第6話 ポルトガル

 ともえは、好きなポルトガルにやってきた。昨年WRC2で参加した時は苦しみながらもポイント獲得を果たしたところだ。ランキング上位者は路面清掃の役割を担わされるが、ともえの順番だとそれもない。岩盤の上を走るような感覚になる。グラベルなのにターマックみたいなのだ。

 木曜日、オープニングセレモニーと顔見せのSS1がある。わずか2.94kmの特設コースである。海岸沿いの城塞あとにターマックのジムカーナコースが設定されている。ターマックだが、海岸沿いなので砂ぼこりが激しい。360度ターンや8の字走行もある。観客は大盛り上がりだ。今年ランキングトップのエブンスが2分18秒1でトップタイムをとった。だが、ともえとの差は3秒程度。そんなに厳しいタイム差ではない。問題は2日目の金曜日だ。なにせ1日で10ステージをこなさないといけない。

 金曜日、ともえは朝5時にサービスステーションにやってきた。少し眠いが、適度な緊張を感じている。出走順は、ランキング順なのでエブンスからである。好調の彼も路面掃除役をさせられてはタイムはのびない。2日目を終えた時には7位に落ちていた。ヌーベルもSS2でハーフスピンを喫した。グラベルの上にのっていた小石に滑ったのである。これでタイムを落とし、のちのちに響くことになる。もっと悲惨だったのはH社のフルマーである。SS8でコースアウト。マシンを壊してしまいデイリタイヤとなった。F社のサスケスも大きな石にヒットし、タイムを失ってしまった。勝山は好調で、SS7ではトップタイムをとった。だが、午後になってからは失速気味だ。マシンの調子があがっていない。ともえは堅実な走りで坦々と走る。決して無理はしない。結局勝山は、3位で2日目を終了。ともえはエブンスに続いての8位である。山場の2日目を乗り切ったことでSU社は一安心である。

 土曜日、7つのステージがある。今日も天気はいい。その分、砂ぼこりも激しい。今日からはトップのマシンが最終となる。

 H社のヤナックがリードし、それにT社のオージーがせまっている。3位争いは勝山とロバンペロである。それにH社のヌーベルが迫っている。6位争いはパセリとエブンス、そしてともえである。SS14でロバンペロが勝山を抜いた。やはり勝山のペースがあがらない。どうも、エンジン内に砂ぼこりがはいっているようだ。ともえも同じような症状がでている。エンジンやシャーシーはT社と同じだが、ボディは違う。微妙な違いなのだが、細かい砂には弱い。これからグラベルのコースが続くので、大きな課題となった。

 日曜日。6つのステージしかない。パワーステージのFAFEはSS21とSS24だ。ともえはこのステージが大好きである。昨年1年やってみて、ここはベスト5に入る。2万人を越す観客が道路の両側に立ち、声援をおくっている。そしてジャンプスポットである。うまくいけば浮遊感覚が得られる。

 SS23を終えて、オージーがトップに立っている。ヤナックのマシンはパワステのトラブルをかかえ、2位に下がっている。ビデオを見たらコ・ドライバーがギアチェンジをしていた。3位はロバンペロ。オージーとの差は15秒となっている。最終のパワーステージで取り返すのは難しい。ヌーベルは42秒差でほぼ4位確定だ。勝山は1分42秒差で5位確定だ。やはりエンジンのふけが今ひとつだ。6位争いが激しくてエブンス。パセリ、そしてともえが10秒以内で競っている。パワーステージでミスをしたら順位が変わってしまう。

 最終パワーステージ。ともえがスタートする。午前中にも走ったステージなので砂ぼこりは少ない。ミスなく尾根道のコースを走る。そしてジャンプスポット。ともえは思い切ってアクセルを踏む。姿勢を崩さないようにだけ気をつけた。大きな歓声が聞こえてくる。まさに「フライングジャポネ」の異名どおりのジャンプができた。スポンサーの赤い看板のところまで飛んだのは彼女が一番だった。だが、それ以上に飛んだのが勝山である。SU社のブルーのマシンが空と一体化していた。限界ぎりぎりの大ジャンプでインタビューアーからは「フライングタカ」と呼ばれていた。勝山はパワーステージ4位のポジションをとった。それまでの欲求不満を解消できていた。だが、優勝したオージーが無理をしなかったから得たポイントだ。ともえはパワーステージ6位でおしくもパワーポイントを逃したが、総合8位は満足できるものであった。これからのグラベルシリーズへのいいスタートがとれた。

 次戦は2週間後のイタリア。風光明媚なサルデーニャ島だが、今度は石だらけのステージだ。マシンを壊さないことが要求される。

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