第32話
「あはははは♪ リーナお姉ちゃん、スッポンとスッポンポンは全然違うよー」
「えええ!? でもワタシに教えてくれた人はそう言ってたよ!?」
「となると、その人も間違えて覚えてたか、わざとそう教えたかだな」
「裸とスッポンにスッポンポンをかけてる辺りからして、後者の可能性が高そうだねぇ……」
「ですね。もしかしたら私のようにスッポンの突き合いと誤解して、道晃くんと佐倉崎くんがすっぽ――」
「佳代ちゃん。それ以上はライン越えすぎ」
「は!? ご、ごめんなさい。なんでもないです……」
赤くなった顔をぶくぶく沈めてゆく委員長が一体何を言いたかったかは彼氏しか分からんが、リーナの面白日本語は毎回愉快なのが多くて場が盛り上がるなぁ。
当の本人はかなり恥ずかしそうだけど。
「うぅ……また間違いが発覚したよ」
「それでもリーナの日本語力は全然困らない程に高いけどな。そういやどうやって日本語を覚えたんだ? アニメや漫画だけで独学?」
「それもあるけど、やっぱり師匠とおばあちゃんのおかげだよー」
「師匠とおばあちゃん? 日本語の師匠にあたるおばあちゃんではなく?」
「うん、師匠とおばあちゃんは別の人だよ。師匠は日本文化を詳しく教えてくれた人で、おばあちゃんはワタシの祖母だから」
身近に日本語が上手な北欧人が二人いたってわけか。
そりゃ珍しい。
「さっきのすっぽんはどちらに教わったんですか?」
「むー、師匠だよぉ。今度会ったら問いたださないと!」
「茶目っ気がある人なのかな? 詳しく教えてくれた日本文化って食べ物や生活習慣とか?」
「もちろんアニメ漫画ゲームについてダー♪」
「なんだろう。リーナがこうなった原因が垣間見えた気がするな」
「予感がするよ。きっとその人は僕と話が合うね!」
同感だ。
おそらくリーナの趣味嗜好を育んだのはその人になるのだろう。
正に文字通りの師匠なわけだ。
「ごめんね和頼~。また変な日本語を使っちゃって」
「気にするな。もっと変なタイミングで使うよりマシだろ」
「……なんでゆっくり離れてくの?」
「気にするな」
「ふーん…………えいっ」
「うお!?」
「なんで避けるの♪」
「お前がくっついてくるからだよ!」
危ない危ない。
至って自然にまったり話しているこの場ではあるが、その胸の内では色々複雑なのだ。
確かに道晃もいるよ?
けど、忘れてはならない。オレの傍では誰もが見惚れてしまう北欧美少女とクラスメイトの委員長が水着姿でいるんだぞ(※姫奈は対象外)。
誰も突っ込まないからそのままになってるが、健全な青少年としてはこんなにひどい状況は早々ない。万が一クラスの男子に知られたら嫉妬で埋められかねん。
その上でさっきはワールドクラスの胸を備えたリーナがひっつこうとしてきたわけだよ。
そりゃ遠ざかるし避けもするだろ!
本能に抗えなくなったらどーすんだよおい!!
「和頼、顔赤いよ? ハッ!? もしかして湯あたりなんじゃ!! 大変、早く温泉からあがって冷やさないと!」
「湯あたりじゃないからだいじょ――待て待て、腕を掴んで引っ張るんじゃない今のオレに近づくなぁ!?」
「ほっほー、この場面で『暴走しそうな力を必死に抑えようとしてる』台詞とはやるじゃないか和頼」
オレの心境を理解してるアホイケメン。
もとい、ニヤニヤ顔の道晃にレスキューする気は無いようだ。
「これは私達の同士になる日も近そうですね。楽しみです」
「おにぃもオタクの仲間入りか~。じゃあこれからはもっと皆と仲良くなるね」
「なーんーでー抵抗するのーーーーー!」
「いーいーかーらー放っておけーーーーー!!」
ぐいぐい引っ張るリーナ。
抵抗するオレ。
その様相は綱引きの如しか。
だが、純粋なパワーで男のオレが負けるはずもない。
この綱引きは圧倒的にオレが優位である。
そうタカをくくっていたら。
「あっ」
「い?」
リーナの力がいきなり弱まり、飛び込むようにオレへと向かってくる。
どうやら足を滑らせたらしい。
「うえおっとぉ!?」
打ち所が悪いとお互いに痛い思いをしかねない。
オレは反射的に、リーナを受け止めた。
瞬間、どうしようもなく柔らかくて大きなモノの感触があったがこの時は背中から着水する際の受け身に必死で煩悩に塗れずに済んだ。
「ぶくぶくぶく…………ぶはぁ! 大丈夫かリーナ!?」
「ぷはぁ! わあぉ~、びっくりしたよー」
「びっくりしたのはコッチだっつーの! ……どこもぶつけてないか?」
「うん、大丈夫♪ 和頼のおかげでノーダメージだから!」
「そうか、それならいい――――」
言いかけて、ハッとした。
今のオレ、しっかりがっしりとリーナと密着してる。
「ほっほおー」
「公共の場で見せつけるとは……やりますね和頼さん」
「おにぃ、やっるー♪」
冷やかし度百パーセントの連中からすれば、さぞオレがリーナに対して熱烈なハグをしてるように見えてるのだろう。
そう思ったのと同時に、事故とはいえ強制的に触れあってしまったリーナのやわっこさによるダイレクトアタックの感触を自覚してしまい……。
「…………」
オレは急ぎ、リーナの身体を離した。
なるべく触れる部分が少ないよう肩に手を置いて距離を空けたのだが、それでも離れた際にでっかい双丘が揺れるのが目に入ってしまう。
「ぐぉっ」
こんなん誰でも呻くわ。
じゃなきゃだらしない声でも出てるだろうて。
「か、和頼? さっきより顔が赤くなってるよ? どこか痛い痛いした??」
「大丈夫だリーナ。ヨーシ、ソロソロ別ノ温泉ニ行クカー」
問題ない。
頼むから、そういうことにしといてくれ。
なんともいえない場の空気から逃げるようにしながらも、味わってしまった生々しい感触を忘れるのも難しい。そんなオレに残された道は、強引に別の温泉へと移動していく事だけであった。
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