第4話 饅頭怖い
大輔は甘味処に溶け込み、お品書きを開いた。
「ここの北海道小豆の餡子、体を温めるんだって。黒糖を使ったお汁粉、どう?」
お汁粉一杯800円!
洋子の顔から血の気が引く。
「も、もっと、その、500円くらいの何かでいいです」
「甘いのは苦手?」
「あまり得意じゃない気がします」
「この前おにぎり持ってきてくれたお礼だから、今日は奢りたいんだ」
「あ、塩饅頭! これでいいです、塩饅頭で」
大輔が少し真面目な顔になる。
「塩饅頭でいい。それとも、塩饅頭がいい。どっち?」
「え?」
「洋子さんは、時々、すごく気を張ってたり、逆に気を遣ったりして疲れてるのかなと思ったんだ。そうでなかったらごめんよ。うちの社長にデリカシーって言った時とか、今の塩饅頭とか。良いとか悪いとかじゃなくて、あ、僕、何を言ってるんだろうね。洋子さんのことにデリカシーなく踏み込んだりして」
甘味処の店員が注文を取りに来たが、何気にスルーしていった。
洋子はうつむいてしまった。
「私、怖いんです」
「怖いって何が」
「大輔さんは変に感じないですか。出勤日以外でもこんな服着てる女……」
「服? そういえば洋子さんの勤め先は自由度が高そうって。違うんですか」
「私、背が低くて、前の会社で『小学生』て呼ばれてました。
だから武装したんです。ワークマンで作業服買って、自分で『DEATH』とか『無双』とか刀の柄とかプリントして、靴は擦り切れたスニーカーかブーツ。鞄は男物。帽子はキャップ。
いっそ男に生まれたかったです。男なら武装しなくていいでしょ」
「男も武装するよ。アイテムはいろいろあるけど、やり過ぎてしんどかったから、僕は止めた。洋子さん、しんどいですか」
「分からない、分からなくなっちゃった。辛いものばかり食べてたから」
大輔はうつむいた洋子の頭をキャップの上から撫でた。
「辛いのもいいし、甘いのもいいと思う。今日は塩饅頭じゃなくて、ゆっくりお汁粉を食べようよ。社長が残業手当を出してくれた。お祝いしてくれる?」
お汁粉はとんでもなく美味だった。
「こんな味あるんだ」
洋子の武装服が無意味なくらい、彼女は緩んだ笑顔で大輔に顔を向けた。
「しあわせ~……です!!」
大輔も微笑む。
「なによりです。
『優しいのは大輔だ、彼が立派な大人に見える。私は優しくなかった昭和の人に抵抗してばかりいる』
商店街を駅に戻りながら、洋子は服のリサイクルショップに目をやる。ユニクロの白のレーヨンブラウスが500円。立襟でさらりと着心地は良さそうだ。
「これ、買います」
大輔が訪ねた。
「プリントするの?」
「いえ、そのまま着てみたくて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます