第5話
オレは大してアニメや漫画に詳しい方ではない。
そういうのが大好きな友人が近くにいるので全く知らないわけじゃないが、それでも読んだ作品は大流行した名作ばかりだろう。
そんなオレであっても、明らかに異色すぎるジャンルのグッズだと分かるようなものが出るわ出るわ、もう大量に。以前友人から得ただけの拙い知識によれば、これは等身大ポスターとタペストリー、こっちがアクリルスタンド。ぬいぐるみにストラップ、キャラTシャツにタオル等々。
これがもしイケメンキャラが描かれたグッズだったのであれば、いわゆる女性向けか無類の男性アイドル好きとして納得できた可能性もあったろう。ムー●ンならさすが北欧で済む。
だが、目の前にあるのは制服姿の美少女やら露出の激しい格好をしてる女の子が描かれたグッズばかりで数の多さが違いすぎる。
絶対多い! それはもう割合でいえば8対2、いや9対1くらいでムー●ンが負けてる!
そんな代物を目の当たりにしたオレがどう考えたか。
簡単だ。
「おいおいリーナ。こっちの箱なんだが、どうやら送り間違えみたいだぞお」
北欧からきた外国人美少女とそれらのグッズが結びつかず、手違いだと判断したのだ。
「な、何だってえ!?」
オレの発言を耳にしたリーナが大慌てで取り出されたグッズ類を確認する。
それはもう「そんなバカな?!」と叫びそうな勢いだった彼女だったが、一通り確認し終わった頃にはすっかり安堵の表情を浮かべていた。
「もー、びっくりさせないでよ和頼。てっきり他の人の荷物と間違えて届いてしまったものかと……」
「え? だから手違いだろ。それ」
「のんのん。正真正銘、まごうことなく、コレはワタシの荷物ですよ」
そうあっさり言いのけられた時の衝撃と来たら、とんでもなくデカイ稲妻がピシャーン!! と落ちたようなもんだった。
「マジで?」
「ええ」
「これがリーナの私物?」
「はい♪ 勿論ワタシのです、さっきからそう言ってるじゃないですか」
「こういうのが好きなのか」
「好き好き、大好きですよ! 日本風に言うなら、ラブラブ愛してるといっても過言ではありませんし、大体そんな言葉じゃ足りません!!」
「お、おぉぉ……」
力強過ぎる断言に、ちょっとだけくらっとする。
目の前にいるホームステイ美少女の趣味嗜好が、この手のが大好きな男友達のソレと被っているとは。
会わせてみれば、さぞ話が弾むんじゃないだろうか。
「和頼はどんなアニメが好き? もしかしなくて、こういうのがお好きだったりするのでわ!」
「いや、知り合いに好きなヤツはいるが、オレ自身はそうでもない」
嫌いなわけでもないが。あえて表現するなら一般レベルだろう。
ディープな方になると途端に分からない。
「じゃ、じゃあ! この作品を知らないの!? 日本が誇る最高のアニメーションズの中でもとびっきり面白い感動超大作なのに!!」
「……すまん、オレは観てないな。そんなに有名なのか?」
「ゆ、有名だよお! ……あ、あれ? 有名……だよね? 全米が泣いたにちなんで全日が泣いたと称されるレベルのはずじゃ」
マジか。すげえなそれ。
となるとやっぱりオレが知らないだけなのかもしれん。
「もしかして持ってきたグッズも全部その作品関連の?」
「ううん、さすがに全部ではないよ」
「だよなぁ」
「だって全部なんて到底揃えきれないし。好きな作品は一個だけなんてありえないから。これでもなるべく厳選したんだよ?」
なんというガチっぷりが伝わる素敵なお言葉か。
「……はっ!? もしかして和頼ってば、オタク死すべし慈悲は無いとか無情すぎる言葉を言い放つ前時代的な輩かな!!? だとしたらワタシとあなたが相容れることは未来永劫訪れないかもしれないね?!」
「安心してくれ、少なくともそんな意味わからん暴言を吐いた記憶はない」
「じゃ、じゃあ……あんまり好きじゃないとか……?」
不安げな様子のリーナの問いかけ。
その答えは、すんなり口から出ていく。
「好きとか嫌いっていうより」
「より?」
「ひどくうらやましい……ってのが一番だな」
「ほえ……? それってどういう――」
「とにかく、オタクが嫌いとかそんなんじゃないって話だ。だから変に気にしなくて大丈夫」
さすがにリーナの部屋一面にこれらのグッズが飾ってあるのを目撃したら、見慣れない光景に一瞬ビビリはするかもしれんが。
「あ、あの……それじゃあひとつお願いをしてもいいかな?」
「飾る手伝いでもするか?」
そんな安易な予想は、
「ちょっとだけ一緒に観よ♪!!」
これまた見事に裏切られた。
けれど、そこには自身にはないキラキラと情熱がある。
そう感じ取ったオレは――。
「ま、少しなら休憩を挟んでもいいか」
自分でも驚くような速さで、リーナのお願いに応えていた。
どうせならと大型テレビのあるリビングに移動して、リーナ持参のブルーレイを再生する。
モノローグと共に制服姿の可愛い少女とカッコイイ少年が登校してるらしきシーンが始まった。絵柄からして男性向けで、ブルーレイボックス内に描かれたイラストを見る限りでは幾人もの美少女が登場するようだ。
プロローグが終わり、オープニングの歌が流れた始めた時に大きく表示されたタイトルには、やはり見覚えが無い。
それもそのはずで――。
「これ、大分前の作品なのか」
「年代的にはワタシ達がベイビーだった頃だからね。ああ~でもでも、このオープニングだけとっても最新作品に劣らないクオリティがあるよ~♪」
「そんなにか」
「端的かつ日本風に述べるなら『神』アニメです!!」
拳を握りしめながら力強く言い切るリーナの瞳は、何一つ疑う余地のない輝きに満ちていた。こ、こいつ……心の底から尊敬と憧憬と賛美が入り混じった目をしているぞ。
おそらくは本来のターゲット層とは大きく異なるであろう北欧出身の彼女をそこまで惹きつけるナニカが、この作品にはあったというわけか。
俄然内容が気になってきたじゃないか。
「なあ、コレってどんな内容なんだ?」
「はあああ!?」
何気ない質問をしたオレに対して、リーナが「何とんでもない事口走っとるんかワレェ!!」と言いたげな驚愕ッ面を向けてくる。
「なんて無粋な質問をするんだよ和頼は! そんなの応えられるわけないでしょ!!」
「そ、そうなのか?」
「当たり前ダーーーーー!! どんな作品だろうと初めて触れる機会は記憶喪失にでもならない限り人生で一回しかないのに!! その最も大切な瞬間を、和頼は棒に振ろうとしたんダヨ!!?」
リーナの語尾が割増しで奇妙になる程に高速でまくし立てられて超焦る。
お、オレは知らない内に彼女にそこまで怒られるような事をしてしまったというのか。
「余計な情報はいらない先入観を植え付けかねないよ! だから、今は姿勢と心を正して観るの、それが最適解ダカラ!!!」
「……お前、よく周りから人が変わるって言われる?」
ついさっきまでオレがリーナに持っていた印象は『明るく元気で茶目っ気のある外国人美少女』だった。しかし、今横にいる彼女から感じたのは『自分の好きな物が関わると大変情熱的(※大分言葉を選んだ)になるスーパーオタク』である。
「別にそこまでは言われません。皆こんなものだよ」
「少なくともその『皆』にオレは含まれてないようだな」
やべー!? リーナの出身地はこういう熱すぎるタイプばっかりなのだろうか。それともリーナが標準レベルで他はもっと激しく熱いのか? どっちにしてもすげえな外国。やっぱ日本とは大違いだわ。
「とにかく! このアニメは各々に大きな悩みを抱えた少年少女達が織りなすたった一度の青春と大きな感動と決して短くない泣けちゃう人生のお話なんだよ!! 最初は深く考えず、その心で感じ取って!!」
「その感じとるべき概要を教えてくれてるようだが、先入観はいいのか?」
「……ノォーーーーーーーーー!!?」
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