第12話

しかし、なぜ相手に選ばれたのが自分だったのだろう。

「水木もグルだろう。でなければこんな予定は組めない。人事にも手をまわしてたんだな。おかしいと思ってたんだ」

 確かに水木恭平は彼女をコーヒー担当にしたり食事に行かせたりなど、怜也との接触を増やしていた。


 しばらくしてドアがノックされ、従業員が現れた。

 清良からの連絡で、ホテル内のブランドショップで服を数着、見繕ってきたという。

 怜也は幾何学模様の縁取りがついたペールグリーンのワンピースを選び、亜都に渡す。


「とりあえず着てくれ」

「こんな高いもの無理です、買えません」


「代金はいい。せめてもの詫びだ。君もそのままでは嫌だろう」

 亜都は仕方なく受け取り、脱衣所で着替えて部屋に戻った。


 すでに従業員はおらず、怜也が冷めた紅茶を飲んでいた。

 彼は亜都を見て頬を緩める。


「似合ってる。かわいいな」

「ありがとうございます」

 照れた亜都は怜也に促され、彼の向かいに座った。


「なんて言って騙された? 余命宣告で同情しただけではないだろう?」

「断れば会社を首にすると言われました。成功したら報酬は一億円、とも。それだけあれば実家の借金が返せるから……」


「一億か。君を手に入れるには高くはないな」

 亜都は耳を疑った。この発言はまるで自分を欲しているかのようだ。


「なぜ君がターゲットになったか、だが」

 彼は言い淀み、こらえるように顔をしかめた。

 なんだろう、と亜都は続きを待つ。


「君は朝、車のウィンドウを鏡代わりにしていただろう?」

「はい」

「俺はあの車に乗っていたから、君の姿はちょくちょく見ていた」


 亜都の顔から血の気が引いた。

 無人だと思ったから鏡代わりにしていたのに。


「百面相が見られて楽しかったよ。秘書として紹介されたとき、それだけで笑えて、こらえるのに必死だった」

 鼻毛が出てないかな、とか、確認するために変な顔になっていたときはあると思う。それらすべてを彼に見られていたなんて、恥ずかしくて顔に血が昇る。

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