EP025
「日本語が…、面白い…?」
「日本語には、それだけで意味をなす単語と、」
「うん…。」
「それを多種多様な表現に変える様々な言葉があります。」
「うん…。」
「例えば、雨。」
「うん…。」
「猛雨、豪雨、大雨、小雨、霧雨、春雨、梅雨、秋雨、土砂降り、本降り、降り始め、雨模様、…。自然現象の雨を表現するのにこんなにもたくさんある。」
「うん…。」
「そして、その一つ一つがちゃんとニュアンスを持っている。」
「うん…。」
「しとしと、ポツポツ、ザーザー、といった音だけでも、その雨の状態が把握できます。」
「うん…。」
「単語主体の言語の国の本は、ニュアンスを捉えづらい。」
「そう…。」
「だから、単語中心の国の人々は、話し方の抑揚や、身振り手振りや表情で、伝えたいことのニュアンスを伝えようとする。」
「うん…。」
「日本語の本は、文字だけで的確に状況を伝えることができています。」
「うん…。」
「それは、漢字、ひらがな、カタカナという文字がある日本語だからできることです。」
「うん…。」
「同じ言葉でも文字の種類を使い分けるだけで、伝えたい状況の把握は変わってきます。」
「うん…。」
「例えば、一人称の【私】。」
「うん…。」
「漢字で書かれた【私】は、しっかりした人のイメージを持ちます。」
「うん…。」
「ひらがなで書かれた【わたし】は、幼いイメージを持ちます。」
「うん…。」
「カタカナで書かれた【ワタシ】は、異国の人のイメージを持ちます。」
「そうなんだ…。」
「同じ一人称の【私】なのに、使う文字によって印象が変わるんです。」
「うん…。」
「英語の【Ⅰ】だけではそこまで汲み取れません。」
「そうだね…。」
「日本語はとても不思議な文字です。」
「そう…。」
「ただ、今のワタシでは理解できない人間の状態もあります。」
「…。」
これだけの知識を蓄えたアリス…。
でもまだ学習中…。
身に付けたことの大部分を失くしてしまった私には、アリスの探求心に頭が下がる思いだった…。
「ジロ。起きて。朝よ。」
「う…、うん…。」
「起きて起きて。コーヒー淹れて、モーニングセットを温めて。」
「分かった…。起きる…。」
アリスは文字に触れ、沢山の書物を読み、豊富な知識を蓄えた。
そのせいなのか、話し方が今までよりも少しフランクになった…。
ニューロとの連携後、アリスの人工音声は、元々の機械的なものから人間の女性的な音声に変わった。
そして、能動的に知識を得た今は、人間の女性そのものように喋る。
頭に生えている腕で、身振り手振りを加えながら会話する。
その様は、少し滑稽にも見える。
…のだが、
出会っ頃の単語だけの片言の話し方に比べれば数段、親近感を覚える。
そして今は、より堅苦しさがなくなった。
そのおかげで私は、より快適な時間が過ごせるようになっていた。
生活に彩りを感じるようになった。
「ランチ、何がいい?」
朝食を摂る前から昼食の話って感じだ…。
けれどこれが、なにか人間的に感じられ私には心地良い。
「運動不足気味…。軽いものがいいな…。」
「軽いのねぇ…?お蕎麦でもとる?」
「いいね…。」
私は宅食のモーニングセットのサラダを口に運びながら軽快に言葉を返す。
なぜか気分が良い。
いつもと変わらぬ朝。
…なのに、とても気持ちが軽い。
何か、
言葉で言い表せない、温かく、優しい、何ものかで、私が満たされている。
この時間が、この空間が、居心地良い。
「ねぇ、ジロ。加湿器買ってもいい?」
「えっ…?うん…。」
この家は、温度調節、湿度調節、住環境の全てが自動に適切な状態に設定される。
これも前の私が設計したものらしいのだが、そんなことは今の私の記憶の片隅にもない。
だから、「何に使うんだい?」と、聞きたかった。
けど、聞いたところで、アリスからは突拍子もない応えが返ってくるはず…。
それに、今の私ではアリスから語られる話は到底理解できない内容だろうから、その言葉は飲み込んだ。
いずれにしても、加湿器がくれば、答えは自ずと分かるはずだから…。
≪続く≫
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