ゲームの氷雪系ラスボスに転生したけど、平和に生きていこうと思う ~氷雪魔法でひんやりスローライフ目指します!~
純クロン@『努力家な転生第六王子』発売中
第1話 ラスボス転生
洞窟の中でふと気づいた。
俺が『ドラゴン・ブレイド』というゲーム作品の、ビエルというラスボスに転生していることに。
ドラゴン・ブレイドは王道ファンタジーRPGだ。勇者が魔王を倒す作品である。
ビエルはゲーム本編において世界を滅ぼしかける魔王だ。
そんな魔王に対抗するために、主人公である勇者が冒険の旅に出て、長く苦しい戦いの末に魔王を倒す。
そんなゲーム世界に転生など最高じゃないか。
問題は俺が倒される魔王役なことくらいか。大問題じゃねーか。
魔王なんて嫌だよ。こちとら日本じゃしがないサラリーマンだったんだぞ。
魔王になるより宝くじ三億円当てて、田舎に家を買って暮らしたい……。
なんでよりによってラスボス魔王に転生したんだ。
出来れば物語に関わらないけど、幸せに暮らせるモブあたりがよかった。
「ビエルよ! 今こそ我らの本懐を遂げる時ぞ! 優れた者が虐げられ、呪われる世界など不要だ! これを飲んで人をやめて、世界を滅ぼすのじゃあああああ!!!!」
目の前にいるお婆さんが叫んできて、俺に煮えたぎる紫色の液体入りのコップを差し出してくる。
このお婆さんも知っている。ゲームでの魔王軍参謀にして、悪神とやらの教徒だった。
確かこれを飲んでビエルは人から魔王となり、世界を滅ぼすことになっていく。
そして目の前のお婆さんはその片棒を担ぐのだ。ようは悪者である。
俺はこいつとビエルは大嫌いだった。
こいつら二人のせいで主人公の仲間が死んだりするからな。
当然だが俺は魔王にはなりたくない。誰が好んで歴史に名を残す大量殺人者になりたいと言うのか。
それにビエルが魔王になることで世界中の人が不幸になる。
魔王軍も魔王軍四天王もなにもかも、全てはビエルとこの婆さんから始まることだ。つまり諸悪の根源。
だがあの薬? を飲まなければ、ゲーム本編が始まらず困ったことに……いやならないのでは?
魔王が生まれず勇者も目覚めず、世界はずっと平和でした。
素晴らしいことでは?
つまり俺がこれを飲まなければ世界は救われるのだ。
なら悩む必要はない。諸悪の王を倒すのは善だ。そして善は急げである。
そういうわけで俺はコップを受け取ると、
「さあ! 一気に飲み干せっ! そして私たちを理不尽な目に合わせた世界を……」
「我が氷結よ、時をも凍てつかせろ。
俺はビエルの切り札の魔法。時を止めるクソ魔法である
すると周囲が肌寒くなって、目の前のお婆さんはピタリと動かなくなる。
彼女の周囲の時を止めたのだ。
なんか魔法使えそうな感覚があったから、使ってみたら本当に発動したな。凄い。
ちなみにこの魔法はゲームでもクソ魔法だった。パーティー全員を2ターン行動不能とかいう初見殺し過ぎる魔法。
幸いにも使うタイミングが固定されているので対策できたけどな。
もしランダムで使ってこられたら勝ち目がない。
「よし。じゃあ毒見して頂こうかな」
そして俺は受け取ったコップの中身を、固まってる婆さんの口に流しこんであげた。
自分で作ったのだからまずは自分で飲むべきだ。
まさか自分で飲めないような得体の知れないモノを、他人に飲ませようとなんてしないだろう。
この婆は嫌いなキャラだし世界を滅ぼすような奴だ。痛い目を見ればいいと思う。
しばらく待っていると
「滅ぼがぼ、んほおおおおお!?」
口に入っていた液体によってむせてしまったようだ。
すると婆さんの身体が透けていく。
「あ、ああ……か、身体が消えていくぅぅぅ!? 私にしかこの薬は作れぬのにっ! 魔王が世界に生まれなければ! 世界は、緩やかな偽りの平和が続くではないかっ!」
まじかよ。俺が魔王にならないだけでノーベル平和賞じゃん。
「何故だビエル!? 世界を、ともに滅ぼそうと約束……」
そうして婆さんは消えていった。
彼女の言葉を信じるならもう魔王は生まれないのだろう。
つまりこの世界は平和なハッピーエンドで終わりということだ。
素晴らしいじゃないか、平和。
「……ところでどうするかな。これから」
俺がビエルに転生したのは間違いない。
「
試しに他の氷魔法も唱えてみると、俺の目の前に二メートルほどの氷の壁が出現する。
魔法を反射する氷壁で、鏡のように俺の姿が映された。
中肉中背。冬国の人が着るようなコートを纏って、綺麗な銀髪を腰まで伸ばしていて少し目力が強い男。
うん、やはりビエルの見た目そのままだ。ゲーム本編だと魔王なので頭にツノがついていたが。
「しかし本当にビエルになったとはなあ……」
俺はビエルの身体を乗っ取ってしまったことになるのか。
それは悪いことをした、と普通なら思うだろう。
だが幸いなこと(?)にビエルは世界を滅ぼそうとする魔王だ。
地球で言うならヒ〇ラーみたいなものだし別にいいか!
不幸になったのは悪の枢軸であるビエルと邪教徒婆さんだけだもの。
さてどうしようか。とりあえずこの陰気臭い洞窟から出るか。
はー。しかしなんでよりによって魔王に転生するかな。
俺には英雄願望なんてない。望むなら静かで平穏な生活くらいの凡人だというのに。
そして洞窟の外が見えて来たのだが、顔に冷たい風が当たった。
「……まじかー」
外は冬国のように一面が雪で真っ白だった。
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