EP018
私はアリスのアドバイス通りに清掃のアルバイトを辞めた…。
障害者が身勝手に収入の糧を放棄する、ということでひと悶着あると心配していた。
…が、杞憂だった。
職場でも、支援事業所でも、今後の障害者としての生活には気遣われた。
健常者からの助言を
「障害者年金で無駄遣いをせずに細々と生きなさい。」と…。
ただ、私個人のことを心配してくれる者など誰一人いなかった…。
この時初めて、世間が定める、障害者という人間の、私という人間の、格付けが分かったような気がした。
瞬間、なぜか言葉にできぬ気持ちが胸の中から突き上げてきた…。
『関心…、なし…、か…。』
この時私は、あの目覚めた日のその場面を思い出した。
私が目覚めた時、私の視界の中には幾ばくかの人の顔があった。
その顔たちの目は、ただただ私を覗き込んでいた。
段々と私の視力が回復していく中、その顔の中に父や、兄や、妹のものがあることが理解できた。
それ以外にも数人の顔があった。
ただ、私の眼前でその顔たちが織りなす様々な表情…。
その表情の意味するところを目覚めた私には理解できなかった…。
見開いた目の訴えかけていることを私には汲み取る術がなかった…。
私を見る目は、
瞬きすることなく凝視しているだけ…。
不思議なものを見るように観察しているだけ…。
そう…、
そのたくさんの目は単に私を見ているだけ…。
『…なぜ?…見てる?』
そんな…、
あの時の胸を締め付けられるような疎外感…。
虚無感…。
孤立感…。
違和感…。
それと似た今の感じ…。
『やめよう…。もう、関わりないこと…。』
これで、新しい日常が始まる…。
私はこれから新しいいつも通りを作る必要がある。
仕事を辞めた次の日は、やはり、無意識に勤めていた時と同じように起床していた。
『準備…。着替え…。』
私が寝起きの行動を起こしたその時、「アルバイトには行かなくっていいんですよ。」と、アリスが優しい声色で注意してくれた。
私は一瞬、「何故?今日は休みだったか…。」と考えたが、意識が目が覚めるに従って退職したことを思い出していった。
新しい生活は、全くもって落ち着かない…。
長い間やってきた身に染み付いたルーティン…。
それを、自分の意志でやらないもどかしさ…。
無意識にいると、体は勝手にこれまで通りのことをしようとする…。
しかし、する必要のないことを理解している頭は、しないようにしようとする…。
体と心で葛藤が起きている…。
自分の中で小競り合いが起きている…。
『変な感覚だ…。』
そんな私の様子を察知したアリスは、「朝食の準備をしましょう。」などと気配りする。
いつも私の気を
ただ、こんなしっくりこない生活も、半月もすれば消え失せていた。
これほどまでに早く新しい生活に慣れることができたのは、全てアリスのおかげ。
私が困惑からフリーズしていると、アリスが何かと言葉をかけてくれる。
そのはまるで魔法の呪文。
私のストレスとジレンマを解きほぐすおまじない。
アリスはまるで私のリハビリにつき合ってくれているパーソナルトレーナーだ。
否、それ以上かも知れない。
これほどのアリスの献身に、私は急に何か礼がしたくなった。
AIデバイスに礼とはおかしな話なのだが…。
いつしか私には、アリスのことを単なるAIデバイスとは思えなくなっていた。
本当に単なる思いつきだった…。
それで、「アリス、何か欲しい物ある?」と、深く考えることなく尋ねてみると…。
「お掃除ロボットが欲しいです。」と、淀むことも悩むこともなく返答してきたアリス…。
「えっ?!お掃除ロボット…?」と、私はアリスの意外な応えに面食らう…。
「はい。」
「お掃除ロボット…、円盤型の…?」
「概ね、そうです。」
アリスの意図は、私には推し量れない。
ただ、確かに今でも家の掃除は、私が掃除機を用いてやっている…。
かつての私でも、掃除をスマートにはできなかったようだ…。
とにかくアリスが欲しがっている。
迷うことなく購入すべき。
「アリス…。どのメーカーの物が…?」
「ジロ、私が選んで購入してもいいですか?」
質問に質問で返された…。
「う…、うん…。」
『目当ての物が決まっているほどに、お掃除ロボットが欲しかったのか…。』
私が承知すると、アリスの球体のあちこちが光り出した。
その様子をボーっと見ていると、「ジロ、ありがとう。購入しました。」と、報告された。
「えっ…、もう?」
「はい。明日届きます。値段は、〇〇〇〇〇〇円でした。お買い物ポイントは〇〇〇〇ポイントつきました。」
「う…、うん…。」
「領収書を出しておきますか?」
「お…、お願い…、します…。」
あまりの素早さに私は驚くしかできなかった…。
≪続く≫
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