僕は今日も彼女のために昼寝をする

津多 時ロウ

「もーいーかい」

「まーだだよ」

「もーいーかい」

「まーだだよ」

 明るい公園に、子供たちの無垢な声が響く。

 僕は太い幹の裏にいて、顔だけを覗かせ、鬼の女の子を見ていた。


 ――これは夢だ。

 ここ半年くらい、昼寝をしたときに高い確率で見る夢だ。

 僕は夢の中でずっと子供で、隠れてじっと彼女を見ているのだ。

 やがて誰かが「もーいーよ」と言うと、彼女は嬉しそうに振り向いて、光の中へ駆け出していく。

 その顔は、見えない。

 見覚えがあるはずのその顔は、見えているはずなのに認識されない。

 それでも僕は、どこか楽しい気持ちで夢から覚め、そして意識はオフィスに戻る。

 仕事が終わると、僕は一人、つぶやいた。

「もーいーかい、まーだだよ」

 今日も僕は妻と顔を合わせぬよう、外でご飯をゆっくり食べて、冷え切った家に無言で帰る。

 それが、僕の日常だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る