男だと思ってた昔の友達が女だった
ジョク・カノサ
第1話 ナツメ
今でもたまに夢に見る。遊具が少なく対して広くも無い公園で、朝から夕方まで遊び呆けたあの記憶を。
「タカ君こっち!」
「あー! 何やってんだよバカヒロ!」
「タカヒロー!」
「……タカヒロ」
四人の友達が俺の名前を呼ぶ。無邪気で遠い、いつかの思い出。
でも、そんな思い出も。
「絶対……絶対! また会おうね!」
最後には別れで終わってしまうんだ。
☆
高校一年、春。この時期は長い人生の中でも特に大事な時期だろう。
互いに見知らぬ状態のクラスメイトといかに上手くコミュニケーションを取るか。それによってこれからの高校生活がどうなるのかが決まる。
分かっていた。分かっていた筈なのに。
「……」
登校七日目の昼休み。俺は自席でたった一人、親から持たされた弁当を口に運んでいた。
「そんでさー、そん時高木がさー」
「えっぐ、アホやん!」
「お、先輩らも来るって」
窓側で坊主の集団がやたらと親しげに話している。
野球部志望なんだろうけどさ、早くないか? まだ部活動始まってないだろ。元から仲良かったのか?
「えーほんまに?」
「マジマジ。ウチの中学ヤバいヤツばっかだったから。特に体育の岡崎がマジでヤバくて」
「あれ、そーいや俺亜美とメッセ交換してなくね? 今しようぜ」
「いーよー」
教室の中心部でいかにもな集団が緩い雰囲気で話している。見事に美男美女、というか分かりやすくアッチ側な感じだ。
もう何年も前から、あんな感じで駄弁ってるんじゃないかとさえ思えてしまう程のしっくり感がある。
「今週のジャンプが!」
「昨日のアニメが!!」
「同人が!!!」
隅の方に固まってるのは多分オタクな集団。共通の趣味があるってのは本当に強いんだろうな。
アニメと同人は分かんないけどさ、ジャンプは分かるよ。アレの最終回、よかったよな。
──以上が花塚高校一年一組、昼休みの教室の大まかな様子。
後は小規模のグループが何個か。お茶で喉を潤しながら、誰に言うでもなく心の中で俺はそう呟く。
……今の状況を端的に言えば俺、
「ごちそうさまでした」
高校デビューに失敗した。
☆
小学校では人間関係について考えた事はあるタイミングを除けば基本は無かった。クソガキ同士遊んでたらいつの間に友達になってたってのが日常だった。
中学校では流石に考え始めた。子供ながらの無鉄砲さが日に日に消えていったのもあって、友達と知り合いって分類がいつの間にか出来てた気がする。
それでも小学校からの付き合いのヤツは大勢いたし、その延長線上で何となく人間関係ってのは出来てた。
だけど高校は違う。周囲の環境がガラッと変わる。今まで通りのなあなあじゃ浅い繋がりしか作れない。受け身じゃダメだ。自分から行くんだ。
そう、分かってたつもりなのに。
☆
「様子見とか言ってチキってたのが敗因だよな……」
スマホを弄りながら一人呟く。それが無性に情けなく、惨めに感じてしまう。
今のところ特に入りたい部活は無い。部活動で交友関係を作れないとなると、このまま行けば少なくとも一年間は今の状態のまま。
授業を受けて、一人で休みを過ごして、一人で家に帰る。そんな高校生活。
「……いや、そんなのはゴメンだ」
昼休みはまだ続いている。俺はスマホの画面を消した。
現状、話に入っていけそうなのはオタクっぽいあのグループだろ。俺だって漫画ならそこそこ読んでる。それを取っ掛かりにまずは一人でも友達を作るんだ。
友達。俺はそれが欲しい。友達か恋人なら恋人を選ぶなんて言ってたヤツが昔居たけど、俺はそうは思わない。何よりもまずは友達が欲しい。
そうして、意を決して席から立ちあがろうした時、教室の扉がゆっくりと開く。
──自然と、視線がそこへと向かっていた。俺だけじゃなく、教室全体が一瞬止まったように感じた。
多分しっかりと手入れがされているんだろう長い黒髪と、すらりと伸びた身体と手足。テレビや広告で見るようなモデルを生で見たような気持ちだった。
そんな女子は教室内で起きた一瞬の間を意にも介さず、きょろきょろと周囲を見回す。
友達か、仲の良いグループか。多分雰囲気的に真ん中のグループだろ。そう決めつけた俺は立ち上がり、当初の予定通り目的としていたグループの方へと向かおうとする。
今ならこの女子を話題にすれば話に入りやすいかも。そんな打算が頭によぎり、もう一度あの女子に目をやると、視線が合った。
いや、合ったどころじゃない。明確にこっちを見ている。
二年か三年の先輩と言われても違和感の無い、大人びた顔付きを無邪気に歪ませ、スタスタと俺の方へと歩いてくる。
──まさか、俺?
「久しぶりだね」
俺の目の前に立ち止まり、まさしく俺に向かってそんな言葉を言い放つ。周囲の視線が俺にも向いてるのが嫌でも伝わってきて、居心地が悪い。
久しぶり? てことは顔見知りか? でも全く覚えが無い。久しぶりと言われる関係性で、これくらい目立つヤツなら普通だったら覚えてる。
「いや、申し訳ないんだけど……誰?」
俺が昔の知り合いに声をかけて、そう返されたらまあまあヘコむ。そんな返しに、目の前の女子は更に笑みを深くした。
「酷いなあ……タカ君?」
腰を折り、顔を少し突き出しながら謎の女子は自分の左目の目元を指し示した。そこにはいわゆる泣きボクロがある。
タカ君という呼び方。そしてこのホクロ。相手が体勢を変えた事で縮まった距離感を意識する前に、俺は遠い昔の記憶に辿り着いた。
「まさか……ナツメか!?」
衝撃が声に篭る。そんな俺の様子を見て謎の女子──俺の記憶では男子だった筈のナツメは、悪戯が成功した子供のように舌を出した。
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