第11話 パラグアイ

 ともえは初めてパラグアイの地に入った。南米の奥地かと思っていたが首都アスンシオンは近代的な大都市だった。大統領自らがWRC招致を行ったということで、初の開催であるがやたら盛り上がっている。スペイン語圏の人たちの盛り上がりはすごい。

 開催1週間前の日曜日にパラグアイに入ったが、街中にポスターやのぼりが掲げられ、WRC一色になっている。

 月曜日にチームのクルマでサービスパークがあるエルカルナシオンに向かう。200kmのドライブである。ところどころにパトカーが停まっている。それに警官はマシンガンをもっている。どうやらテロ対策ということらしいが、外国人が襲われるということもあるそうだ。もっとも警官がマシンガンをもっているのはパラグアイだけではない。ヨーロッパの国の多くがそうだったし、韓国も武装警官はマシンガンをもっている。持ってないのは日本とイギリスだけかもしれない。

 エルカルナシオンは人口10万人程度の中都市である。河の向こうはアルゼンチンである。河は海かと思うような広さだ。

 ともえはマネージャーのアンナと同室になった。シングルの部屋は確保できなかったとのこと。それでもシャワーの水はちゃんとでるし、問題ない部屋だった。キャンピングカーで寝るよりはマシだ。

 食事は意外にもおいしかった。ホテルにはみそ汁まであった。日本のT社とSU社がくるというので、日本食を用意してくれたとのこと。もっとも、パラグアイにも日本移民が多くいるので、日本食のレストランも結構ある。食べ物に困らないというのは助かる。

 火・水曜日はレッキ(下見)である。ふだんは1日だけなのだが、今回は初開催ということで2日間のレッキとなった。ここで作られるペースノートが重要な意味をもつ。

 路面状況、カーブの大きさ、石などの障害物、水たまり、ジャンプスポットなどレッキで確認することはたくさんある。本当ならばラリーカーでやりたいところだが、市販車でしか許されていない。ともえはスピードを落として走るだけだが、コ・ドライバーの望宮はメモに忙しい。2日間で食欲がないほどの疲れを見せていた。

「この赤土は、雨が降ったら滑るな」

 と一言。ケニアほどではないが、ヨーロッパのグラベルとは大違いだということがわかった。

 木曜日はシェイクダウンである。そこで、勝山はトップタイムをたたきだした。他のドライバーは様子見だったのだろうが、マシンの調子は悪くないことが証明された。勝山も果敢に攻めていた。ともえは7位となっていた。ちなみに参加台数はT社が4台。H社が3台。F社が2台。SU社が2台の11台である。

 金曜日、勝山はトップグループで走っていたが、SS9でコースアウトして立ち木に激突してしまった。デイリタイアとなった。それまで好調な走りをしていたのに、残念なことだった。ともえは確実な走りに徹した。ともえの真骨頂というか、それしかできないと言った方がいいかもしれない。他のドライバーはパンクやバーストで苦労している。中にはスペアタイヤを1本しか積んでなくて、2回パンクしてホイールだけで帰ってきたドライバーもいた。パンクをしないのはオージーとともえぐらいなものだ。

 初日はロバンペロがトップにでた。パンク1回だけですみ、前回のフィンランドの優勝でのっている。2位・3位にはF社のフルマーとヤナックが続いている。今回はT社とH社の戦いの様相だ。ともえはヌーベルに続いての7位にいる。トップから30秒落ちとなっている。

 土曜日、勝山は昨日デイリタイアしてしまったので、スタートドライバーとなっている。路面のそうじ役をすることになり、土ぼこりをまき散らして走っている。ともえの番になった。あわてずにスタートをきる。赤土の道はでこぼこが多い。ところどころにとがった石が見えている。これを踏むとパンクしやすい。スピードを出しすぎると、ジャンプして着地した途端にパンクという状況に陥ってしまう。ともえは、トップドライバーより1割ぐらい遅いスピードで走っている。かえってそれが功を奏している。

 カーブではオーバースピードにならないように、確実に減速して入る。他のドライバーはそこでコースアウトをし、タイヤを痛めている。

 トップを走っていたロバンペロがタイヤをバーストさせて帰ってきた。大きなタイムロスだ。F社の2台はジャンプスポットでマシンの底部をすり、オイルもれを起こしていた。アンダーガードの強度が足りなかったのかもしれない。

 ともえはロバンペロが落ちたので6位に上がった。代わってトップにたったのはパンクしない男オージーである。2位にはフルマーがくらいついている。

 日曜日、勝山はあいかわらずスタートドライバーをさせられている。次戦のチリに向けてのテストとわりきっている。豪快な走りはしているが、なにせ土ぼこりが多い。タイヤが空回りしている感じだ。水たまりでH社のヤナックがエンジンをストップさせてしまった。ケニアと同じような状況の場所がある。小川にコンクリートの道がある。冠水するとまさに水たまりである。スプラッシュマウンテンみたいに水しぶきがあがる。

 それと雨が降ってきた。いたるところに水たまりができている。スリッピーなんてもんじゃない。滑りまくりだ。でも、ともえはこういう路面はきらいではない。元々北海道がホームコースなので、アイスバーンの滑りは苦にならない。ただし、泥んこは苦手である。

 SS18が終わり、オージーがトップ。40秒遅れでH社のフルマー。その2秒後にT社のエブンス。そのまた5秒後にH社のヌーベルがいる。熾烈な2位争いをしている。5位にH社のヤナックがいて、ともえが6位である。トップからは1分30秒離されている。

 最後のSS19。パワーステージでは2位争いの3台の戦いとなった。

 まずは、ステージポイントを取りたい勝山がタイムをだす。次に順位を落としていたロバンペロが勝山のタイムを抜く。ともえは、勝山のタイムには届かなかった。ヤナックは勝山のタイムを抜き、ロバンペロに続く。そして次に走ったヌーベルが驚異の走りでトップにでた。驚きを見せたのは次に走ったエブンスである。勝山を抜くタイムでステージを走り抜けた。初日は路面のそうじ役を任されており、目立った走りを見せていなかったので、T社のスタッフだけでなく多くの者が目を見張った。そしてフルマーの順番である。彼はプレッシャーを感じたのか、右コーナーでオーバーランしてしまった。勝山のタイムにもおよばない結果となった。オージーは40秒の差があるので、無理をしないで走っている。ヌーベルから20秒遅れでフィニッシュした。パワーステージだけなら、ヌーベル・ロバンペロ・ヤナック・エブンス・勝山となった。ヌーベルはサンデーポイントも獲得した。

 総合ではオージーがトップ。ポイントは26。2位には最終パワーステージで逆転したエブンス。ポイントは21。3位にはH社のヌーベルが入った。サンデーポイントとパワーステージポイントで10点をとったので、ポイント25。優勝したオージーと1点しか違わない。さすが昨年のチャンピオンである。ともえは6位でフィニッシュした。勝山が総合20位となったので、SU社としては来年のデータがとれたと満足していた。

 でも、ともえにとっては疲れる週末となった。ホテルではアンナが心配するぐらい寝入っていたということだ。

 チームの目標は日本での上位入賞である。2人のうちどちらかが表彰台にあがることをねらっている。ともえは勝山のサポートにまわるが、彼がリタイアしたら今回みたいに堅実な走りで上位をめざすことになる。自分の役割はわかっているが、日ごとに緊張が高まってきている。

 次戦は2週間後のチリ。以前にWRC2で走ったことがあるが、SS3でアクシデントにあってしまい、デイリタイアに追い込まれた因縁のあるラリーである。心してあたらなければならないと気を引き締めているともえであった。

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