第15話
「『放課後。自分の教室、自分の席で、スキな人と二人だけの時間を過ごす!』だよ。こういうの青春ぽくてエモいから!」
喜びの感情が詰まった言葉に、またもや驚かされる。
スキな人と二人だけの時間をって、その、なんだ。リーナにとってオレはそう言う相手として見られているっつーのかと。
もしそうだとしたら、表現の仕方が大胆かつストレートすぎやしないか。やばい、心臓がうるさい。
「ど、どれも……オレ以外の誰かが達成してくれた、んじゃないかね」
半分無意識に動揺を隠そうとして声が詰まる。
なんだこれ。どうしてオレはこんな態度を取ってしまっているのか。落ち着け、外国たる北欧の女の子からすればコレぐらいの発言は日常茶飯事の大したことない物かもしれない。
うん、多分そうだ。日本人は奥ゆかしいが、外国人は情熱的かつストレートに気持ちを伝えるのが多いって何かで聞いたことあるし。
頭の中でものすごい早口をするようにあーだこーだ思考していく。
だが、それもリーナが次の言葉が発せられるまでだった。
「だとしても、この場に居てくれたのは和頼でしょ。だから、えっと」
「……」
「キートス。和頼♪」
キートス。
リーナの故郷で使う、ありがとうの言葉。
えへへ~と、いつもより割り増しで蕩けそうな笑顔を向けられてひどく戸惑う。
同時に、その純粋でキラキラな感謝は――くすくすしているオレの心に熱を分けてくれた。
冷たく渇きそうな心の炉に、火が灯ったような気がしたのだ。
オレがずっと求めていて、でも見つけられなかった。
キラキラの欠片。
情熱という名の燈火(ともしび)が。
「……ありがとな、リーナ」
「ふぇ?」
「上手く言えないけど、すっげえ嬉しい」
「うん♪ ワタシもやりたい事が出来て、とっても嬉しい――よ♪」
「!?」
席から勢いよく立ちあがったリーナが、隣の机に座っていたオレに突撃――もといハグという名の抱き着きをかましてくる。
同年代女子、しかもとびっきりの北欧美少女からこうも躊躇なく抱きしめられるなんて事態は思春期男子には異性の身体の柔らかさや不思議と香るいい匂いやらを初めとした様々な理由で刺激が強いにも程があり、特にリーナに至っては立派にすぎる胸部が否応なく接触するハメになるため、これまた尋常ではない根性と忍耐力が要求され――――。
などと理性的っぽい思考が高速駆け巡ってはいたものの、その裏では。
『この心地よさ、最高かよ!!』
男の本能的な部分が叫んでいる。
……欲望に負けなかったオレを、誰か褒めてほしい。
「リーナ、その、なんだ」
「こういう時はしっかりハグするのが礼儀だよ和頼。距離のあるハグは良い挨拶にならないから」
そう言われてしまったので、ひとまず軽くハグをし返すしかない。
決して、けっっっして『マジで!? すごいぞ異国文化!!』なんて考えてはいないのだ。
「そうそう、もっとぎゅ~~~っとしていいよ。男の人同士だと、お互いの肩を強く叩いたりもするの」
「そうか、教えてくれてありがとうリーナ」
でもな?
「日本だと、こういう挨拶は馴染みがない――というか、しないんだ。特に学校の教室なんかでやるとな、あー……罰が悪いみたいな?」
「え!? 日本学校ではハグすると罪に問われるの?!」
「そうじゃない。罪にはならない。ただ、あんまり良くはない……」
「ご、ごめんね! そうだとは知らなかったから!」
リーナが慌てて身体を離す。
かくいうオレは説明しといてなんだが、未練たっぷりだった。
「はぁ~……日本学校の教室だと多少ムラムラする事してても、割とフツーなのにハグはよろしくないんだね。残念……」
「ちょっと待った、今なんつった?」
ストレートを飛び越えて、卑猥領域に踏み入るような単語が出たぞ。
「ハグはダメだけど、ムラムラするのはOKなんでしょ」
「…………一応確認するが、ムラムラってどんな意味で使ってる?」
「あー、馬鹿にしてるでしょ? それぐらい分かるよ。ムラムラって言うのは、要するにロマンチックな事だよ!」
「全然ちがっ――……いや、そうでもない……のか?」
わからん。
だが、完全否定はできずとも『多分ニュアンスが結構違う』感がありすぎるのも事実だ。
「和頼もムラムラした?」
「止せ。万が一誰かに聞かれでもしたら、オレがエライことになる」
「誰かに聞かれると和頼が偉くなれるんだったら、誰か呼んでこよ!」
「そうじゃない、その偉いじゃないんだリーナ。ええいどう言えば伝わるんだこれは!」
こんなタイミングで日本語の難しさを味わうことになるとは。
それから下校中になんとか誤解を解いたものの。
「ムラムラはエロティックな意味!?」
誰かに訊かれたら恥ずかしすぎるか、セクハラ扱いで怒られそうな説明は避けられ無かった。理解はしたものの、リーナは文化の違いをしっかり味わっているようで……。
「わ、わぁ…………」
隠そうとしても隠せない程に、顔を赤くしていた。
お互い、なんともまあ珍妙っぷりが際立つ様子である。
そんな状態だったものだから、オレから彼女に大事な決断を伝えられたのは家に着く直前だった。
「なあ、リーナ」
「な―に?」
「その、リーナが良ければなんだけどな」
くすくすした悩みを打ち明け、キラキラした回答をもらう。
それで少しだけ思い出せた事がある。
恩師のサンタと一緒にいたお手伝い妖精トントゥについてだ。
トントゥは、人が幸せに暮らす手助けをこっそりしてくれる優しい小人。人間が大好きなトントゥは困ったときには助けてくれる存在。
寡黙で静かな口数少ない小人だったし、一緒にいた時間は短かった。けれど確かに仲良くなれた相手だった。
あの日のトントゥは、オレにとって間違いなくキラキラしていた。そのお手伝いに救われ、憧れた。目の前にいるリーナと同じといっていい。
――ソレが理由かは、わからないが。
――無性にトントゥのようになれたらと思ってしまったのだ。
だから。
急な話に断られても不思議は無かったが、小さく灯った情熱の火を更に強くするために言い切る。
「オレに……お前のジョーネツレフティオを達成する、その手伝いをさせて欲しいんだ」
――――この瞬間が、くすくすに停滞していたオレがようやく踏み出せた一歩。要約、自分だけのキラキラと情熱を得る道へ足を踏み入れた時間となった。
◆情熱レフティオ・いくつかの達成項目◆
☑入学式を見学する
☑始業式に出る
☑クラスメイトに明るく楽しい挨拶をする
☑日本の学校を見て回る ← (※継続中)
☑情熱レフティオの協力者を得る ←(※和頼が申し出てくれて嬉しい)
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