、その空は赤い夕日空。


神夜の目に次に映ったのは、目に光る水滴をためて、心配そうに神夜を見つめる霧咲だった。霧咲は、神夜が気づいたのを確認すると、誰かを呼んでいるようだった。


「お兄ちゃん……起きた? 大丈夫なの? どこも痛くないの?」


 旬だった。


旬は今にも泣きそうな目で、神夜から少し離れた所で、心配してくれていたらしい。


「うん、元気だよ、ほら!」


と言って、片手を上に上げてもう一つの手で上げた手に乗せ、筋肉のこぶを作り元気をアピールした。元気であることだけは伝えることが出来たようだ。


「……旬……旬のせい? 旬が勝手に離れてここに着ちゃったから、お兄ちゃんは倒れてたの⁉」


 全くその通りかもしれないが、悪いのは別にいる。


だが、そんな事実を正直に言って、女の子を泣かせる興味も無い神夜は、例えそのことが本当だとしても「うん。そうだ」などと、口が裂けても言わないだろう。


「違うよ! 旬は何も悪くないよ、悪くない……悪いのはあいつらだよ」




―――でも、あの時の霧咲は一体……もしかすると、探していたシナプスの対……だったりするんだろうか……―――。




◇◇◇


  

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